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スピルバーグ監督の映画「リンカーン」を観る前の
予習として本書を読みました。
数々の友人・政治家たちの証言、
残された手紙や自身が書いたとされる詩や、
心理学的側面からの考察を交え、
リンカーンが自身のうつ病をどう扱い、
晩年の政治活動に至るまでどう生かしていったのか、
詳細に書かれた内容はとても興味深いものでした。
正義感が強い、リーダー的存在、周囲を照らす太陽のような存在・・政治家や誰かを率いる人物といえば、こういう表現が浮かびますが、
本書のリンカーン像を説明する言葉には
一切出てきません。
「悲哀に満ちた表情」「細長く不気味な手足」「やせこけた顔」等、読んでるこちらがゲッソリするような表現ばかり。
一見近寄りがたい、本当にこの人で大丈夫か?と周囲が疑うほどの風貌だったにも関わらず、
彼のスピーチは、幾度となく民衆の心を
掴んだといわれました。
きっと、頼りない風貌が良い意味のギャップとなり、
より人の関心を引き寄せたのでしょう。
でも、リンカーンが大統領にまで上り詰めたのは、
語られているような人柄や潔癖さ、彼の優れたスピーチ力だけでなく、先読みによる周到な根回し力もあったからだろうなぁ、と思います。
かと思えば、親友、スピードに宛てた文面、
側近に見せた姿などからは
これがあの大統領の本当の姿なのかと思うほど弱弱しさ、絶望感に満ちており、
彼の二面性は最後まで理解しきれませんでした。
あとがきに記されていますが、
リンカーンの偉業や生い立ちをめぐっては
これまで多くの論者、歴史作家たちによって議論がなされており、個人の趣向や時代背景が深く影響して、
実話・作り話が入り混じる事態になっていたということ、
貴重な資料がインタビュアーの資金難という個人的な問題で高値で売られたりと、
散々な経緯があって、この作品が書かれたのだな、と
ゴシップ記事を読むように面白おかしく感じました。
ただ、日本語訳がわかりにくい部分が非常に多く、
何度も言葉の整理をしないと読み繋げない箇所があり
いくつか読み飛ばしてしまいました。
そこがとても残念です。
(エピローグはとても良かったのに・・)
改訂版か、もっとわかりやすい訳書がでることを期待します。