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「個人の日記」という性質上、“史料”ということでは著者が本作の中でも指摘するように、多少の偏向は在るものの、「(当時の)最先端技術を駆使して大胆な事業に挑む会社の仕事に身を投じた、デンマークの20代の若者」の目線で自身の経験、見聞が率直に綴られたモノは大変に貴重だ。明治時代初期の長崎の雰囲気も、なかなかによく伝わる。
本書は、著者の解説でこのコルヴィの日記に綴られている内容を紹介するもので、なかなか夢中にさせてくれた。
本書では、コルヴィの日記だけではなく、同時代にデンマークからやって来た人達が遺したモノに関する紹介も在る。コルヴィの友人でもあった人達が遺したモノとしては、長崎から島原や熊本・八代を訪ねた経過を綴った、結果的に類例が殆ど見当たらない「明治初期の九州の地方」を記録したことになる旅行記や、古銭蒐集趣味が入口になり、古銭の発行時期や発行された時代の背景を探ろうとしたことが切っ掛けで生まれている「日本の暦の研究」等が存在する。
デンマーク…欧州の北寄りに在る小さな国ではあるが、明治期には本書のコルヴィ達が働いていた“大北電信”に関連することや、当時は外国人の経験者を雇うことも多かった海運や貿易の分野で、デンマーク人達は存外に大きな足跡を残している。そんなことを思いながら、本書を大変興味深く読んだ。また本書の末尾には、長崎の郷土史家による解説も付されているが、そちらも非常に好い。