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ナミさんのレビュー一覧

投稿者:ナミ

443 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

すべてがFになる The perfect insider

またも一気読みに近い面白さでした。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

またも一気読みに近い面白さでした。真賀田四季博士と西之園萌絵との不思議な緊張した面会場面の後、犀川博士と萌絵との奇妙なコンビのやりとりを経て、一気に不穏な殺人事件へ導入。あとは密室殺人事件を中心に謎解きだが、謎解き過程を科学的・哲学的議論でオブラートに包んで読者の推理する楽しみを最後まで残している。確かに、謎解きのヒントは各所にちりばめられてはいるのだが、決定的なヒントが見つからない。萌絵がかなり良い線までの謎解きを細目に出していくのに対して、主役の犀川博士は最後まで殆ど自分の推理を明かさないやり方はちょっと狡い気もするが、読者の推理する楽しみを最後まで残すという意味では仕方ないのかな。そして、最後で一気に謎が解き明かされるのだが、674:『笑わない数学者[3]』同様、真犯人がどうやら消えてしまうという謎めいた終わり方である。
<以下、蛇足>本作品の初出は1996年というから私がWin95を導入して、インターネットを始めた時期である。よって、PCに対してWS(ワークステーション)という言葉?機械?(笑)が出て来りして時代を感じさせる。その当時、VR(バーチャルリアリティ)は20年位先の技術として考えられていたが、天才科学者にとっては既に基本構想は描かれていたのであろう。本作品では、極めてリアルにVR装置が登場し、活用されているのである。先見の明に感服。

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紙の本

パラダイス・ロスト

紙の本パラダイス・ロスト

2016/12/07 10:34

期待を裏切らない面白さでした。注目したいのは、3話「追跡」である。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

期待を裏切らない面白さでした。短編であるので要点が明確だし、読んでいても集中力の続く内に完結するのも良い。さて、シリーズ3として注目したいのは、3話「追跡」である。イギリスの新聞記者であるスパイが、D機関の“魔王”こと結城中佐の実体に迫るのだが、逆に結城中佐の罠に嵌ってスパイとしての自分の身分を暴かれてしまい、もっとというより最悪の事態として、これまで日本国内で作り上げてきたスパイ網(アセット=資産)情報まで奪われてしまう。多分、結城中佐の側では、彼が周囲を嗅ぎまわり始めた瞬間から彼を無力化すると同時にアセットの“乗っ取り”を画策したという筋書きと推測した。彼は、限り無く結城中佐の実体に肉迫したと思うのだが、それに目を奪われてもっと大きなゲームに敗れたと言ったところか。あのジョン・ル・カレが膨大な紙面を使って描き出す世界を短編で楽しませてくれるのだから堪らない。
 更にもう1作は4・5話「暗号名ケルベロス 前・後編」である。まず、珍しく120ページだから中編と言うべきことと、その内容である。要は、アメリカから日本へ向かう客船の中で、ドイツのエニグマ暗号の秘密を解き明かすため日本へ向かう英国情報部員とD機関の戦いが主題なのだが、そこへエニグマを盗むために忙殺された船員の妻が敵である英国情報部員を殺害するという横槍が入ると筋書きである。結局、D機関員の鋭い推理で犯人は捕まるのだが、その際、自決を覚悟した妻から“幼女”と“愛犬”を託されてしまう。存在しない存在であることを旨とするD機関員にとって、現実の存在である“幼女”と“愛犬”を託されるということは大変なことである。今後の展開が気になる。なお、本編では、欧州での第二次世界大戦が熾烈さを増しつつも、日米開戦はまだでアメリカも参戦していないという微妙な状況下で、大西洋航路と参戦国間の交流が途絶えている中で唯一残った交流路である太平洋航路の微妙な状況が描かれている点が興味深い。
 さて、この『ジョーカー・ゲーム』(2011)でスタートした短編集は、『ダブル・ジョーカー』(2014)で終わったと思っていたのだが、どうも好評につき [ジョーカーゲームシリーズ]として継続されるようである。既に4作目である『ラスト・ワルツ』(2015年1月、角川書店)が発刊されている。なお、ウィキペディアでは、本シリーズを「D機関シリーズ」と称しているので私もそれに倣うことにする。

