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本書は,自閉症児・者に対して発達保障の観点から支援をとらえることをそれぞれの立場から提案しています。
発達保障とは何かについては,第5部にその源流について詳述してありますが,分かりやすい定義で示しているのは,
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発達保障とは,障害のある人も,職員も,家族も,誰もが,自分や社会への「ねがい」をもつ権利主体であるととらえ,ゆたかさや人間的価値を創造する可能性をもっていると認めあうことが出発点です。そして,ゆたかさや人間的価値は,一人ひとりがバラバラに切り離されるなかではなく,他者との多様で具体的な関係のなかで,それぞれの主体的努力が少しずつ織りなされることによって創りだされるものです。 P178
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子どもを中心にみる,子どもの立場になってなど言われますが,本当にそれができていたのかと改めて再考しました。
自分にははたしてそれができているのか?
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実践とは,なかまの「ねがい」「価値観」と職員の「ねがい」「価値観」を擦り合わせて,新しい価値を創造していくことに他なりません。なかまのねがいに耳を傾け,職員もねがいをもって関わり続け,なかまとの「対話」と試行錯誤を繰り返していく・そのなかで新しい価値を築いていくことが実践だと思います。その際,押さえておかなければならないことは,実践の「答え」は決して一つではないということです。 P179
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「ねがい」「価値」を創造していくことが実践であるという言葉は,できる・できないにとらわれすぎている現状に警鐘をならすものです。
対話を通じて築くことは大切にしたいと思いつつも教師も迷いがあります。試行錯誤しながら,取り組んでいます。
「実践の「答え」は決して一つではない」
絶対や正解なんてないのです。一人一人違うのですから。これは確かにおさえておきたいポイントです。
他の論考も発達保障と関連してよみごたえのあるものになっています。
目次:
○はじめに 奥住秀之
○第1部 自閉症研究のこれまでとこれから 黒田吉孝(滋賀大学)
自閉症理解において留意したいこと/自閉症研究の変遷とその特徴/自閉症の障害理解の視点/自閉症の障害理解の深まりと研究の新
たな展開を期待して
○第2部 自閉症の理解と指導法の課題
第1章 自閉症の心理学理論と発達的理解 木下孝司(神戸大学)
自閉症をめぐる論争の背後にあるもの/自閉症を発達的に理解する/自閉症の心理学的仮説/自閉症の発達研究の課題
第2章 自閉症児者の「問題行動」と内面理解 別府哲(岐阜大学)
「問題行動」は「誰にとって」の「問題行動」なのか/「問題行動」は発達要求のあらわれ/子ども���尋ねる/内面理解と発達的理解
/内面理解と人間観、教育的呼応の営み
○第3部 自閉症の学齢・学校教育における指導・支援
第1章 自閉症と学校教育の課題 三木裕和(鳥取大学)
自閉症の内面理解/自閉症と教育の原理
第2章 障害児学校の自閉症をめぐる課題と教育実践 妹尾豊広(特別支援学校教員)
自閉症児の教育で大切にしたいこと/特別支援教育時代に問われる自閉症教育/障害に応ずることから障害に配慮することへ
第3章 通常学級の自閉症をめぐる課題と教育実践 奥住秀之(東京学芸大学)
通常学級で学ぶ自閉症児と発達障害/通常学級の自閉症児の示す困難の例/通常学級の自閉症児支援の3つのキーワード/連携の重要
性/通級を利用する自閉症児/発達と機能連関/通級学級での教育をもっと豊かにするために
○第4部 自閉症の乳幼児期・成人期における指導・支援
第1章 乳幼児期の自閉症と保育・療育の課題 小渕隆司(北海道教育大学釧路校)
乳幼児期の自閉症とその基本症状/自閉症児の保育・療育観の変遷と保育・療育の目的/乳幼児期の自閉症の保育・療育実践と今後の
課題/共に子どもを育てる存在としてつながる援助
第2章 青年・成人期自閉症者の発達保障 白石惠理子(滋賀大学)
○○プログラム、△△療法だけが「専門性」ではない/発達保障について/思春期から成人期へ/自分への評価を鋭く感じてしまうか
らこそ/思春期は「問題なく」すぎたけれども/労働を考える/労働を通して、自分の歴史をつくる/なかまのなかで自分らしく/職
員集団として、語り合う
○第5部 自閉症と発達保障をめぐる課題 白石正久(龍谷大学)
発達保障の理念の誕生とふたつの実践/自閉症によって生成する発達障害の仮説/発達保障の実践に求められるもの
○おわりに 白石正久