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震災(東日本大震災、原発事故)後に大人以上に不安や絶望に直面しているのは、子供たちであり、その子供たちに大人が未来を語っていく大切さを教えてくれる小説。現場の判断力を奪う政治主導や、原発事故直後に国民を保護することを放棄した(出来なかった)こと、無責任なネットデマなど、色々な視点で震災後の政治や社会の問題点を示してくれる。頼りない父親が、息子に生き方を示すために成長していく物語でもある。
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震災後、原発問題が生じた。
政府の対応の過ちもあり、このことが人々の心に闇をもたらした。
国はもはや我々を守ってはくれない、と。
このような不信感が蔓延した国を子供たちにそのまま渡して良いものだろうか。
大人たちには責任がある。
この国を今のようにしてしまったという責任が。
大人たちには、また責任がある。
めざすべき未来を子供たちに提示する責任が。
「未来の対になる言葉は、たぶん将来です。」
人類は文明により繁栄してきた。いくつもの課題を内に抱えながらも。
原発問題も大きな課題である。
経済の発展と、安全・安心の間でゆれる課題である。
原発問題については、SSPSという、ひとつの解決策を本書で提示している。
そこにはたしかに未来が見える。
なるほど、こういう強い言葉が未来を築き、人を動かすのだろう。
我々が悲観しすぎることはない。生まれてきた子供たちにとって、世界ははじめから今ある形である。
課題があれば、これまでそうしてきたように、次の世代がそれを解決していくだろう。
人類は、そのようにして進歩してきた。
未来を提示しよう。次の世代が解決すべき課題と、目指すべき未来を。
そうすれば意志は受け継がれ、未来はきっと実現していく。
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決してドキュメンタリーではなく
あくまでも小説に仕上げておきながら
この味も素っ気もないタイトルに込めた思いが
滲みてくる。
父と息子の物語にもなっているあたりが
涙腺を刺激する。
いつもの福井ではないけど
やっぱり福井であります。
石破茂のあとがきがこれまた良い。
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最初にハードカバーでこの本を見たとき、胸が震えた。
文庫本になって、美しい装丁を手にしたとき、充分な重みを感じた。
でも読み終えたいま、その短さが心惜しい。
文庫本295ページの小説が、決して短いわけはないのだが、
従来の福井作品と比べると短編のようにすら感じる。
(短編集の「6ステイン」と比べたら長いはずなんだけど。
・・・とりあえず、今度また「6ステイン」も読もう 笑)
短編に感じるほど、この作品は大変読みやすい。
多くの人が関心を持たざるを得ないテーマをかかげ、
多くの人の心に伝わる正確な言葉で、
多くの人に共感を得やすいストーリーを語り、
多くの人へ向けたメッセージでラストシーンは埋め尽くされる。
正統的な小説だと思う。
解説の言葉を借りれば、
「世代間の断絶と理解」「公と私のあり方」「個と社会のあり方」がテーマ。
まさしく、福井作品の特徴的なテーマが並ぶが、
決して、使い回しの表現を感じさせない点にも、驚く。
唯一、「男とは・・・」の語りは、おなじみの話。
「生きること、働くこと、死ぬこと……。
なんにでも意味を見つけ出さなきゃ気が済まない。
見つからなきゃ、自分で作ってでもなにかに自分を賭けようとする。
その点、女は自然体だよな」
わたしは女で、確かにいろんな意味付けはしないわね、と思う。
でも、すべてに意味を見出そうとするサガに惚れるのは、
わたしが女だからなのかしら、と考え、
ま、意味なんてどうでもいいわね、とただ文字を見つめてみる。
『他人が他人に示せる善意には限度があり、
それを踏み越えた先には個人生活の破綻が待っている。
まだ社会のなんたるかを知らない少年には、
そんな不文律も大人の欺瞞としか聞こえず、
世界をまるごと救おうと突っ走ってしまうものなのか』
これは中学生の息子を語った、父の言葉。
福井氏が描く、若者と中年男性の関係性は見事なバランスと形だといつも思うが、
今回は息子と父、そして祖父の三世代である。
如月行、フリッツ、一功と朋希・・・
いわゆる女性読者が惚れるスター(笑)の役割が、今回はこの息子かと思いきや、
さすがにそこは中学生。
もっとたくさん動いてくれればいいのに、と思ったりもしたが、
もし彼が歴代のスター並みにかっこよくて、
わたしが惚れちゃったりしたら、それはもう年齢差から言って、
犯罪になりかねない 笑
もちろん、中学生の息子によって、このストーリーは動き出したこと、
未来の象徴として、重要な人物であることは明らか。
さらりと、若者の特徴を香らせているところも、いい。
惚れはしなかったけど、彼のことをとても好ましく思った。
福井作品ファンとして、祖父には、いろんな人物の面影が重なる。
あの小説のあの人の老後は、こんな感じかしら、と
こんな感じだといいな、と願う。
「日本人を日本人たらしめる感性は失われ、
欧米的な合理精神のみが人���動かすようになる。
それはつまり、わしのようなつまらん人間が増えるということだ。
いつでも最善の対処方法を考え、切り捨てたものには見向きもしない。
そうしなければ生き残れないという理屈で自分を正当化して、
誰もが孤独の穴に落ちてゆく……」
「これを最後の任務と思っとったが、結局なにもできなかった」
ファンにとっては、しびれる台詞。
この言葉だけで、いろんな背景をイメージできる。
この作品だけを読む人間には、どんなふうに映るのか想像もつかないが、
きっと深い人間性は、誰の目にも読み取れることだろう。
そして無辜の民の代表である父。
リアリティあふれる無辜の民が、
自然で驚きの変貌をする点もすばらしい。
成長物語ともいえる作品です。
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痛いなぁ~。グッサリと深くまで刺さったなぁ~。