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紙の本

ロボット・イン・ザ・ガーデン

紙の本ロボット・イン・ザ・ガーデン

2017/09/25 08:12

ポンコツロボット“タング”と無気力駄目男“ベン”の珍道中から思わぬ結末に発展していく面白さ。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ポンコツロボット“タング”と無気力駄目男“ベン”の珍道中から思わぬ結末に発展していく面白さ。前半は少々冗長でイライラしたが、後半は一気読みでした。構成は大きく3つに分けられる。ポンコツロボット“タング”の登場で既にきしんでた家庭が崩壊、離婚して珍道中に出た導入部。徐々に、タングの謎が明かされて家族として生きることを決意する中間部。そして、旅を通じて成長したベンが、人生再生の手掛かりを得ていく結末部である。子供の成長と、それに伴う親の成長の物語とも重なって見えて来る。前半部は4点かなと思ったが、読み通して5点とした。

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紙の本

絶叫

紙の本絶叫

2017/05/24 08:52

壮絶の一言。

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

壮絶の一言。保険金連続殺人事件だが、そこに至る家庭の不幸、一度捕えられたら抜け出せない闇の社会の描写に圧倒される。主人公:鈴木陽子は憎むべき存在の筈なのに、何故か憎めない。陽子は、結局、完全犯罪を達成して別人として生まれ変わる。逃れられない宿命に囚われた一人の人間が社会の闇から抜け出して再生する、成功物語として読める為だろうか。犯罪は悪いことだと思いつつ、つい陽子に拍手したくなる結末でした。

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紙の本

ほっかいどう山楽紀行

紙の本ほっかいどう山楽紀行

2017/04/25 23:37

見るだけでも楽しめる山岳エッセー集の傑作。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

見るだけでも楽しめる山岳エッセー集の傑作。北海道新聞連載エッセーに加筆、新聞未掲載の4編を追加して計139山を紹介。写真も追加しおまけ情報やコラムもある充実の1冊となった。登山愛好家は勿論、登山しない人でも写真を見てエッセーを読むことで、登山の楽しみを味わえる満足間違いなしの本である。特に、見開きの山岳写真は新聞連載の時には味わえなかった迫力である。結果として、新聞連載時の制約が外れたことで、趣を異にする素晴らしい本となっており、連載を読まれた人にとっても新鮮な魅力を味わえる。
 さて、「少年の心で山へ」をモットーにする著者は、日本300名山も踏破しており、現在も道内650山以上を精力的に登り続けている。そうした記録は、著者のWebサイト「一人歩きの北海道山紀行」(http://sakag.web.fc2.com/)に掲載されており、1998年開設以来、現在までに305万以上ものアクセス数を誇る、日本でも有数の人気サイトとなっている。サイトを覗いてみると、「四国遍路」「熊野古道」「中山道」「大峰奥駈道」などの踏破記録もあり、年齢を感じさせない精力的な活動に中高年者も力を貰えます。「少年の心で山へ」をモットーにする著者のこれからの活躍にも注目です。蛇足乍ら、多くの人が手に取り易いよう、苦労して低価格に抑えた努力にも頭が下がります。

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紙の本

復活の日

紙の本復活の日

2016/12/11 00:12

今読んでも古いどころか斬新かつ真実味をもって迫ってくる発想の先進性に敬服するのみである。

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流石、小松左京の目の付け所は違いますね。この本の初出は1964年なので私が15歳であり、日本がやっと戦後復興期を乗り越えて高度成長に浮かれ始めた頃では。こんな時期に今読んでも古いどころか斬新かつ真実味をもって迫ってくる発想の先進性に敬服するのみである。

