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本書の内容は「海軍史の研究者にとっては既知の事実が多く、初めて世に知られる事実は多くはない」という。
海軍が「大官庁」である以上、多くの人々がそれぞれの部署で活動をしていたのだろうが、本書を読んで、「帝国の破綻」という歴史の審判を受けたこれらの海軍当事者が深刻に反省しているようには思えない。
「陸軍との内乱を恐れて開戦に踏み切った」幹部がいたのだろうが、戦争の結果の日本人の死者は300万人を超える。
「内乱」と「戦争」とのリスク計算はしなかったのだろうか。少なくとも「内乱」では、「廣島・長崎・沖縄の悲劇」はおこらない。
なによりも、これらの海軍当局者の論争を読んでいると、当時の日本が進んだ道をどう捉えるのかという当事者の「歴史認識」が見えてこないように思える。
「戦争」は「政治」の延長線上にあるのだが、彼らは長い戦後の生活の中でそれらを真剣に考えることはなかったのだろうか。
本書には「捕虜の処刑」もはっきりと出てくる。明らかに違法な処刑であるが、論議に違和感なく出てくることを見ると、当時の日本軍においては日常茶飯事のことだったのだろうか。すくなくとも発言者に罪悪感は感じられない。
本書には「軍事技術」から「政治」「戦略」まで、多岐にわたる論議があるが、日本人とはどういうものかを考えさせられて、実に興味深い。
しかし、明治以来の日本の「大陸政策」と先の「戦争」については、現在でも中国・韓国から「歴史認識」を繰り返し突きつけられるが、当の海軍軍人ですら、それらの「歴史認識」についての成熟した論議は見られない。これが日本人というものなのだろうといろいろ考えさせられてしまった。
本書はまだまだ続くようであるが、次巻以降も楽しみである。