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現役弁護士が30年の歳月をかけて書き上げたというだけあって、法曹界の内情がこと細かくストーリーに反映されている。検察側との攻防はもちろん、陪審員の選定や判事との駆け引き、手続き上の裏技から事務所経営まで、30年分のネタがぎっしり詰まった内容になっている。500頁を削ってコンパクトにしたのが幸いしたのか、デビュー作ながらテンポも良くて大変読みやすかった。
妻と娘のどちらが殺したのか? という興味深い設定でスタートするが、本作品ではミステリとしての解釈はほとんどなされない。依頼人の無罪を主張という極めてシンプルな目的のために展開するのみである。片一方の無罪を主張するのだから、自動的にもう片一方が有罪ということになる当たり前の定説に、作者は鋭角に切り込んでくる。自身が弁護士でもあるからこそ書けた大胆な展開は読み応え十分。
もうひとつの特徴はキャラクターかな。序盤は人物の多さに困惑したが、主人公の成長と併せてキャラの個性も整理されてくる。サイド・ストーリーがメインの事件とスムーズに並走するバランスの良さは作者の才能の一端なのかな。作品への想いが感じられる部分でもある。風呂敷を拡げすぎた感じはあるけれど、ひと味違ったリーガルを読みたい人にはお勧めの一冊。