 プロローグにおいて、1973年3月、原子力潜水艦の不思議な調査航海を通じて徐々に南極大陸に閉じ込められた僅か1万人たらずを除いて人類は絶滅したことが明かされる。
 物語は196X年2月に遡り、生物兵器の秘密取引中の事故で、恐るべき微生物が外界に放たれる。しかも、その微生物の恐ろしさ、事故で消滅することなく生存・拡散を始めたことを誰も知らないのである。本書の約8割を占める第一部「災厄の年」では、その事故から微生物による人類絶滅・生物絶滅への過程が描かれていく。
 さて、この微生物・MM-88(P-35)とは、1963年から64年にかけて人工衛星によって地上300kmから500kmの宇宙空間から採集された微生物(RU308)を原種として開発された種なのである。(P-140)そして、その真の恐ろしさは、生物学的説明は私には少々難しくて良く理解できないが、「核酸」だけで生存して他のウイルスなどの微生物類に取り付いて劇的な変異をもたらし、場合によっては劇的な生物阻害能力を発揮することである。その取り付く微生物類はウイルスであれ細菌であれ何でもありらしいのだから処置なしである。極端に言えば、ありとあらゆる微生物に毒性を持たせて様々な症状で生物を殺傷するということである。また、その繁殖力は想像を絶するほど早く、強力と来ている。こうした優れた特質?に目をつけた新種細菌兵器として「核酸兵器」(P-174)という言葉が登場し、この微生物拡散によってもたらされる人類滅亡の過程を描きつつ、その恐ろしさが順次解説されていく。
 さて、こんな強力で拡散の早い未知の微生物なのだから、人類が滅亡するのはあっというまである。ほんの数カ月で絶滅してしまうのだが、この微生物の唯一の弱点は低温では不活性なことである。よって、南極観測隊や潜航し続けていた2隻の原子力潜水艦だけが生き延びるのである。
 本書の約2割にしかない第二部「復活の日」は短いが良く練られたどんでん返しの展開が見事である。かろうじて生存を維持し微生物の脅威が消失するのを待つ南極生存者たちであったが、ある調査の結果から北米大陸近傍で巨大地震の発生が予測される。この地震が起きると自動的に想定敵国に向けて核ミサイルが発射される米ソの全自動報復装置(ARS)が作動するであろうと考えられ、ソ連のそれは南極大陸まで標的にしているというのである。そうなると当然かろうじて生き延びている南極大陸の人類も絶滅してしまうことになる。そこで、2隻の原子力潜水艦に決死隊を乗せて、米ソのARSを停止する計画を立てる。普通ならこれが成功してメデタシメデタシなのだが、何と地震の方が早く起きてしまい、核ミサイルは予定通り発射されてしまうのである。エーーー、どうするのと思っていると、何とこの時期の核爆弾は破壊よりも人間の殺傷を重視したためその殆どが「中性子爆弾」であり、更に運良く(都合よく?)ソ連の標的に南極大陸は入っていなかったというオチである。そしてもっと驚いたのが、この謎の微生物の唯一の弱点が「中性子」で死滅するということであった。結局、ARSの核爆弾で放射された中性子線によって謎の微生物は絶滅し、地球は浄化されるという皮肉な結果となったのである。何とも用意周到というか、驚くべき筋書であった。

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紙の本

氷山の南

紙の本氷山の南

2016/12/07 10:11

氷山曳航計画の話かと思ったら、どうもアイヌ系一青年:ジン・カイザワが大人に成長していく哲学的物語でした。

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氷山曳航計画の話かと思ったら、どうもアイヌ系一青年:ジン・カイザワが大人に成長していく哲学的物語でした。大半は氷山曳航計画を担うシンディバード号の船内とその乗組員と曳航される氷山“箱船”との話であるが、後半でオーストラリアの原住民アボリジニの青年:ジム・ジャミンジュンとのグレゴリー国立公園での日常が描かれる。哲学的・精神的物語はあまり私の得意ではないのだが、氷山曳航計画や曳航される氷山“箱船”の話は具体的で興味深いし、氷山曳航計画に反対する拝氷教集団“アイシスト”は謎めいていて緊張感を与えている。しかし、これといって大事件が起こる訳ではないのだが、しっかりとした展開で全く飽きさせない。394:『真昼のプリニウス』(1993)では、「どちらかというと哲学的な話に収斂してしまい、徐々に退屈さを感じざるをえなかった。」ということで低評価だったが、本作で俄然名誉挽回でした。「理系知識を加味した哲学的評論」を強みとするらしいこの著者も注目株です。

