紙の本
孤立するな。制御せよ。
2012/11/04 18:15
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投稿者:kc1027 - この投稿者のレビュー一覧を見る
今の社会がどう成り立っているのか、それを問うことは今の社会の来歴を丹念に追うことであり、明治維新以来のこの国の近代を問い直すことである。今は明治維新と戦後に続く変革期にあると言われて久しい。結局変革とはどんな営みなのか、それが本書にはある。
1857年から1937年までの80年間を「改革」「革命」「建設」「運用」「再編」「危機」の6つの段階に分け、崩壊の入り口に立ったところで終わる本書は、まさに今危機のただ中にあるこの国にとって、時代への対処の仕方の格好の手本を提供する。
西郷隆盛を通じて、革命とは合従連衡の産物に他ならぬことを提示し、組織の中でバランスされて初めて成り立つものであることを告げる。大久保利通とそれに続く維新の元勲を通じて、建設は革命の精神の発展的展開の中でしか成し得ず、それは詰まるところ革命の主体となった身体を乗り越えて運用の中に落とし込まれることであることを教える。伊藤博文や山縣有朋らを通じて、複数の理想は、目まぐるしく動く社会状況の中で激しく優先順位を交差させながら並行して実務的に運用されてこそ具体化していくことが分かる。
1894年の再編期以降の混迷状態は、統率する大きな主体の消失、成熟の間に合わない大衆、暴走する世界情勢に翻弄された記録だ。当時の日本人が本当に愚かだったのかどうかはわからないが、革命があまりにも成功し、急速に成長してしまった組織体がそれに見合う制御装置を持てなかったことは確かだし、それは戦後にも繰り返されて、その成功の余波は今に脈々とつながっている。
自国の歴史は栄光の中にだけあるわけではないし汚辱にばかりまみれているわけではない。世界史的に見ても稀有な成功もあり世界史的な失敗もあった。その中で日本近代史が伝えてくれるものは、下り坂に入ったときの対処だ。孤立してはいけない。互いを制御しながら新たな秩序を生み出す合従連衡が、変革への道だ。
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代償としてその後半年間の東北戦争を伴う江戸無血開城が明治政府の名ばかりでない関東・東北支配につながったこと、大隈重信が継承した大久保利通の殖産興業路線と松方デフレの類似性、普通選挙制と二大政党制に加え社会民主主義的要素を多分に含む吉野作造の民本主義など、いまさらながら勉強になりました。大学受験の際の選択は一応、日本史なんですけどね。
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日本近代史の1850年から1940年の90年を、6期(改革期、革命期、建設期、運用期、再編期、危機期、崩壊期)にわけて、通史として述べた本。
日本史の特に近代史を知っている人にとっては、きっといろいろな史実が関係し、1つの歴史の流れを作っていることに興味がわくとは思うが、自分があまり日本近代史に詳しくなく、新しく知った史実が多すぎて消化不良だった。
ただし、最後の最近の日本の大地震を1945年の終戦に次ぐ復興と考える人も多いようだが、著者は政治家が小物化した危機期の方が近いのではないかと考えている。「智者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」の言葉のように、歴史をもう少し勉強するべきなのではと感じる本だった。
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結構分厚い新書ながら一挙に読めて面白い。
政治の主導権を誰が握るのか、どういった構想が支持を得られるのか、さまざまな政治主体が絡み合う複雑な日本近代史(1857-1937)を改革、革命、建設、運用、再編、危機6段階に分けて叙述され、説得的な説明・解釈がなされている。ただし、これはあくまでも政治史から見たネーミングであるので、その辺は気をつけたい。例えば、1880年代、松方財政の始まりとともに政治上の勢力としての「富国派」は挫折するが、民間主導の経済発展はまさにこの時代(運用の時代)から始まるのだから。
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東京大学名誉教授(日本近代政治史)の坂野潤治(1937-)による、近代日本における憲政史概説。
【構成】
第1章 改革 1857-1863
1 「尊王攘夷」と「佐幕開国」
2 西郷隆盛の「合従連衡」論
3 単独出兵か合従連衡か
4 「尊王攘夷」の台頭と薩長対立
5 混迷の文久二年
第2章 革命 1863-1871
1 西郷隆盛の復権
2 公議会
3 薩長同盟
4 「公議会」か「武力倒幕」か
5 革命の終焉
6 「官軍」の解散と再編
第3章 建設 1871-1880
1 「建設」の青写真を求めて
2 「強兵」と「輿論」
3 「富国強兵」と「公議輿論」
4 「公議輿論」派の分裂と「富国」派の全盛
第4章 運用 1880-1893
1 農民の政治参加
2 「富国」路線の挫折と立憲政体構想の分化
3 「強兵」の復権と日中対立
4 憲法発布と議会開設
第5章 再編 1894-1924
1 積極主義と立憲政友会の結党
2 日露戦争と政界再編期待
3 大正政変
4 「民本主義」の登場
5 「憲政の常道」と「苦節十年」
