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実母や実弟に常に振り回され翻弄され詐取され続けてきた奈津子の「あんな生活」。逃れるように結婚したその先に待っていた現実は、脳の病気によって身体が不自由になってしまった夫・太一の介護。しかも太一はとても無神経で図太い性格。理不尽や不条理だらけの自分の人生になかば諦めに似たような醒めた感情を抱きながらも、従順に世話をする奈津子。
思いつきで奈津子は想い出の場所に太一と旅に出て、今よりももっと不幸だった「あんな生活」時代を皮肉混じりに思い返す。
矛盾だらけで、理不尽で、不条理で、不公平な人生に嘆き、生きる気力すら失われていた奈津子だったけれど、最後にふと、太一の前向きさに救われていることに気付かされる。
太一は自分の身に起きた不幸を嘆いたりしない。矛盾も理不尽も不条理も不公平もすべて、呑み込んでたやすく受け容れてしまう。ただ、人生は海のような潮の満ち引きがあるだけで、変化を怖れることはないのだと。
改めて、私自身の夫の良さに気付いた。まさに太一のような人で、その良さは、こんな風に文章にしないと正確に伝わらないのかもしれない。
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母と弟に振り回される中、夫の介助で自分を取り戻していく。明るい話では無いけれど、少なからず、誰でも感じた事のあるわずらわしさではないだろうか。併設「99の接吻」の方が読み易かった。
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冥土めぐりというタイトルは面白い。
裕福だったころの祖父母、今はもう年老いた甘やかされて
育った母親。地獄の鬼のように主人公の足を引きずる弟。
ふわふわと天から頼りなく伸びてくる蜘蛛の糸のような
存在の夫。
堂々巡りを繰り返しながら少しずつ遠心力を強くし、
いつか彼女を縛るすべてのものから解放される予感を感じた。
それは出奔や死ではなく、静かな満足感あふれる諦念ではないか。
99の接吻はすごく生々しい。原生物の生存競争のようだ。
取り込まれみずから他生物の養分となることを祈る末の妹。
不思議な作品。
でも、あまり好みではない。
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作家生活14年という経験が成せる文章技術を感じる。
主人公が抱えている背景は重く、作品を覆う不穏な空気感が時に重苦しく感じるが、不自由な病を患った太一の、無邪気で純朴な人柄がこの作品に柔らかい光を当てている。
それこそが、主人公を救う鍵として。
同時収録「99の接吻」
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『文芸春秋(2012年九月特別号)』にて本タイトル作品のみ読了。
う~~ん、この作品、良いのか悪いのかさっぱりわからないです。
読みにくくはありません。
芥川賞選評委員 島田雅彦氏
一人の労働者が三人の無産者を養わなければならないという今日の日本が置かれた状況のリアルな寓話にもなっている。福祉国家の破綻は不可避だが、実際にどのような事態になるのかは、これまであまり書かれることがなかった。」
芥川賞選評委員 宮本輝氏
「鹿島田さんの小説につねに漂よっているレトロな少女趣味が好きになれないからだ。」
この両先生方の論評がすべてを表しているように思えます。
団塊世代、団塊ジュニア、そして現代日本が抱える問題点を暗喩しているかのような深さもある反面、どこか少女趣味な安易さも感じられる。
短編ということもあるが、個人的には、作者の文体が嫌いではないだけにもっと踏み込んだ大作として読みたかった。
ただ、昨今の漫画チックな小説が流行るなかでは、小説らしい小説だとは思います。
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だめだめな母親と弟から離れられない主人公にいらいら。でもこういう家族関係って実はあるよなと思いつつ読んだ。
結果、そういう考え方に至れて納得できたならよかったよねと思った。
感想が浅くてすいません。
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人は皆回想の中に生きている。
年をとったせいか私は、近頃頓にそう思う。そのことに気づかずにいたのは、前へ前へと、あるいは上へ上へと生き急ぐ若さが目を眩ませていたからに過ぎない。立ち止まり、あるいはゆっくりした余裕のある速さでだけ進むようになると、自分が進む一瞬一瞬が限りなく続く過去に現在を積み重ねていく営みであることが見えてくる。
この『冥土めぐり』を一読し、上手いと感じ入ったのは目の前に展開する現実の流れに対して、時折挿し挟まれる回想の自然な入り込み方、流れに一抹の淀みも生じさせない記述である。
一例だけを挙げると、主人公の奈津子は夫とともに観光地の美術館を訪れる。そこであまりにも平穏に食卓を囲む家族の肖像画を観る。まず、「こんなに平和な家族が本当にあるのだろうかと、奈津子は作品の光景を疑う。そして、何かをたべるという姿が、こんなに慎ましやかであるはずがない」と思う。その思いは、主人公の血の繋がった母と弟という家族の異様性と、障害者の夫の無邪気な真っ当さというこの物語の舞台の基本構造を読む者に念押ししながら、次の回想から始まる本来なら大仕掛けの回り舞台のような転換をさらりとやってのける。