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紙の本

泥流地帯 改版

紙の本泥流地帯 改版

2016/12/07 00:13

厳しい環境の中での人々の素朴でひたむきな生き方に胸を打たれる。感動でした。

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厳しい環境の中での人々の素朴でひたむきな生き方に胸を打たれる。感動でした。
 十勝岳の泥流被害に関する小説ということで、史実に基づいた小説も書けるのかという興味もあった。更に今年は、綾子の作家デビュー50周年記念(朝日新聞大阪本社創刊85年・東京本社75周年記念懸賞小説に入選(1963)した小説「氷点」の朝日新聞朝刊連載開始が1964年12月9日であった)と、2014年10月30日に「三浦綾子記念文学館」館長でもあった夫・三浦光世(90歳)が逝去したことを受けて急遽読み始めた。
小説の時期は1919年頃から1926年までの約9年間であるが、1919年は第一次世界大戦(1914~1918)の特需景気に沸いていた時期とはいえ、後進国であった日本は欧米諸国に追いつくため無理な富国強兵主義を推し進めていた時期である。当時国民の圧倒的多数を占める農民は最も底辺で様々な収奪に耐えなければならず、まだまだ開拓期にあった北海道においては厳しい生活環境にあったことが作品の中から強く浮かび上がって来る。だからこそ尚更、そうした厳しい環境の中での人々の素朴でひたむきな生き方に胸を打たれる。
舞台は上富良野町・日進地区となっているが、今の地形図や資料<注1>などによると“日進”は“日新”のようである。<注1>『1926 十勝岳噴火報告書』(2007(平成19)年三月) 中央防災会議 災害教訓の継承に関する専門調査会(インターネットで閲覧可能)
十勝岳泥流災害(1926(大15)年5月24日)が主役かと思ったら、意外や意外、上富良野町・日新地区における開拓農民の素朴でひたむきな生き方とそれが一瞬にして失われていった様が描かれており、主役はあくまでも開拓農民の生き様であった。とは言え、終盤(P-450)で描かれる泥流の様は100ページにも満たない短いものであるのに、その惨状を的確に記述しておりその有様が目に浮かぶようである。その記述の的確さは、文章を読むだけで泥流の速度が時速約60kmであったことが判るのである。祖父母が入植してから30年間の努力が一瞬にして無に帰したところで本作は終わってしまう。ある意味で「泥流」が主役となる復興の有様は『続・泥流地帯』で描かれるようである。よって、速やかに「続 泥流地帯」を購入して読み始めたのであった。
話が重大な転機をや事件に差し掛かると、突然時間を飛ばして肩すかしを食わせたうえで再度時間を遡って続けるというのがこの作家・三浦綾子の好みらしい。
1977(昭和52)年の作品。もっと自らも関わった軍国主義教育に対する批判的思想が反映されているかと思ったが、その辺は意外と控え目でした。レジスタンス文学ではないし、戦後でもありそれ程厳しい軍国主義批判も必要ないか。(綾子の思想基盤;1939年、旭川市立高等女学校卒業。その後歌志内町・旭川市で7年間小学校教員を勤めたが、終戦によりそれまでの国家のあり方や、自らも関わった軍国主義教育に疑問を抱き、1946年に退職。)