6 原敬内閣と「民本主義」の対立
第6章 危機 1925-1937
1 内政・外交の両極化
2 危機の顕在化と政党の凋落
3 危機の渦中の民主主義
4 「危機」から「崩壊」へ
本書はそのタイトルに日本近代史を謳っているが、その中身を見れば、憲政史の通史と言えるだろう。外交史でもなく政治過程論でもないので、痛快さも泥臭さもない。政体の模索-確立-運用のダイナミズムが示されている。
冒頭から一般的な通史とは異なる分析が連続する。幕末史を尊王-佐幕、開国和親-佐幕という二つの二項対立だけではなく、いかなる「政体」を求めるかという点、その軸に西郷隆盛を据えるあたり面白い。そして、諸侯からなる上院と志士層からなる下院の合従連衡を目指すステップの具現化が「薩長同盟」であり「薩土盟約」であっと論じる。
ただ、辞官納地した大大名・徳川慶喜に対して、新政体における薩長のプレゼンスを維持せんがために武力討伐に踏み切る部分については、やはりしっくりこない部分がある。
憲政史である本書のクライマックスは明治新政府が憲法を制定するまでの過程すなわち、第3章と第4章となる。
征韓論争、台湾出兵、西南戦争を経て、西郷が死に、木戸・板垣が野に下った。
残ったのは大久保が唱道する「富国」つまり殖産興業への道であったが、これも早期に限界が見える。その限界の主因となったのが、唯一の直接国税にして、金納固定税であった「地租」であったとは、これまで意識したことがなかった。
しかし、1880年代の農民民権の拡大、議会開設直後の初期議会が地租軽減を叫ぶ地主層の意見表明の場となったことを考えれば、この租税の重要性は計り知れない。
西南戦争後の松方財政によるデフレ政策と、山縣有朋による軍拡志向の板挟みにあったのは地租を納める農民であった。結局は規模の小さな自作農が没落し、地主の腹が肥えて、減税を訴える求心力となった。
本書の面白さは帝国憲法の特色を、天皇大権等(後半の章で触れているが)ではなく、予算編成と徴税権に求めるところにある。しかし、著者が主張するこの文脈を押さえることで、その後の自由党から立憲政友会へのブリッジが見えてくる。
伊藤博文が総裁に座った立憲政友会の設立以降の政治史については、坂野氏自身の先駆的な研究成果も相まって、これまで他書において十分語られてきた内容とそう変わらない。
紙幅の関係もあるだろうが、原敬や浜口雄幸の人物像にしろ、本書における政友会と憲政会(民政党)の政策軸にしろ、いずれもやや単純化し過ぎているように感じる。
ごく短い期間ながら機能してはずの、政党政治がなぜ機能不全に陥ったのかについては、その時々の情勢もあろうが、もう少し構造的な課題があるのではないか。
しかし、いずれにせよ、政党政治・議会政治の危機に瀕していた1935年に、最大政党であった政友会が、美濃部達吉の天皇機関説を批判し、議員辞職に追いやったことが、近代日本の議会政治の未熟さを象徴していたと言えるだろう。
評者はこれまで、まともに日本近代史を勉強したことがなかった。
そのため日本の近代が築き上げた構造について、考える材料すらもたなかった。
本書はそのような勉強不足の人間に、考える材料を提供してくれる格好のテキストである。
政治を形作る場である「議会」とそれを支える「憲法体制」がいかに確立され、運用されたのかを知ることで、日本近代史が破滅へと向かった原因一つが見えてくる。
それにしても、法律学の学者が言う大日本帝国憲法の特色と歴史学者が提示する大日本帝国憲法と議会政治の運用はなぜかくも乖離しているのだろうか。言うまでも無く、法学部の教科書に指定されている憲法の本よりも、本書の方がはるかに明治憲法体制の本質を論じている。
実証主義を旨とする歴史家にとって、通史を書くのは並大抵のことではない。
しかも日本近代史80年の通史である。
新書とは言え450頁あまりとなるこの大著を完成させた近代政治史研究の泰斗に改めて感服する。
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最近、世界史の本が売れているようだが、これも読んだ方がいい。大抵の高校は、明治・大正・昭和まで辿りつかないで3学期を終えてしまうため、肝心の近代史への理解がないまま社会人となり、海外の人と渡り合うことになる。尊敬される日本人であるために…。
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新書にしては大部です。幕末維新から日中戦争が全面化するまでにいたる日本の近代政治史を、碩学の学者が一人で、しかも新書なので専門家向けではなく一般向けに、まとめ上げた労作です。きちんとした史料に裏付けられながらも、かなり大胆ともいえる整理がされていて、近代政治史の流れが掴みやすく書かれています。ある意味では、現代の日本を理解する上でも良書です(そこに作者の本当の意図があるのかもしれません)。非常にお奨めの一冊です。
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新書なのに400ページもあるので読むのは大変ですが……これは今年出た新書のなかでは一番のオススメ。明治維新とは、自由民権運動とは、大正デモクラシーとは、など、根本から実証し直す、著者渾身の一冊。
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坂野さんはいつも骨太の政治学史をかく先生。