あくまでもノンフィクション小説だとは言え、まさに「震災後」の社会の成り行きと我々の心模様とをしっかりと見据えて書かれた作品。
これを読んだからといって「何か行動を起こそう!」って感じではないとは思うが、少しでも多くの人がこの作品を読んで“闇”を抜け出せるようになればいい。
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途中まで、このトーンで終わったら救われないぞ、と思いながら読み進めていたが、少し希望を感じさせて終わり、後味は悪くなかった。小説というより、ドキュメンタリーのようにも思える内容。決して解決しているわけでもない、現状をあらためて認識させられる。常に「経過」を生きている、と言い聞かせてうまずたゆまず進んで行くことが大切。
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東日本大震災が起こってから日本がどう変わってしまったのか。物語ではありながら限りなく現実に近い、現実でも起こり得るような話でした。
今回の震災で未来を失ってしまった子供たちはたくさんいると思います。主人公、野田の息子もその一人。ですがこの国の未来を担うのは子供たちです。そんな彼らに少しでも未来の可能性を見せようとする野田と、その野田に道を提示する親父の関係性を楽しみながら読みました。
福井先生の別シリーズに登場していた渥美さんの名前が出てきた時は、とてもテンションが上がってしまいました。
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久しぶりの福井晴敏。帯に書かれた言葉を見て、購入。
福島原発事故による放射能問題を小説として書かれています。
この問題の解決方法に正解はないと思うが、細くはあっても光
が見える答えがあった気がする。
離れた地に暮らす私が言っても、説得力はないと思うが・・・
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あのときあんな風だったな、と確認できる小説でした。ただ、おじいちゃんが元国家機関の重要者?重要者いうのは出来すぎかなぁ。
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出版社が違うからと油断していたら、ダイスシリーズとちょっとリンクしていたー!とても嬉しい。
小説の中の震災の話がいまいち実感できなかった。
地震当日は情報がほとんど入ってこない状況で徹夜で仕事していたし、原発の話も理解しようとしないまま毎日過ごしていたから。
小説を読んで、非常事態だったんだと驚いた。
息子に未来を示す主人公。
それに共感できないのは自分がまだお子様の立場でしか物を考えられないからだろう。
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タイトルにある“震災”とは、もちろん、3.11の東日本大震災の事。一般市民の生活に焦点を当て、日本の「未来」について語っている作品。
福井晴敏と言えば、『亡国のイージス』とか、『戦国自衛隊1549』とか、『終戦のローレライ』とかの、戦争モノ・自衛隊モノが強い作家のイメージですが、この作品はそれらの作品群とは一線を画しています。原発事故を下敷きに、親子のあり方、日本人のあり方を描いており、ある意味非常に重い、そして、含蓄のある作品になっています。
読んでいて、最近の原発を巡る騒動にも関連して「そうだよなぁ。」と思うことしきりです。原発の再開にしても全面廃止にしても、もはやエネルギー議論というよりイデオロギー論になってしまっていて、本当に日本の「未来」を考えた議論になっているのかが疑問です。作中の「未来を返せ!」と言う少年のセリフを、もっとちゃんと考える必要があると思いました。
タイトルは地味ですが、内容は重厚で充実しています。考えさせられました。
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震災から1年経った今、是非読んでもらいたい作品。
文章の中には、戦後社会の歴史と現状に対する深い洞察に溢れている。
それを全肯定、というわけではないんだけど、全体としては鋭い洞察であると思うし、読者としても心に留めるべきだと思う。
「『未来』の対になる言葉は、おそらく『将来』」。本文中のこういった言葉が、非常に印象に残った。
最後に示されるものの具体的な内容は陳腐といえば陳腐だろうけど、現在の社会を深く分析し、「未来」を示すことの重要性も提示しているこの作品は、なるべく多くの人に読んで欲しいし、特に僕達若い世代には強く勧めたい。
福井さん、文章が少し柔らかくなった?
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不勉強なものでこの小説に書かれていることがどこまでが現実なのかはわからない。
しかし、ページを進ませるエネルギーは半端なかった。
野田の最後の演説は福井さんの作品だなーと思わさせられるが読み切らせるだけの力があったように思う。
あと、いつものことながら福井さんの作品は親父がかっこいい。
そして女が強い。
震災から少し時間がたち少しずつ忘れかけていた3.11あたりの記憶がよみがえった。
また、時間がたったら読みたいとおもえる小説であった。
次は自分の子が生まれたときにでも。
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震災後、なかなか答えが出せない山積みの問題。作者は鮮やかに定義し、苦悩しながら答えを出す。なかなか考えさせられる作品。
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久しぶりの福井晴敏。読み始めたときは、福井は原発廃棄路線でこの物語を綴るのか?という思いで読んでいた。物語は中盤から、震災後の日本を語る話から、一家族の話にスケールダウンして行く。その一方で、父が子に、親に語りかける言葉から、むしろ日本や近代社会への思いが強く伝わってくる。原発への思いは人其々だけれど、原発反対の人も、容認の人も、是非読んで欲しい作品だった。新幹線の中でちょっと泣いた。