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紙の本

ジェノサイド 下

紙の本ジェノサイド 下

2016/11/28 10:34

しっかりとした情報に根差した知見でカバーすることで、如何にも真実と思い込みそうなリアルさで書ききってしまう筆力の凄さに脱帽。

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周到に準備された構成、膨大な資料に根差した深い知見、人間・人類とは何者で何処へ向かっているのかという深い洞察、ワクワクしながら読み続けラストは感動感動でした。謎の生物(人類への危機)の設定の卓見、スケールの大きさ。ちょっと間違えると荒唐無稽となる筋書きを、しっかりとした情報に根差した知見でカバーすることで、如何にも真実と思い込みそうなリアルさで書ききってしまう筆力の凄さに脱帽。評判通りの傑作でした。
著者は、『13階段』(2001年、講談社)で第47回江戸川乱歩賞を受賞している。

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紙の本

収容所から来た遺書

紙の本収容所から来た遺書

2016/11/26 10:33

感動しました。

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感動しました。前半は、むしろ淡々としたソ連での抑留生活の描写であり、ソ連の理不尽さや仲間を売ってでも自分は助かろうとする同じ日本人抑留者へのいきどおりを感じる程度であるが、後半になるとそのような逆境の中でも正義を信じて自分らしい生き方を貫き通した主人公・山本幡男の強さに涙を誘われる。そして、そうした生き方に賛同し、それを支えた同胞たちの努力にも敬意を表したい。山本幡男が呼びかけたアムール句会に集まった人々を観ると、優れた軍人は優れた文化人でもなければいけないとつくづく感じさせられる。さて、山本幡男なる人物像は下記のとおりであるが、むしろ共産主義思想家で、かつロシア文化にも造詣の深かった山本が、「反共」「反ソ」思想の持ち主として過酷な戦犯としての抑留生活を強いられたことに時代の矛盾・不幸を感じると同時に、ソ連型共産主義=スターリン体制の異常さを伺わせる。
 なお、著者である辺見 じゅんはむしろ歌人として有名な人らしいが、本書を読む限り綿密な取材を通じて素材を完全に消化し、それを再構成することにより物語性も兼ね備えた“ノンフィクション小説”に仕上げており、小説家としての実力もかなりのものとみえる。残念ながら、2011年9月21日に逝去している。

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紙の本

ユダの覚醒 上

紙の本ユダの覚醒 上

2016/11/23 00:59

今回は、ゾンビ・ドラキュラに通じる謎でした。

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今回は、ゾンビ・ドラキュラに通じる謎でした。歴史的事実と科学知識の謎とを巧みに融合した期待を裏切らない活劇がますます冴えてきます。シグマフォース側の主役たちが窮地に陥るのは毎回のことではあるが、今回はシグマ隊長グレイ・ピアースの両親までもがギルドの人質にされるという絶体絶命の窮地である。一方、ギルドのスパイが世界各国の主要組織に潜入しており、過去にはシグマとその上位組織であるDARPAの幹部にまで潜入していたことがあるが、今回もバチカン教会内部に潜入しており、加えて今回の事件の切っ掛けがギルドの冷酷な女性工作員であり過去に何度もグレイに痛手を負わせているセイチャンがギルドの同僚工作員に追われて助けを求めて来たところから始まるので、話は実に複雑な様相を呈してくる。さて、今回の楽しみは、『東方見聞録』を残したマルコ・ポーロの探検から派生して、シアノウイルス・ユダの菌株といった異常に高い致死率の伝染病の謎・治療法・発生源を調べて、マルコ・ポーロの航路を辿っていく謎解きは「天使の文字」と合わせて推理小説好きにはたまらない。今回は、科学的謎の組み合わせよりも、歴史的・考古学的な謎の組み合わせの方が多かったように感じた。事件は解決したが、多くの犠牲者や事後処理の問題が残っている。まず、人食いイカに海底へと引きずり込まれたシグマ隊員モンク・コッカリス(以前の事件で左手首から先を失い現代科学の粋を集めた未来型義手を着けている:キャットの夫)の遺品となった義手が埋葬直前にSOS信号を発していることにグレイが気付くことで生存を期待させる一方、伝染病に感染しながらも抗体を作ることで伝染病のワクチンを提供して人類の危機を防いだ海洋生物学者スーザンはこの奇病の原因であるウイルスの意志?に従ってウイルスの故郷で永い眠りにつくことになる。一方、今回の事件の発端となり、謎めいた行動を続けるセイチャンは、シグマの意図の下で事実上逃亡を容認されるが、逃亡する際にグレイに自分はギルドのトップを暴くためのスパイであると告げる。むーー、これも結末が気になる。しかし、続くシリーズ5『キルトの封印』ではどうもセイチャンの登場は無いようである。
なお、本書では、巻末に「著者あとがき 事実かフィクションか」と題した短文があり、小説中のことがらの「検死解剖」=「事実の部分とフィクションの部分の区別」を行っているが、本作では主な題材ごとに項目立てして解説しているのが初めてのこととして注目される。著者が、「小説の持つ信憑性は、話の中で提示された事実を反映するものである。・・・・・・たとえフィクションであっても、事実を見据えた上で書かれる必要がある。本書に登場する美術品、遺跡、・・・・などは、すべて実在する。・・・・・・・歴史的出来事も、すべて事実である。本書の中心となる科学技術も、すべて最新の研究と発見に基づいている。」(『マギの聖骨 [上]:The Sigma Force Series 1』(竹書房文庫、2012年7月5日、竹書房)より)

