紙の本
「記号とは何か?」というテーマについて考察した非常に難しい内容を、出来る限り分かり易く解説してくれる一冊です!
2020/03/10 10:33
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、「記号とは何か?」という問いに答えるために、これまでの諸研究の成果を踏まえて、その基本概念と理論を体系化し、慣習的な認知を前提に意味作用とコミュニケーションを可能にするコードの成立の過程と機能の範囲について分析した一冊です。講談社学術文庫では、IとIIの2分冊として出版されており、同書は、I巻の「序論 文化の論理を求めて」、「第1章 意味作用とコミュニケーション」、「第2章 コードの理論」に続く、「第3章 記号生産の理論」と「第4章 記号論の主体」から構成されています。なかなか難しい内容ですが、それを読者に限りなく分かり易く説明・解説してくれます!
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第3章 記号生産の理論
3.1 概観
3.2 記号論的陳述と事実的陳述
3.3 言及
3.4 記号の類型の問題
3.5 類像性批判
3.6 生産様式の類型
3.7 創案としての美的テクスト
3.8 修辞的労働
3.9 イデオロギー的なコード切り替え
第4章 記号論の主体
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この邦訳本は「Ⅰ」「Ⅱ」となっていて全何巻なのかわからなかったが、全2巻である。
今までもエーコを少しは読んできたが、この本はエーコの記号論入門書として実に最適な、非常に優れた本だと思った。これが文庫で出たのだから、若者たちはみんな読むように。
若い頃ロラン・バルトに惚れて読みあさったことがあったが、この本に出会っていたら、私はもっと学問的に厳密な記号学の知を垣間見ることができたろう。
エーコは決して、今や世界の全ては記号であるなどと傲慢に言い放ったりしない。記号論には記号論のテリトリーがあって、その外部を否定することなどないし、精緻な記号論をあくまでも学問的に探究し、慎重に、ひたすら厳密正確を期して前進してゆく。
私にはやはり、Ⅱ巻の「記号の創案」の辺りがとりわけ興味深かった。
「創案とは、記号機能の生産者がまだその目的のためには分節されていない新しい素材の連続体を選び出し、その内部に内容面のタイプとしての形式的な関与的要素を写像することを目的として、それを組織化すること」(P199)
つまり新たな組み合わせによって新しいコードの系を生産する。この実例として美的テクスト=芸術作品について分析しているくだりが実にスリリングで、素晴らしい。
もちろん、芸術分野のすべてが記号作用であるなどとはエーコは言わない。しかし記号作用のコードとしての側面が、芸術の創作と受容(理解)の過程に存在することは否めない。
思うに、芸術的な作品の諸要素はすべて元来が多義的なのだから、作品の平面に交錯する無数のコードが成り立ちうる。
エーコはコードとか記号作用の体系といったものが、文化の中で静止しているということを否定している。コードは常に生産され、変移してゆく。文化の多層性は、だからコードの多層性と結びついているのだ。
記号論が市井の読書人やある種の知的ディスクール空間で脚光を浴びたのは、主に80年代だったろうか。
しかしエーコの記号論はそのような一過性のものではない、厳しくも確固とした存在意義を呈しているのではないだろうか?
私はこの本を再読し、さらに詳しく玩味することを楽しみにしている。