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冒頭、<あんまり知られてはおらんが、書物にも雄と雌がある。であるからには理の当然、人目を忍んで逢瀬を重ね、ときには書物の身空でページをからめて房事にも励もうし、果ては跡継ぎをもこしらえる>って、そんなあほなと。つかみはオッケーというところだ。
これは、公称二十二万冊の本を広大な屋敷に詰め込んで、さらに増やそうという語り手の祖父・深井與次郎(よじろう)の苦しい言い訳だが、最初はなかなか味わいがある与太だなぁくらいに思って読み進める。ところがこれが「文字通り」に起こるというあたりから、話があやしくなる。語り手が祖父の家でうっかりエンデの『はてしない物語』をサルトルの『嘔吐・壁』のとなりに突っこんだところ、その間に『はてしなく壁に嘔吐する物語』なんてろくでもない本ができてしまう。しかも、これがびらびらばさばさと飛ぶ。おとなしくさせるには、ボルネオに棲むという六本脚で翼の生えた真っ白な象の象牙でつくったという秘蔵の印を押す必要がある。與次郎はそうした本を“幻書”と名付け、とっつかまえては屋敷の一角にひそかに蒐集している。
この與次郎を中心に、父・正太郎、兄と弟、妻であり画家のミキ、4人の息子・娘たち、そして自分自身とその妻まで、一族のしょうもない面々のしょうもない逸話が「もうええわ!」というくらい盛りだくさんに語られる、というか語り手がまだ幼い息子の恵太郎にに書き残そうとしている――というのがこの本の一応の外枠。「幻書」についての奇想天外な話と、深井一族の荒唐無稽な話があわさって、もうてんやわんや。
なんといっても、悪知恵と図太さと逃げ足のうえに饒舌と法螺話をくわえて生まれてきたという與次郎のキャラクターが楽しい。「幻書」蒐集のライバルにして天敵・釈苦利からはじめて幻書の存在について尋ねられたときなど「え? 空を飛ぶ本? そんなん大阪にはなんぼでもおるで」「毎年、秋が来るたんびにシベリアから渡り本が群れで飛んできてやな……」とかうそぶいてはぐらかす。高校時代にのちに妻となるミキと出会い、一日中冗談ばかり言って仲むつまじく暮らす。「戦後を代表するリベラリスト」としてメディアにも出る一方、「出しゃばりのエセ学者」とも揶揄される。そして、何より本にとりつかれている。
で、どこまで与太話がつづくのかと思いきや、ちょうどこの本の半ば、與次郎の死の真相が語られるあたりから、あれよあれよと話がどえらい方向に転がって。冗談のような語り口はそのまま、それまでばらまいていた与太が手品みたいにきれいにつながっていく。後ろ半分は、それこそ本を置くひまがなかった。
とにかく、本と本のあいだから幻書ができる、という設定がものすごく効いている。書物というメディアは、いちど書かれたら情報が固定されてしまうという性質がある。だからこそ信用もされる。ところが幻書という「信用できない本」の発明によって、本書は物語の“たが”をぱっかーんと外して、とんでもないところまでいってしまう。本を愛するひとのための話でもあり、親から子へとうけつがれていくものについての話でもある。本好きなら、迷わず読むべき今年の1冊。
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本への愛、知への愛、子孫への愛に溢れている
人生って愛しいものだねえ
わたしもぞうにのりたい。だって幸せだよ。世界はひとつになる。
本のなかには世界があって、人生があって、宇宙よりも広いなにかが詰まっている。
物だからこそ中身が漏れ落ちていなくて、そして一度開くと以前の自分には戻れない。
読むことは脳みその密度をブラックホールのように濃くしていくことで、どこまでも果てがなく、でも本は物だから限界がある
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2012年最後に読んだのはこの本。
饒舌をくりだしてのっけもりでコテコテに滑稽、だけど絶妙に軽い文章。しかも息切れすることなく最後まで高レベルを維持。すばらしいわね。
笑った。
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私にとっては非常に読みづらい作品ではあったが、所々くすりと笑うような表現やユーモアが溢れていたのでなんとか最後まで読むことが出来た。本と本の間から新しい本が生まれたり、その本が飛び回ったり、という設定や話の筋はとても面白かったのでもう少し読みやすかったら…と思う。
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この文体に慣れるのに時間がかかったが、途中から面白くなった。
不思議な話。あり得るかも、あったら面白いな…
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荒唐無稽という人もいるけれど、読書の楽しみをかなえてくれるという意味では、間違いなく創作物として傑作のひとつ。ここまで独自の世界を構築できるのは、よほどの変人か趣味人だけだ。