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紙の本

地のはてから 上

紙の本地のはてから 上

2016/11/16 09:30

北海道移住者の苦難の時代

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第一次世界大戦の好景気に浮かれた結果、株で膨大な負債を負い、故郷・福島から北海道へ夜逃げせざるを得なくなった登野原作四郎と妻つねとの、北海道逃避行の描写が冒頭から読ませてくれる。著者の文章力、時代認識の確かさが感じられる。もともとは本州からの移住者で形成された北海道であるのに、本州との結びつきが酷く薄いと感じてきたが、一部を除く移住者の多くがこうした“食い詰め者“であったのだろうと考えるとある程度納得がいく。津軽海峡を渡っていよいよ北海道に上陸するが、函館から小樽までの描写にはちょっと違和感を感じた。イワオベツに入るのに、函館→小樽→札幌→旭川までは良いが、この後帯広→池田→野付牛(現:北見)→宇登呂と旅してることに驚き。と、一気に読み進んだが、これはあくまでも本作の主人公が北海道に来るまでの経緯であり、100ページにも及ぶ「序章」であり、母親である”つね“の視点で語られている。
 以下、1章から5章、終章の6章からなる、長女“とわ”の生き様が展開される。

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紙の本

プラチナタウン

紙の本プラチナタウン

2016/11/08 23:54

言葉通りの「一気読み」の面白さでした。

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言葉通りの「一気読み」の面白さでした。日本を代表する四井商事の部長・山崎鉄郎は、縁故入社が決まっていた会社幹部の親戚を不採用にしてしまったことから、左遷の憂き目に。この出だしからして笑える。そんな時、故郷の町が巨額負債を抱えて財政再建団体に陥る寸前となる。窮した町が考え出したのは、大手商社の部長職にある山崎に町長として活性化策を考えてもらうこと。そして、妙な行き掛かりに酔った勢いもあり、何時の間にか選挙活動もなしに町長になっていたのである。またまた笑えます。しかし、町長になって実際に見た町の状況たるや惨憺たるもの。こんな町、再生できる訳ないだろと思うのだが、そこは小説であり、著者の腕の見せ所と言うことで、何と8000名規模の高齢者専用の町を作り上げてしまうのである。まあ、話しは上手すぎるよねという気がしないでもないが、地域再生の一つの発想として実に面白いし、何よりも左遷されたことに始まる逆転劇が実に爽快である。

