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ウォール街占拠は起こるべくして起こった運動と言えます。
サブプライムローンの破綻とリーマンショックの影響により、米国を始めとした世界は大打撃を受けました。大量に発生する失業、住宅ローンを支えず、購入したばかりの住宅を手放さざるを得なくなった人たち。最も打撃を受けた人たちは、当然貧困層ですが、今回ばかりは、非常に広範囲にわたって、様々な階層の人たちがダメージを受けました。
その中で、お咎めなしどころか、「大きすぎて潰せない」という理屈から政府の支援を受け、また、多額のボーナスをもらい続けている人たちがいます。サブプライムローン問題と、リーマンショックを引き起こした、ウォール街の金融機関の関係者です。
彼らに対する政府の対応は、あまりに寛容でした。というより、実態としては政府も、ウォール街の金融機関と結託しているとしか考えられない状況が続いています。実際問題、サブプライムローンの問題は、政府も巻き込んだ壮大な詐欺といってもよく、資本主義の暴走だけでなく、半分は政府の暴走でもあります。
この状況に、99%の人たちは反乱を起こします。残念ながら、現在ではほとんど沈静化してしまったウォール街の占拠運動ですが、当初は、活動を開始した人たちでもここまで活動が大きくなるとは思わなかったようです。
この著書は、ウォール街占拠が最も盛り上がっていた2011年の11月時点で、著名な活動家たちの投稿をまとめたものです。
どのような形で、ウォール街占拠が行われていたかの生の声が伝わってきます。拡声器の使用を制限された中での「人民マイク」というシステム。アラブ地域で起こり続けている革命運動の影響など、さまざまなな視点から、ウォール街占拠が語られています。
このような、草の根から発生する運動を調べるときに常に感じる点は、かなり偶発的な要素が左右するという点です。一見同じ目的で集まっているようでも、もともと組織化されない人たちの集まりであったり、実は全く異なる文化や利害が入り交じっている中で、活動が行われます。本当にわずかのきっかけや、偶然で、大きく社会を変えるほどの運動になることもあれば、その逆もあります。
日本では、今のところ、このような大規模な運動が起きる気配はありません。原発でダメージを食らっている地域の人たちや、将来のツケを回され続ける若年層も、行儀のよい状態が続いています。実際にウォール街占拠が起きたのは、「敵」が明確であまりにひどかったからとも言えます。日本では、国民性もありますが、問題構造が曖昧なままであることから、このような運動が起きる可能性は今のところ皆無です。原発問題のような巨大な問題が起こっても、まだまだ足りない。先進国での市民運動は、それ程に難しいものです。
このまま永久に私たちはおとなしいままなのか、明確な「敵」が現れることで、私たちの意識が変わるのか。本当に偶然の「何か」によって、世界は変わるのか。「閾値」を超えるのはいつなのか。私たちにとっても、いつまでも無縁の話ではないように思えます。