≪なるべく高い店に行こう。
ある時、男がそう言ったのを奈津子は覚えている≫
という具合に極めて軽妙に、トラウマとなっている彼女が若い派遣社員だった頃のセクハラ訴訟の経緯について物語は転換する。
今日の日本の物語の眼はすべて過去に向けられているのではないだろうか。素晴らしいと思える作品の多くはすぐれた回想、すなわち良く描かれた過去で構成されている。失われた20年といえる時代、前へ上へという未来志向の疾走が過去など忘れさせてくれたそれ以前のバブル、高度成長、戦後復興、軍国、維新以来の富国強兵といった近代以来のいかなる時代とも異なる段階に私たちは到達してしまったのではないだろうか。
だから、言い過ぎかもしれないが今の物語は全てが過去志向であり、過去への向かい合い方において最も巧みな物語が、今最も優れた物語なのだ、と言えるのかもしれない。思いがけずこの一冊を手にし、一読し、凄いと思い、その凄さが一体何なのか私なりに考えたひとつの結論である。
『週刊ブックレビュー』という番組が終了して久しい。
毎回3人の書評ゲストが紹介する本はさることながら、回ごとの3人の掛け合いがいつも興味深くて喰い入るように観ていた時期が長くあった。多岐にわたる分野の「書評ゲスト」は、自らも何らかの本を書いているというのが唯一の共通項で、書く人が他人の書いたものを評するという枠組みの中で、常に一定水準以上の熱のこもったやり取りが担保されていた。桜庭一樹と川上未映子が直木賞と芥川賞を獲った時、候補作となった多くの作品はほとんどがもう読んだ作品で、読んでいなくても知らない作家知らない作品はひとつもなかった。両方の賞の受賞作もぴったり予想と期待のとおりだった。生涯で最も小説を読んでいた時期だった。そしてそれは、毎週深夜や早朝のとんでもない時間帯に私の眼を釘づけにする『週刊ブックレビュー』により知った本、読んだ物語であった。出張先のビジネス���テルで深夜に見て、朝地元の書店に駆け込むようにして一冊を買い、帰りの列車の中でもう読み終えていた。そんな日々が懐かしい。
教養としての読書というものの終焉が時代の宿命なのだろうか。あの番組を懐かしむこと自体がすでに回顧趣味であるのかもしれない。
この一冊を手に取ったきっかけは芥川賞受賞作という触れ込みからだが、誠に失礼ながら鹿島田真希さんという著者のことも全くしらなかった。だが、今の時期コンビニやキヨスクに並ぶ文芸春秋にも受賞作であるこの物語は全文が掲載されている。ひと頃よりも読書から遠ざかりつつある私のような者の眼にも、否応なしに飛び込んで来てくれる。お陰で久方ぶりに時間を忘れるような快い読書のひとときを過ごすことができた。
正直言って今日本の読書文化は崩壊の際だ、読書は万人の教養としてではなく、古典芸能や武道かお茶お花みたいな、極めて個人志向の趣味の世界に収縮しつつある。
せめて、「芥川賞」とか「直木賞」といった文学賞の類だけは、キヨスクの前を通り過ぎる私たちに、「もしかしたら今読むべき一冊はこれかもしれないよ」と教えてくれる最後の≪おせっかいな書評ゲスト≫として、無くならないで生き残ってほしいと思う。
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2012年、芥川賞受賞作。
過去の回想と、いまの平凡な生活を、いったりきたりと、物語は進みます。作品中にも描かれているように、美術館の絵が、自分の眼前を一枚一枚通り抜けていくように。
キレイな絵も、残酷な絵も、意味がわからない絵も、いろいろあるけど、それらが流れていったあとに残るのは静かな美術館のような日常で、また新しい絵ができてくるんだなって思いました。
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芥川賞受賞作ということで読んだ。しかし、この作品の良さが理解できず、面白いとも心に沁みるとも思えなかった。
文藝春秋に掲載された選評を読んでみたが、どれもしっくり来ない。主人公の奈津子に加えられる理不尽と、それに救いをもたらす太一の存在を描いているという構成については分かるが、理不尽に慣れたかのように無抵抗に受け入れてしまっている奈津子にも、無茶苦茶な母や弟にも共感できる部分がなく、常に傍観者的に読み続けた。残念ながら、最後までその状態が続き、高揚することもなく終わってしまったというのが正直な感想。
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芥川賞受賞作。 登場人物のキャラ設定がやや突飛で、しかも物語がそれに依って成立してる感が否めず。読みにくいということはなかったが。該当作がない年は、正直になしとすればいいと思うけど、そういうわけにはいかぬ出版事情があるのですかねぇ。辛口ならすみません(苦笑)。もう少し普通の人々なら、どう書くのか見てみたい。
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太宰の斜陽を思わず再読せずにはいられない短編。