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紙の本

地底世界 サブテラニアン 上

紙の本地底世界 サブテラニアン 上

2016/11/08 11:46

文句なしの冒険活劇でした。

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文句なしの冒険活劇でした。文庫本の帯に書かれた宣伝文句が、実に本書の面白さを的確に伝えていて面白い。上巻の帯、「戦慄の南極洞窟アドベンチャー!(上巻) 息を呑む圧巻のデビュー作(下巻)。怪奇(スリラー)、恐慌(パニック)、怪物(モンスター)、恐怖(ホラー)、冒険(アドベンチャー)、科学(サイエンス)・・・・・・・。この男、いきなり手抜きなしのフルコース!」。
 物語は、南極大陸の地下に巨大(北海道や日本がまるまる入りそうな大きさらしい!)な洞窟が発見され、そこから発見された人類発生以前の遺跡を調査するための調査団が派遣されところから始まる。しかし、この調査団は2回目で、1回目の調査団は何故か行方不明のままなのだ。さて、何が出てくるのかと期待していると、上巻も中ほどでワニの恐竜みたいな“クラッカン”と呼ばれる怪物が出現。あとは期待通りの怪奇(スリラー)、恐慌(パニック)、怪物(モンスター)、恐怖(ホラー)、冒険(アドベンチャー)、科学(サイエンス)のてんこ盛りである。この著者を知ったのは、世界的に有名になった「シグマフォース」シリーズであったが、本書が著者の長編冒険活劇の事実上の第一作だという。日本で出版されている彼の著作の最後に処女作品を読むことに成ろうとは思ってもいなかった。
 さて、南極と見て直ぐに思い出したのが、北極海を漂う氷島(実は60年ほど昔にソ連が運営していたが何故か放置された秘密研究施設)を舞台にした、ジェームズ・ロリンズ『アイス・ハント(上・下)』(扶桑社ミステリー、2013年6月23日、扶桑社)だった。こちらは純粋に科学的技術を巡っての米ソ軍の対決であり、本書と合わせて読んでみると面白い。

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紙の本

バーニング・ワイヤー 下

紙の本バーニング・ワイヤー 下

2016/05/24 16:21

しっかりと計算されつくした二転三転の展開に敬服

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しっかりと計算されつくした二転三転の展開に圧倒されました。科学捜査という一見地味な作業を生き生きと描いており、電力という何処にでもあるモノを途方もない大量殺人兵器として駆使する手腕に敬服でした。冒頭の電力トラブルから早い展開で“アークフラッシュ”による事故。それに並行する形でメキシコ舞台での因縁のテロリスト:ウォッチメイカー=リチャード・ローガンの追跡劇、更にFBI潜入捜査官フレッド・デルレイも何かの事件を追って登場してくるが、まだ伏線の段階。当面は、“アークフラッシュ”は事故でなくテロと推測したリンカーン・ライムグループによる科学捜査で、現場で何が行われたかを追求していくやり方に引き込まれてしまった。ライムグループによる捜査の結果、犯人は電力会社アルゴンクイン・コンソリデーテッドの中堅職員レイ・ゴールトと判明し、次のターゲットもほぼ推測されるが、惜しいところでレイ・ゴールドに逃げられ、次のターゲットの推測もできないという、犯人に一歩先行される展開で下巻へ。電力会社の保安部長バーニー・ウォールがレイ・ゴールトを捜索中に逆に捕えられ、追跡側の陣容を吐かされ攻守逆転。一方、10万ドルもの大金を盗んで(横領?)情報屋ウィリアム・ブレントに渡して貴重な情報を得ようとしたFBI潜入捜査官フレッド・デルレイの前にブレントは現れない。一方、伏線のまま忘れ去られていたウォッチメイカーがやっと本格登場してくるが、メキシコ警察の有能な捜査官アルトゥール・ディアス中佐を狙ったテロ現場で警察に包囲されている。何か予想外の展開・・・???・・・と思っていると、カリフォルニアでは電力テロが急展開。犯人とほぼ断定されていたレイ・ゴールトはテロ事件前に殺害され、何者かがすり替わっていたことが判明。しかも、その全体を企画した黒幕は電力会社女社長アンディ・ジェッセンであり、実行犯はその弟であるという。エエーッ、驚天動地の展開であるが、更に二転三転のどんでん返しが仕掛けられているのだから凄い。

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