ナミさんのレビュー一覧
投稿者:ナミ
紙の本首都感染
2016/11/26 10:20
良き意味での“サムライ”の話でした。
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良き意味での“サムライ”の話でした。素晴らしいの一言。ただ、少々気になる点を挙げるなら、中国が悪者過ぎる(まあ、実際にそういう国なんだから仕方ないが)ことと、日本が格好良すぎるというか、現実にこんな“サムライ”がいないだろうというのが悲しい。
確かに、新型インフルエンザのパンデミックを扱ったものではあるが、それに対する態度が正に毅然としており、理想的な“サムライ”の姿勢のように私には見えたのである。現実に、このような致死率が異常に高く、変異速度の早い(耐ワクチン型のウイルスが速やかに出現してくる)ウイルスがパンデミック(感染)を引き起こしたなら、このような既然とした政策を実行できる人物が複数いなければ日本は全滅してしまうだろうな。いやはや、怖い作品でしたが、毅然としたヒーローの格好よさと、それを取り巻く人間物語に感動させられました。
高嶋哲夫の作品は、『ミッドナイトイーグル』(2003)で注目し、その後『M8』(2004)、『命の遺伝子』(2007)などかなり読んでいるが、ハズレのない秀作揃いでした。
紙の本収容所から来た遺書
2016/11/26 10:33
感動しました。
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感動しました。前半は、むしろ淡々としたソ連での抑留生活の描写であり、ソ連の理不尽さや仲間を売ってでも自分は助かろうとする同じ日本人抑留者へのいきどおりを感じる程度であるが、後半になるとそのような逆境の中でも正義を信じて自分らしい生き方を貫き通した主人公・山本幡男の強さに涙を誘われる。そして、そうした生き方に賛同し、それを支えた同胞たちの努力にも敬意を表したい。山本幡男が呼びかけたアムール句会に集まった人々を観ると、優れた軍人は優れた文化人でもなければいけないとつくづく感じさせられる。さて、山本幡男なる人物像は下記のとおりであるが、むしろ共産主義思想家で、かつロシア文化にも造詣の深かった山本が、「反共」「反ソ」思想の持ち主として過酷な戦犯としての抑留生活を強いられたことに時代の矛盾・不幸を感じると同時に、ソ連型共産主義=スターリン体制の異常さを伺わせる。
なお、著者である辺見 じゅんはむしろ歌人として有名な人らしいが、本書を読む限り綿密な取材を通じて素材を完全に消化し、それを再構成することにより物語性も兼ね備えた“ノンフィクション小説”に仕上げており、小説家としての実力もかなりのものとみえる。残念ながら、2011年9月21日に逝去している。
紙の本闇に香る噓
2019/03/23 22:51
緻密な構成に裏打ちされた謎が謎を呼ぶ展開に脱帽です。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
緻密な構成に裏打ちされた謎が謎を呼ぶ展開に脱帽です。人格自体を特定することが困難な満州残留孤児(引き揚げ者も含む)を対象とし、更に謎を解明すべき主人公を視覚障害者とすることで、謎を更に根深いものとして描くことに成功している。周囲で起きている事象を的確に認識・判断することの困難さから、主人公がどんどん疑心暗鬼に陥っていく心理描写も凄い。そして全編を通じて貫かれる国を超え、家族愛すら超越した人間愛に感動でした。中国側からみたら何を日本を美化してるんだと言われそうですがね。こんな人達がもう少し沢山いれば戦争なんて亡くなるだろうになあ。いや、そんなことより単なる推理小説としても実に素晴らしい出来でした。流石、第60回(2014年)江戸川乱歩賞受賞です。
紙の本パラダイス・ロスト
2016/12/07 10:34
期待を裏切らない面白さでした。注目したいのは、3話「追跡」である。
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期待を裏切らない面白さでした。短編であるので要点が明確だし、読んでいても集中力の続く内に完結するのも良い。さて、シリーズ3として注目したいのは、3話「追跡」である。イギリスの新聞記者であるスパイが、D機関の“魔王”こと結城中佐の実体に迫るのだが、逆に結城中佐の罠に嵌ってスパイとしての自分の身分を暴かれてしまい、もっとというより最悪の事態として、これまで日本国内で作り上げてきたスパイ網(アセット=資産)情報まで奪われてしまう。多分、結城中佐の側では、彼が周囲を嗅ぎまわり始めた瞬間から彼を無力化すると同時にアセットの“乗っ取り”を画策したという筋書きと推測した。彼は、限り無く結城中佐の実体に肉迫したと思うのだが、それに目を奪われてもっと大きなゲームに敗れたと言ったところか。あのジョン・ル・カレが膨大な紙面を使って描き出す世界を短編で楽しませてくれるのだから堪らない。
