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植民地化されたケニア。現地の人々はイギリス人のためにドイツ人と戦うことを余儀なくされた。さらに祖先から受け継がれた土地を奪われ、白人に安価な給与で雇用されている。
ケニアは一夫多妻制で、主人公の家族には2人の母親がいるが、異母兄弟たちは助けあって暮らしている。生活は貧しいがその中でも賢い1人の少年が学校に行けるように家族は支援する。教育がないとこれからも自分たちは搾取されるのだろう、だから英語を勉強しなければならない、という彼らの考えに、この本の読者はいささかの矛盾があると気がつくかもしれない。
1952~1956年のイギリス人への抵抗運動として実際に起こったマウマウ団の乱をベースした物語。おそらく著者の家族が描かれているのであろう。あまり馴染みの無いアフリカの名前が多く登場するが、巻頭に人物紹介の一覧あり。
(この本には書かれてはいないが)著者グギ・ワジオンゴはケニア公用語の英語ではなく民族語のキクユ語で創作することを宣言しているそうだが、表紙には英語でのタイトル“Weep Not, Child”と掲載されている。果たしてこれは英語からの重訳なのだろうか。残念ながら翻訳がこなれているとは言えず、日本語が非常に読みにくいが、当時のケニアを知る機会にはなる作品ではある。
この本は英語圏では教材にも使われているらしい。
(参照:ペンギンブックス)
http://www.amazon.co.jp/Weep-Child-Penguin-African-Writers/dp/0143106694
短い要約版もあるようだが、Amazonのレビューではこれでは内容を伝える意味が無いと批判されている。(それは教材として普及しているせいかもしれない)
http://www.amazon.co.jp/Weep-Not-Child-Macmillan-Readers/dp/1405073314
アフリカへの植民地支配は現地人に英語やフランス語の教育、キリスト教をもたらしたが、彼らがこうして自分たちの物語を語り、その本が出版されて”英語で”世界中で読まれて評価されていくという現実は皮肉でもある。世界に対する理解とは何だろう?