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「コレクティブハウスのすべて」が分かる本。これはサブタイトルの通り。
5章の対談で、上野千鶴子さんが、コレクティブハウスのもやもやした部分に突っ込んでくれていて、良く理解できた。
上野さんの批判は、次の点。
①小谷部さんにコレクティブハウス居住歴がないのが腑に落ちない(理論と実践の乖離)
②コレクティブハウスはどこでも・誰にでも選択されうる住まいではないのではないか。生協と似ていて、共同で「安全」にお金を払う価値を見出す中間層が選ぶライフスタイルであり、それ故リッチな都心や下町には馴染まない。
③日本でコレクティブハウスが普及しない要因は、生活の一部(調理など)を共有する暮らし方に必然性がないからではないか。反例が、食事を有償で提供する高齢者専用賃貸住宅の全国的普及。
①は小谷部氏の価値観なので、黙殺。②はその通りだと思うが、一億総中流の日本では、中間層の母数が大きいので、コレクティブハウスがブームになる可能性は否定していない。しかし、実質日本でのコレクティブハウス供給の担い手はNPOコレクティブハウジング社に限られていて、ネームバリューの割に実例は多くない。その原因を指摘しているのが③で、要はコレクティブハウスは、高齢者(要援護者)が互いに支えあって生きていくための必然的な選択肢ではなくて、あくまでそれぞれが自立しつつ、他者との気持ち良い共生を楽しむための暮らし方である、ということ。小谷部氏は普及の阻害要因を「補助金が少ないこと」と主張するが、個々人の暮らしの「豊かさ」のために公的資金を投入するのは難しいし、つまりコレクティブハウスが「社会的住宅」として認められない理由はここにあるのだと思った。
タイトルは、家族用戸建て住宅、一般集合住宅に次ぐ3つめの選択肢としてのコレクティブハウスの可能性を期待したものだが、上記の理由から、日本ではコレクティブハウスは「第3の住まい」には成り得ないのではないか、というのがこの本を読んだ時点での感想。