更にもう1作は4・5話「暗号名ケルベロス 前・後編」である。まず、珍しく120ページだから中編と言うべきことと、その内容である。要は、アメリカから日本へ向かう客船の中で、ドイツのエニグマ暗号の秘密を解き明かすため日本へ向かう英国情報部員とD機関の戦いが主題なのだが、そこへエニグマを盗むために忙殺された船員の妻が敵である英国情報部員を殺害するという横槍が入ると筋書きである。結局、D機関員の鋭い推理で犯人は捕まるのだが、その際、自決を覚悟した妻から“幼女”と“愛犬”を託されてしまう。存在しない存在であることを旨とするD機関員にとって、現実の存在である“幼女”と“愛犬”を託されるということは大変なことである。今後の展開が気になる。なお、本編では、欧州での第二次世界大戦が熾烈さを増しつつも、日米開戦はまだでアメリカも参戦していないという微妙な状況下で、大西洋航路と参戦国間の交流が途絶えている中で唯一残った交流路である太平洋航路の微妙な状況が描かれている点が興味深い。
さて、この『ジョーカー・ゲーム』(2011)でスタートした短編集は、『ダブル・ジョーカー』(2014)で終わったと思っていたのだが、どうも好評につき [ジョーカーゲームシリーズ]として継続されるようである。既に4作目である『ラスト・ワルツ』(2015年1月、角川書店)が発刊されている。なお、ウィキペディアでは、本シリーズを「D機関シリーズ」と称しているので私もそれに倣うことにする。
2016/11/17 10:01
日本人の素晴らしさを改めて認識させてくれる秀作。
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日本人の素晴らしさを改めて認識させてくれる秀作。無機材料工学専門で永らく半導体結晶の研究に従事してきた著者が何故こんな本を書いたのかと不思議に思って読み始めたのだが、優れた研究者というのは鋭い観察眼・広い好奇心・様々な知識を総合的に駆使しうる能力において優れているのだなと感心させられた。研究の関係で訪問した先々でその国特有の技術=“技”に着目し、それを自らの趣味?と結びつけて科学・技術的に追求した結果が本著書であった。
著者はまず、五重塔の心柱の耐震・耐風機能につき解析し、続けて「木」だけで石よりも長持ちする建築物を実現してきた「木の文化」「木の文明」の素晴らしさを説くとともに、木の加工技術の優秀さを現代の半導体結晶の表面加工技術との対比で説明する。ついで、木造建築物の耐用年数を更に高める役割を果たす「瓦」の特長を解明し、更に、1000年以上も朽ちずに使用可能な釘の材料である「たたら鉄」から、世界に類を見ない「折れず、曲がらず、よく切れる」を実現した“日本刀”にまで及ぶ。更にはひょんなことから関心を持った奈良の大仏の銅の産地や、銅の鋳造方法まで話は広がり、終いには、縄文時代の代表的装身具であった翡翠装飾品の“穿孔技術”の素晴らしさを現代の穿孔技術との比較で明らかにする。
こうした一連の話の展開は、全て著者の鋭い観察眼・広い好奇心・様々な知識を総合的に駆使しうる能力に裏打ちされているのだから面白くない訳がないのである。いやはや、驚きの一冊でした。
紙の本肉弾
2020/09/27 13:35
一青年の成長を自然界と人間との関わり合いの中に据えた力作。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
一青年の成長を自然界と人間との関わり合いの中に据えた力作。特に後半の自然のなかで生き抜くための戦いと、青年の成長過程の描写は手に汗握る迫力。文系出身の著者が自然の成り立ちや野生動物の生態などもしっかりと勉強した姿勢には、羊飼いを止めて専業作家に転向した気概が放射されていて好感が持てる。動物と人間の両方の視点からの作風で登壇した作者。更に自然、動物に切り込んだ作品に期待したですね。
2017/09/25 08:12
ポンコツロボット“タング”と無気力駄目男“ベン”の珍道中から思わぬ結末に発展していく面白さ。
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ポンコツロボット“タング”と無気力駄目男“ベン”の珍道中から思わぬ結末に発展していく面白さ。前半は少々冗長でイライラしたが、後半は一気読みでした。構成は大きく3つに分けられる。ポンコツロボット“タング”の登場で既にきしんでた家庭が崩壊、離婚して珍道中に出た導入部。徐々に、タングの謎が明かされて家族として生きることを決意する中間部。そして、旅を通じて成長したベンが、人生再生の手掛かりを得ていく結末部である。子供の成長と、それに伴う親の成長の物語とも重なって見えて来る。前半部は4点かなと思ったが、読み通して5点とした。
