紙の本
壮大な戊辰戦争の記録と言った作品でした。
2016/11/30 01:11
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ナミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
壮大な戊辰戦争の記録と言った作品でした。あくまでも創作小説(フィクション)の範疇に入るのだろうが、登場人物や出来事を辿ると膨大な歴史資料に基づいて、史実に従って構成・展開されていることを伺わせる。更に面白いと思ったのは、大きな出来事や有名人を中心に展開するのではなく、中堅もしくは下層に位置する“間諜”達を浮き上がらせて、それに一般民衆の目線をも加えた視点で描かれている点である。加えて、官軍側にも薩摩・長州・土佐の間に過去の恨みつらみがわだかまっていたが、それ以上に奥羽越列藩同盟が旧幕府体制下の悪弊から抜け出せず、過去のしがらみや自藩の利益などから危機的状況を的確に見つめることが出来ないまま自壊していく様子と合わせて、近代戦で重要な役割を果たす“情報戦”“諜報戦”の醍醐味が作品に躍動感を与えていると感じた。
上巻は幕軍・官軍の間諜動きが主体なので、既成の枠にとらわれないその状況に合わせた臨機応変な動きが求められ、更に取り巻く世界も民衆や中堅武士たちが中心なので、物語に広がりがあり面白い。しかし、中巻以降、戊辰戦争が本格化してくると、その主体はどうしても軍隊という集団になり、そしてそれを動かす首脳陣に移ってしまい、何か話のスケールが狭まってしまった感じがまぬがれない。特に、奥羽越列藩同盟側の既成の枠組みから抜け出せない首脳陣の動きはアリャマーって感じであまりワクワクしない。しかし、東北地方(奥羽越列藩同盟中心)での戦争が収束に向かう終盤では、再び主要人物たちが展開の軸に座って来るので躍動感があり著者の本領発揮と言ったところ。
投稿元:
レビューを見る
記憶が定かではないが、蝦夷地別件からの久しぶりの本邦歴史ものではあるが、蝦夷地別件の様な、いつもの虐げられた民族や人々のレジスタンスとしての蜂起と、その哀れなまでの末路をカタルシスを持って描く、いつもの船戸節を期待したものの、やはり幕府や会津の様な武士では座りが悪い。武士から一般民が武器を手に取るというあたりと、その武器を取り人を動かすという一種の権力に目覚めた農民を描く部分に、多少の片鱗は見られるものの、主役ではないので、今のところ物語の主軸とはなっていない。主人公と思しきものは、長州の密偵と長岡の元博徒、会津の武士。彼らがニアミスを犯しながら物語の収斂に向けてどう動いていくのかが今後の展開で語られるのだろう。いつものパターンでは、武士ではない博徒が生き残る様に思われるが、どうだろうか。
投稿元:
レビューを見る
「八重の桜」のあやかり読書。
戊辰戦争中の東北戦争を時系列で描くようだ。
官軍、長岡藩、会津藩、それぞれに非合法工作員ともいうべき人物を造形して、彼らに戦争を見聞きさせる。
また、敗者、弱者に視点を置いている。居酒屋の小女が処刑されるくだりは憤る。
船戸与一の良い読者ではないのではっきり解らないが、この辺が船戸与一らしさなのか。
投稿元:
レビューを見る
<上>2013.9.3~17 <中>2013.9.17~25 <下>2013.9.25~10.7
「正史」に対して「叛史」という視点で幕末の奥羽越戦争が描かれている。密偵、間諜を使った情報戦や北方政権構想、幕府御金蔵、略奪・凌辱の描写が”当然、あっただろう”と思わせて新しい。特に北方政権構想が実現していれば日本の南北戦争になったはずで、歴史が変わっていたのは確実と思われる。しかし奥羽越には西郷・大久保・岩倉がいなかった・・・
投稿元:
レビューを見る
世に明治維新と褒めそやさるが実際にはそんなたいそうなものではなく、
単なる権力闘争に過ぎないことがこの本でも示されている。
薩摩、長州の田舎侍が江戸では、否、全国では馬鹿にされるため、
幼い天皇を担ぎ出し、この錦の御旗をもとに東日本の幕府勢力を潰しにかかった。
それが証拠には西軍(筆者は官軍とは呼んでいない)が天下をとると、
慌てふためいて政治とはどうすべきものか欧州に勉強に行った。
それまでは政治に対するビジョンなんてものは無く、
ただ自分たちが天下をとることのみ専念した。
しかし、この成功、自信が後に薩長独裁政権へと移行し、
天皇を頂点とした軍事国家が出来上がったのである。
そのあたりを船戸与一は『満州国演義』で端的に示している。
江戸幕府そして戦前の軍国主義国家においては
農民や市民は単なる納税者で一兵卒でしかなかった。
いわんや全人口の半分を占める女性の参政権など目にもくれなかった。