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8作目。題名から分かる通り、IT絡みの犯罪で、スウェーデンに居ながらにして世界中に影響が及ぼされる大規模な企みに、アナログ世代のヴァランダーが技術的なことはお手上げのため若い世代や専門職に任せながらも表面的なちんぷんかんぷんな技術的なことに惑わされずに犯罪者の心理と目的と動機を読み取ろうと想像力をふりしぼります。ことの始まりは十代の少女二人がタクシー運転手をハンマーとナイフで襲って金を奪い逮捕され自白もするが一切動揺も後悔もしていないことにイースタ署の警察官たちの方が動揺する、という強盗傷害事件なのですが、少女の一人が脱走したと思ったら殺されて発見されるという衝撃の展開に。一方で夜の散歩中に突発的な発作か何かで中年男性が突然死したものの事件性はないと思われていた件が遺体が何者かに持ち出され(!)、発見された場所にまた戻されるという不可解なことが起こり、さらにまったく関連性がないと思われていたこれら2つの案件が何らかの要素で関連しているらしいことが分かってきて、、、。いつも満身創痍のヴァランダーですが、数年前に父親を亡くし、元の妻とは心が離れたままで、その後数年遠距離ながらも良い関係が続いていたバイバとは別れてしまい、友情を感じていた検察官は警察を一時離れてまったく別の仕事をするためアフリカに行っていて不在で、さらに古い友人のステンに遂に農場を売って旅に出ることにしたと言われて孤独感を募らせて居ます。自分の望む人間関係をうまく保てず新しい関係を築くことも苦手なヴァランダーは、自分の心のなかにもファイアーウォールがあるのだと比喩的に考えるのでした。犯罪に絡む人間の心理にはするどい直感が働くのに、自分をとりまく人間関係については不器用このうえなく、突然感情を爆発させたり、ちょっとした一言が言えず悶々としているかと思ったらパートナー募集広告に突如応募したり(娘リンダにたびたび勧められていたということがあったにせよ)、相変わらずちぐはぐなのですが、それが逆に人間くさくてリアルに感じられ、この作品の大きな魅力になっていると思います。ニーベリが相変わらずいい感じ、登場した時には美人で良い家庭があって仕事と両立していて有能で優しくてと万能に見えたアン=ブリットは離婚を経てやや疲弊して皮肉っぽくなってきた感じ。生意気なところはあったけれど長いつきあいでなんだかんだ有能で信頼のおける部下のマーティンソンが若手から中堅になったということなのか、相変わらず自分流に全てを動かすヴァランダーに対抗心を持つようになってきたみたいで、イースタ署の人間関係も興味深いです。続きが楽しみ。