今回の書は、新書だが厚さが2センチもあり、力が入っている。今の政治情勢についての警告の書。
まず、西郷隆盛の合従連衡の話から始まる。西郷は、様々な主張を持つ、各藩主と有力志士たちを、勤王という観点だけでまとめあげて、それと佐幕との対決という構図にもっていって、明治維新を成功させた。
もちろん、戦術的には多くの間違いと多くの犠牲があったが、近代国家になるための政治体制の変革をなしとげたといえる。
それに対して、昭和に入ってからの日本の政治、軍部、行政は、細かく主義主張がかわれ、合意形成がはかれない。結局天皇陛下に従うといいつつ、誰も責任をとらない体制になってしまっている。
坂野さんは、今の政治・行政の状況は、この、主義主張が些末な観点から分裂している昭和初期の状況に似ている、この結果は、一貫した政策をもたずに、どろぬまの戦争に巻き込まれていく。
坂野さんは、復興は第三の敗戦ではないという。第二次世界大戦の敗戦によって、外圧とはいえ、平和・民主主義という思想の統一ができた。今は、政治・行政・外交にコンセンサスがない昭和初期に似ていて、このままでは、崩壊の道を歩んでいるという強い危惧をもって書き上げた本。
自分は、行政マンとして、混乱した政治情勢、予算や法律が事前予防では通らない現実を踏まえて、できるだけ継続性のある地道な政策をできる範囲で続けていきたいと思う。ひとりひとりが、行政、政治、民間の立場で、日本の安定と復興のために地道に動く、そして地道な活動をお互いにばかにしない、という愚直な思想が求められていると思う。
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ものすごく長かったけど、すごい濃さです。
政党政治を安易に信じるなかれ。
しかしそれに変わるものはあるのだろうか。
わが国の混迷は続く。。
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本書は、明治維新から太平洋戦争に至る日本近代史を①改革期⇒②革命期⇒③建設期⇒④運用期⇒⑤再編期⇒⑥崩壊期の6つの期間に分け、歴史をある種のバイオリズムの繰り返しに見立てていて現代への示唆も同時に与えてくれます。
それぞれのステージで抱える課題や陣容は異なりますが、共通しているのは、自らが信じて進むべき正義をかざした各集団が、時に争い時に大同団結をするという権力奪取・維持の歴史ということ。すなわち、
外様藩、下流武士層、藩閥、官僚、自由運動家、財閥、左翼・右翼政党、軍閥などのアクターが、公武合体、尊王攘夷、尊王倒幕、富国強兵、殖産興業、立憲選挙・デモクラシー、ファシズム・大東亜共栄などのスローガンを掲げて勢力闘争を繰り広げてきた歴史とも言えるように思えます。
今の日本は6つのステージのどこに位置付けられるだろうか、そんなことに想いを巡るには適した良書です。
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結論からいうと、自己の歴史的評価ありきの本。
つまり、自分の歴史的評価に合うような事実だけを都合良く取り出している。
文献の引用でも、自分の歴史的評価に沿わない文献については、省略という形をとっていて、排除している。
本来、事実があってそれに対する評価をするのに、この本はそれすらできていない。
それが明治憲法の統帥権の独立などの条文について、「悪法である~」という記載などに表れている。
内容は片面的で、非常にバイアスがかかっているので、私はこの本をお薦め出来ない。
紙幅は400ページ以上に及んではいるにしては、記述自体はそれほど濃くない。
中公新書の「昭和天皇」、「伊藤博文」、ちくま新書の「宮中からみる日本近代史」はお薦めです。
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幕末から日中戦争までの大きな流れを掴むことができる良書。
日本近代史を「改革」→「革命」→「建設」→「運用」→「再編」→「危機」に分類し、前後の繋がりをうまく関連付けながら考察している。
幕末から維新については西郷隆盛の「合従連衡」論を軸とするポイントが史実を整理する上で興味深かった。
以下引用~
・どのような革命も、「体制内改革派」と「体制外改革派」の一時的な提携なしには成功しない。・・・日本近代史では前者を「公武合体派」、後者を「尊王攘夷派」と呼んできた。
・西郷にとって一番大切な「合従連衡」の相手は、有力大名ではなく、その家臣の中の「改革派」であった。この「改革派」は「開国派」であっても「攘夷派」であってもかまわなかった。
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新書だが2cmの分量。日本近代史の流れを7つの段階に区分し、最後の「崩壊期」を除く6つの段階を通観する。
憲政会と政友会の対外路線の転換の部分は、他の文献に比べ詳しく書かれており非常に勉強になった。
久々に一気に通読した。現代の政治状況も見据えているので、教材研究の参考にすべき良書。
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幕末から日中戦争勃発までの通史。
この本によって、自分の近代史の知識がいかに不足していたかを知った。
特に明治後半から昭和にかけての政治史。
政友会と憲政党という二大政党が争っていた事など
すごく基本的な事柄のはずなのによく知らなかった。
今後、近代史を学ぶ上での基礎になりそうな一冊。