主人公が家族を見つめる視点はかなり冷めていて,現実的。
もはや諦念,ってとこでしょうが,いやらしさは全くない。
カラッとした読後感でした。
※悪くない,いや,秀逸。
でも場面設定にちょっと無理があるような気がするので,★4つ。
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田中慎弥氏の破壊的・破滅的でずぶずぶと因縁の渦に嵌っていく感じや、円城塔氏の革新的かつ超現実的な、意味をとりにくい不思議な世界観を見せられたあとの芥川賞受賞作品だからか、非常に読みやすく、歪な母娘関係といった心の闇が描かれているものの、直木賞の様相を呈している気さえした。
選者が変わったからか、それとも前回からの反動か、はたまた時代の変化が映し出されたのか。どれも当たっているし当たってはいないとも思う。
筆者の鹿島田真希氏の向こう14年の大作、という作品へ傾けられた並々ならぬ想いと技術の成熟が受賞へ導いたともいえ、複合的な理由がそこにあるように感じた。
毎回、『文藝春秋』を通じて芥川賞作品を読むのが私の通例となっているが、選者の品評と受賞者のインタビューを合わせで読むことで、作品に対する自身の意見がクリアになる。
今回は黒井千次氏の選者退任の胸中も吐露されており、感慨深く受け止めた。
作品自体については、上述の通り、奇を衒うところがなく静かに淡々と読み進められるものだと感じる。
人生で最も輝いていた時代の記憶に縋り、再びその過去を体現させたい母の願望。それをそのまま引き受けるように強いられる主人公の娘。
人の一生の繁栄と凋落を今や廃れた海沿いのホテルというひとところにまとめて、灰色を思わせる背景と人物の描写が遣る瀬なさや悲哀を醸してから、微細な変化のようではあるが、最後には停滞からひとつ大きく前進する主人公を描く物語に、等身大の現実を見た気がした。
地味だが、しなやかさがある。
筆者のインタビューにこうある。
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■不安を抱えている人って、お酒を飲んで自暴自棄になったり、ギャンブルにはまったり、あるいは趣味でも音楽でも、何かに依存することによって不安を忘れようとしますよね。
■人を縛るということは人に縛られるということです。何かを所有するコレクターは、集める『もの』に縛られ、依存しています。ほしいという気持ちは囚われているのと同じだと思います。
相手を縛りたい、自分だけのものにしたいと思う人は、逆に縛られ、奪われていると思うのです。その煩悩を人はなかなか捨てられませんが、本当は捨てるべきものなんじゃないかということを、この作品を通して書きたかったのかもしれません。
■理不尽を理不尽として書くだけではなく、理不尽を受け入れるところまで書いたのがこの作品における自分の成長だったのかなと思います。
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何かを欲しいと思う気持ちは、そこに希望があるからだ。
何も要らないと思えば、そのまま冥土へ行くときだ。
主人公の奈津子が冥土へ行くことを思いとどまったのは、太一という聖愚者ともいうべき夫を失ってはいけないと思ったからだった。
それは、灰色の過去を捨てて、別の何かを欲しいという気持ちが芽生えた変化である。
受け入れて消化して排出すれば、新たに受け入れるスペースができる。
世の中は理不尽でできているけれど、仕組みはとても簡単なんだなと思った。
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何といいますかいかにも「芥川賞!」な作品だと思いました。
もう最初からじーっと重苦しい空気感がありありです。
人の幸せって何だろうな、ということを考えました。
幸せというのは傍から見ていては全くわからないものだとも。
「冥土めぐり」とはタイトルが秀逸です。
一緒に収録されていたもう一遍もこれまた何というか息詰まる
話で。グロテスク、とも言えるけれども閉塞された地域、人間関係の中で生きる哀しみを感じます。
この方の作品、初めて読みましたが好き嫌い分かれるでしょうね。
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どうしてこうも現実の状況にリンクする本を選んでしまうのか…。いや、この本はそちら側の家族から勧められたんだった苦笑 詳細と性別は違うけど、家族の考え方が合わない女と、その夫。この夫に当てはまるあたしは、うちのを少しでも救えてるかしらね…。1番いいのは助ける!などと意識せずに、一段でも楽なとこに上げてやることなんだろうけど…。むむ、実はこの夫も妻を救うべく計算してるんかなー?だとしたら益々尊敬しちゃう!あたしもこんな人でありたいな。
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『冥土めぐり』芥川賞らしいというか、イライラとさせられる家族関係に太一という障害者の夫、いろんな意味で救いが無い。
『99の接吻』雰囲気が桜庭一樹に似てて、しかもさほど面白くない。あり得ない4姉妹の女の濃密な世界。