紙の本すべてがFになる The perfect insider
2017/09/23 12:26
またも一気読みに近い面白さでした。
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またも一気読みに近い面白さでした。真賀田四季博士と西之園萌絵との不思議な緊張した面会場面の後、犀川博士と萌絵との奇妙なコンビのやりとりを経て、一気に不穏な殺人事件へ導入。あとは密室殺人事件を中心に謎解きだが、謎解き過程を科学的・哲学的議論でオブラートに包んで読者の推理する楽しみを最後まで残している。確かに、謎解きのヒントは各所にちりばめられてはいるのだが、決定的なヒントが見つからない。萌絵がかなり良い線までの謎解きを細目に出していくのに対して、主役の犀川博士は最後まで殆ど自分の推理を明かさないやり方はちょっと狡い気もするが、読者の推理する楽しみを最後まで残すという意味では仕方ないのかな。そして、最後で一気に謎が解き明かされるのだが、674:『笑わない数学者[3]』同様、真犯人がどうやら消えてしまうという謎めいた終わり方である。
<以下、蛇足>本作品の初出は1996年というから私がWin95を導入して、インターネットを始めた時期である。よって、PCに対してWS(ワークステーション)という言葉?機械?(笑)が出て来りして時代を感じさせる。その当時、VR(バーチャルリアリティ)は20年位先の技術として考えられていたが、天才科学者にとっては既に基本構想は描かれていたのであろう。本作品では、極めてリアルにVR装置が登場し、活用されているのである。先見の明に感服。
紙の本フォックス・ストーン
2017/05/24 09:04
空間的広がりの大きさ、複雑に構成された壮大な謎に満ちた物語に魅了されました。
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空間的広がりの大きさ、複雑に構成された壮大な謎に満ちた物語に魅了されました。日本からアメリカへ、そして主要な舞台であるアフリカへと収斂していく物語は驚くべき謎に満ちている。我々が知る機会の少ないアフリカの紛争事情は実に興味深い。アフリカという地域事情を背景とする壮大な陰謀は緻密に計算された構成で、その謎解きも魅力である。初めの内は過去の人として語られるボブ・ショーニングが、物語が進むにつれて重要なピースとなりはじめ、最後にボブ・ショーニング=“ケープフォックス”=オコネル刑事という複数の存在としてパズルの最終ピースになる結末は見事である。ただ、「アフリカ人のためのアフリカ人による理想国家を作る」というボブ・ショーニングの一見正しい理想と、その実現のための方法論との齟齬が何時、何処から狂い始めたのかが気になりました。山岳関係を得意とすると誤解していた笹本稜平の初期の探偵?スパイ?陰謀活劇?として期待した作品でしたが、期待以上の面白さでした。
紙の本絶叫
2017/05/24 08:52
壮絶の一言。
4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
壮絶の一言。保険金連続殺人事件だが、そこに至る家庭の不幸、一度捕えられたら抜け出せない闇の社会の描写に圧倒される。主人公:鈴木陽子は憎むべき存在の筈なのに、何故か憎めない。陽子は、結局、完全犯罪を達成して別人として生まれ変わる。逃れられない宿命に囚われた一人の人間が社会の闇から抜け出して再生する、成功物語として読める為だろうか。犯罪は悪いことだと思いつつ、つい陽子に拍手したくなる結末でした。
紙の本壬生義士伝 上
2016/11/22 11:02
感動でした。吉村貫一郎の一代記であると同時に新選組・戊辰戦争の歴史的記録でもある。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
感動でした。吉村貫一郎の一代記であると同時に新選組・戊辰戦争の歴史的記録でもある。
