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迫真の祈り。
大学院の「古典古代学演習(2B)」の参考書として使用。授業では旧約聖書に表現される冥界とそこからの復活をテーマに考え、本書に収録の第88-89篇を取り上げるが、当然のことながら和訳や解釈には異なるところもある。
特に本巻では民族の神としての表現とともに、それにとどまらず全世界の神として捉える思想に重点が置かれる。「思想と信仰」の解説に際して周辺地域の叙事詩などとも比較し、文化的なつながりや共通性を挙げる。海の怪物を退治するモチーフや、有翼のケルビムについて、そのような観点から理解を深めることができる。
第一印象として、祈りの言葉の強さに驚きを感じた。神に願うことは畏れ多いと思ったが、詩篇には強烈なまでの剥き出しの願いや神にも詰め寄るような鬼気迫る表現があった。賛美や感謝だけではない要求や問いかけ、人々から神への接し方についての思想が垣間見えたような気がする。
原文は引用されず、読みが示されるのは一部の単語のみで、韻文の雰囲気を味わうことができないのが残念である。欲を言えば、索引があると便利だったろうか。
目次
○第76篇から第100篇まで
1.和訳
2.訳注
3.構成、主題、背景
4.思想と信仰