投稿元:
レビューを見る
「カリスマ案内人と行く 大阪まち歩き」(創元社)を読んだのですが、随分、勉強になりました。
一言でいうと、この本、まったくと言っていいほど面白くない。
著者は栗本智代さん。
大阪ガスのエネルギー・文化研究所におられ、以前から「なにわの語りべ」の活動をされ、大阪のいろいろな街の片隅に残る歴史を掘り起こし、伝えている有名な方。私より少し年下ですが、将来はぜひ大学でも教鞭を取ってほしい方です。
そんな方が、“客”の立場になりきり、大阪のエリア別に、「カリスマ案内人」に案内をしてもらうまち歩きを敢行、というのがこの本の主旨。
ガイド役も、橋爪紳也さんのお兄さんで、大阪の街の歴史の生き字引、大阪大学博物学術館の橋爪節也さんや、オダサク倶楽部の井村さんなど、間違いないと思える方々。
こんなすごい組み合わせなのに、なぜ、面白くなかったか。簡単にいうと、通り一遍の案内だったから。これは、ガイド役も栗本さんも、きっと悪くないのでしょう。おそらく、出版の企画意図やコンセプトが弱かったんだと思います。
さすがに、橋爪さんや井村さんの担当部分は少し興味がわきましたが、例えば、私の地元を案内したOさんは、通り一遍、まるでカタログ的案内でした。Oさんは、私も取材を何度かお願いしたことのある方で、大阪の着地型観光を企画している、いわばプロ。貸し自転車屋も経営していて、今回は栗本さんと自転車で回っていました。
有名な豚まん屋さん、岩おこし屋さん、安治川トンネル、そして、舞洲のごみ処理場が外国の有名アーティストのデザインであること・・・など、地元の私ならずとも、読んだ人には、ふーん、とか、どこかで見たことあるなあ、聞いたことあるなあ、という程度にしか伝わらなかったはず。
「大阪アースダイバー」や「さいごの色街 飛田」など、ディープなまち研究をした本を読んだ後だけに、こうした数だけこなしているような案内本はつまらなく感じる。自分が案内するまちに歴史があり、魅力がいっぱいある、という気持ちはよく理解できるが、数ではなく、深さというか、感動というか、ストーリーみたいなものを感じて貰わなくてはいけないんだなあと勉強になりました。
大阪の石碑文化は面白くない、とよく言われます。
確かにその通り。
石碑があり、ここで何年になにがあった、という歴史解説がしてあっても、ふーん、で終わってしまう。それより、段差や坂道が残っていて、あるいは石垣の一部が残っていて、しかもそれが今も日常生活に関わっているというようなものを見つけた時にふくらむ、イマジネーションや物語性は、代え難いものがあると思います。
大阪のまちの片隅が発している魅力を、なんとか伝える方法はないかなと考えている私としては、この本、反面教師としてとても勉強になりました。