父親が実の息子宛てに書いた手記と言う体裁をとりながら、曾祖父、祖父から続く因縁めいたある種の書物に係わる秘密を明かしていく、、、
読むほどに奥が深く、一族の登場人物の多彩さに目が回りそうになるが、終始一貫した筋は最後の最後まで読み手を引っ張っていく。ミステリもファンタジーもぶっ飛ばすような破壊力。
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図書館にて。
予約してゲットしたが、どうしてか他に予約は入っていなかった。
この本は読むのに手こずった。
いつもたいていの本は1冊1~2日で読み終わるのに、この本は読み飛ばすということができない文体で、結局読み終わるまでに3週間ほどかかってしまった。
でも飽きなかった。語り手のお爺さんの代までさかのぼってエピソードを描いているのに、物語それぞれが奇想天外でユーモアに富んだ、それでいてスピード感のある物語。
正直、そんなに笑わせようとしなくていいよ、とちょっと食傷気味に感じる時もあったが、中盤から後半の悲しいエピソードからのラストの着地は感動的だった。
電子書籍じゃなく、実体としての本への愛情が伝わって来る1冊。
全部読み終わってから表紙を見てしみじみとしてしまった。
またいい本に出会えたなあ。
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素晴らしい。
一族の物語:「百年の孤独」を。
幻書は夢日記なのでは?:「豊饒の海」を。
壮大な世界観:「リプレイ」を。
読みながら他にもあれこれ今まで読んだ小説を読み返したくなった。他にも僕の知らない本もたくさん暗喩されてるだろう。
素晴らしい。堪能した。
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実は、本にも雄と雌があって、
相性のいい本を隣同士に並べると、跡継ぎをこしらえる。
だからして、本がいつのまにか増えるのは、致し方ないことなのだ!
家の床が抜けたら、ぜったいママのせい!と断言される私には
なんと魅力的かつ便利な言い訳でしょう♪
(この文章を書いているところを見られてしまったので、娘には試せないのが残念。。。)
でも、この本の中では、これは言い訳でもなんでもなくて
主人公の深井博は、遥か昔の小学生の頃、エンデの『はてしない物語』と
サルトルの『嘔吐・壁』を、禁を破って並べてしまったばかりに
『はてしなく壁に嘔吐する物語』という幻書を誕生させてしまうのです。
幻書が背表紙を上にしてぱたぱたと飛び回るのをつかまえて
真っ白な象牙から掘り出した蔵書印を捺して従わせる。。。
本好きならば、ひそかに夢見てしまうステキ体験ですよね。
幻書と深井一族の不思議な繋がりを息子の恵太郎に伝えるため
博がワープロでこそこそ打った文章、という体裁をとっているこの物語。
「自叙伝を書こう!」講座に持っていったら必ずや、「一文が長すぎる!」
と添削されそうにだらだらと長くて、しかも段落もなかなか変わらない。
ついてこれるヤツだけついてくるがいい☆と言わんばかりの雰囲気が
楽しそうに悪ノリして書いているときの筒井康隆さんや森見登美彦さんを思わせます。
歯切れのいい、簡潔な文章を好む方には、深井一族の歴史を延々と描いた
序盤、中盤はかなり苦痛に感じられるかもしれませんが
そのあとには、本と家族への愛情が大海原の波のように打ち寄せる
感動的なラストシーンが待ち受けています。
本が引き寄せる過去。本が予言する未来。
未来を綴った本に巡り会ったとき、
この本の中のヒトラーのように、世界を思うがままに操ろうと野望を抱くのか、
それとも家族のささやかな幸せが続くよう、節度をもって対処するのか。
本読みの品性が問われるところでしょうか。
本への敬意と愛情が、たくさんの幻書となって大空にはばたいていくような
摩訶不思議な1冊です。
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読み進められず断念。
頑張ったけど、どうにものめり込めなくて。
ほかの方のレビューでは、高評価。
面白い本なんだろうな。
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最初は森見登美彦の作品に似た妄想系ファンタジーという印象。
ところがどっこい、家族愛系ファンタジーでした。
こんな奇跡の出逢い、してみたいですね。
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産まれ落ちた幻本。契りをかわして言うことをきかす。毒にも薬にもならぬことをああだこうだと嘯いて云々。ひいひい言いながら読みました。なんて素敵なんだ。読書をする人、本を買う人は一読を。これは..ふふ..楽しいわ。楽しいだけではない内容。少し切なく..