物語は、南部藩を脱藩し新選組隊士として死んだ吉村貫一郎の過去を掘り起こすための取材形式で語られていく。取材対象者は当然新選組の生き残りを始めとする人々であり、大物では齋藤一(映画では佐藤浩一)が取材対象として登場する。登場人物は実在の人物ばかりであり、それが生存者の聞き書きという形で語られるため、歴史的事実であるかのように思えてくる。あまりに生々しいので、因みに後に東京府知事になる紀州藩士・三浦 安(1829年9月15日(文政12年8月18日)~1910(明治43)年12月11日)なる人物を検索してみたら、何と実在の人物であった。こうなるとその他の人物像に関しても非常に緻密な取材・資料確認をおこなってまとめ上げた作品のようである。武士の時代(徳川幕府体制)が終わったことを最も強く感じていたにも拘わらず、その体制の中でしか生きられなかったがために新選組に身を投じざるを得なかった吉村貫一郎の義と忠を貫き通した生き方に圧倒される。吉村貫一郎が鳥羽伏見の戦いで傷だらけになって京都の南部藩蔵屋敷に辿り着いたところから始まり、そこから時間をさかのぼって彼の生い立ち、脱藩、そして新選組での生き方が物語の大半を占めるが、吉村貫一郎が切腹して果てたあとは親友であった家老・大野次郎右衛門がどのような気持ちで彼に切腹を強いたかという謎解きと、吉村の家族と大野の息子との話が続く。
紙の本マギの聖骨 下
2016/11/10 12:02
シグマシリーズ2『ナチの亡霊』を読んでこれは凄いと初作に戻ったが、活劇ものとしてはこちらの方が面白かった。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
シグマシリーズ2『ナチの亡霊』を読んでこれは凄いと初作に戻ったが、活劇ものとしてはこちらの方が面白かった。冒頭から激しいアクション・アクションで読者を引き付けながら様々な事件を超伝導エネルギーを巡る世界的陰謀に収斂させていく力量は並ではない。科学的理論に裏付けられた危機も説得力があり、ある意味では科学の勉強にもなる。ただ、キリスト教ではない私にとって、キリスト教的世界観に根差した歴史的物語は少々難解ではあるが謎解き的要素は十二分に面白い。本書でも、液体防弾スーツ、m状態の金、非対称的高スピン状態、マイスナー磁場(効果)、超伝導現象の数々など、高度な科学理論が駆使されている。
紙の本マギの聖骨 上
2016/11/10 12:01
シグマシリーズ2『ナチの亡霊』を読んでこれは凄いと初作に戻ったが、活劇ものとしてはこちらの方が面白かった。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
シグマシリーズ2『ナチの亡霊』を読んでこれは凄いと初作に戻ったが、活劇ものとしてはこちらの方が面白かった。冒頭から激しいアクション・アクションで読者を引き付けながら様々な事件を超伝導エネルギーを巡る世界的陰謀に収斂させていく力量は並ではない。科学的理論に裏付けられた危機も説得力があり、ある意味では科学の勉強にもなる。ただ、キリスト教ではない私にとって、キリスト教的世界観に根差した歴史的物語は少々難解ではあるが謎解き的要素は十二分に面白い。本書でも、液体防弾スーツ、m状態の金、非対称的高スピン状態、マイスナー磁場(効果)、超伝導現象の数々など、高度な科学理論が駆使されている。
紙の本ターミナル・リスト 上
2022/08/31 14:02
主人公の怒りが伝わってくる熾烈な復讐活劇の傑作。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
主人公の怒りが伝わってくる熾烈な復讐活劇の傑作。人間味あふれる優秀な戦士が、理不尽な理由で全てを奪われたと知った時、男は最高の殺人マシンに変身する。その元となる陰謀が現実社会の事象を巧みに取り込んでいるため、如何にも実際に起こりうる事件のようで極自然に主人公に共鳴していける。さすれば後は復讐活劇を楽しむだけだが、その描写たるや著者の長年のSEAL勤務経験が存分に生かされたヒリヒリする緊張感で満たされている。著者の軍務経験は主人公の思考としても描かれており、単なる活劇ではない重厚さを備えた作品へと昇華させている。
紙の本犯罪者 下
2021/12/20 08:14
謎が謎を生む直球勝負のミステリー。
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謎が謎を生む直球勝負のミステリー。作家・森村誠一が「謎が謎を生む連鎖。ミステリーの極限に挑む息詰まる展開は夏のように熱い」と賛辞を贈ったのも納得。通り魔殺人事件に巻き込まれた主人公が知らぬ間に巨大企業の陰謀に巻き込まれていく。時間は若干前後するがそれが逆に話をより良く理解できるようになってるし、登場人物も適度に絞り込まれているので話に集中できるのも良い。実際、話は緻密に構成された複雑なもので、僅かな邪魔が入るだけで二転三転の展開へと発展してく。しかし、不正に苦しむ中迫の立場を理解し、誰もが傷つかない詐欺計画を立案した真崎の一途さに共鳴した主役3人が結束したときに、 “佐々木邦夫”という架空の人物が命を得て真崎の意志を継承していくという一貫性が嬉しい。脚本家として優れた実績を持つ著者ならではの秀作。