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横丁のご隠居の昔話を延々と聴かされる気分で読み続けております。
「ええ、ええ聴いておりますとも」
姿勢を正して相づちを打ち、時々愛想笑いなんぞを浮かべながら、
「とんでもない長話につきあわされるぞ」
しかし年寄りの話はちゃんと聴くもんですな。
蔵書家の与太話かと思っておりましたら、30ページ辺りでナチスの『予言局』なんてキーワードが。
ちょっと面白くなってきたぞ、なんて思っておりますとまた昔話。
結局じっと我慢の子。
このご隠居のはなしにオチはあるのか、ええい半分までつきあったんだからこうなりゃ一蓮托生だ。槍でも鉄砲でも持ってきやがれってんだ。なんて大口叩いたら、アルファケンタウリの方角から超弩級の隕石が如きファンタジーが攻めて参りました。
とんでもない奇書でございます。
読了後、もしやと思い扉を見返すと、やはりそこには『深井與次郎』の蔵書印が押してございました。
こんなふざけ半分の紹介文を書きたくなるような、いや書かざるを得ないような、なんとも説明のし難い物語。
百人が百人、面白いと言う本ではないと思う。
けれども僕はいつの間にか、この本の魔力に取り憑かれていた。
本の雄と雌が睦み合って子を産む。
サルトルの『嘔吐・壁』とエンデの『はてしない物語』から『はてしなく壁に嘔吐する物語』が産まれるという展開も、読み終えてみればギャグではなく、とても示唆的な本のチョイスだったと思う。
講談のような漫才のような昭和の大衆小説のようでありながら、SF・ファンタジーのような時空を縦横無尽に飛び越える、まさに「深井家サーガ」とでも呼ぶべき物語。
そしてラストのカタルシス。
いろんな物が渾然一体となった文体もいまならば分かる。
(こうやって感想を書いていて「あっ、そういうことか」と気づくことがたくさんある。)
再読するとまた違う景色が見えてきそうだ。
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こちらも家族の物語。(ひとつ前に「小さいおうち」を読了。設定はかぶるが、テイストは全然違う)
本がかってに増えるし空飛ぶしって、どんな幻想小説かと思ったけれどまるまるファンタジーではないのね。
(象も飛ぶ!)
私の読解力が低いのだろうけど、最初は何の話かわからず読み進めるのに難儀した。
とはいえ、面白味のある文章でクスクス笑わされる。
一度読み終えて今、もう一度読みたくなる。
図書館の返却日が明日だから読めないけど。
本への愛情がつまった一冊。
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関西弁!しかも妄想!ときたらもう読むしかないでしょ!
なんていうか、こういうか、読んだ後「あぁたまらんなぁ」と思える一冊。
こういう本がさりげなく積まれていて、いつの間にか売れていた、って店がいいよな。