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綿密な取材と、掴んで離さない描写。エキサイティングな展開にぐいぐい引き込まれる。入りからやばい。
そしてダイモンは爆弾を落とした。朝起きてからずっと考えていたこと、彼の世界終末の日のシナリオだった。
「次の手順でいく」彼は続けた。「ただちにリーマン・ブラザーズの倒産に備えてほしい」間を置いた。「そして、メリルリンチの倒産」また間を置いた。「AIGの倒産」また間。「モルガン・スタンレーの倒産」最後にひときわ長い間を置いて、「そして可能性として、ゴールドマン・サックスの倒産に備える」
電話の向こうでいっせいに息を呑む音がした。
あと、経営幹部レベルのすごいとこ。
・電話はアシスタントがつないで、自分ではかけたり待ったりしない
・メールは後述筆記
・飛行時間短縮のためロシア上空飛行の許可を取りたいと言う
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リーマンショック前後のウォール街で何が起こったのか。膨大なインタビューやメール、証言等を集め分析したもの。リチャード・ファルド(リーマンCEO)、ロイド・ブランクファイン(ゴールドマンCEO)、ウォーレン・バフェット、ジェイミー・ダイモン(JPモルガンチェースCEO)、ジョン・マック(モルガンスタンレーCEO)、ジョン・セイン(メリルリンチCEO)、ロバート・ウィラムスタッド(AIG CEO)など金融機関のトップに加え、ポールソン財務長官、バーナンキFRB議長、ガイトナーNY連銀総裁など政府関係者も実名で登場する。それぞれの信念、保身、怒り、疑念、友情、家族愛、裏切り、株主対策などが絡まって、
「その日」に向かって進んでいく。内容は複雑だか、時間をかけてじっくり読み進める価値がある。下巻が楽しみ。
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2008年 9月、150年以上の歴史を持つ投資銀行リーマン・ブラザーズが Chapter11 による破産を申請したとき、僕はたまたまイギリスを観光旅行中で、リーマンのイギリス支社が本拠を置くカナリー・ワーフ近くに泊まっていた。破産が発表された翌日、ダンボールを両手に抱えた多くの社員が、涙ながらにビルから出て散り散りに去って行ったのを覚えている。オフィスの近所で従業員のペットを預る商売をしていた親父も、連鎖倒産していた。
本書は、ベア・スターンズの破綻・救済から、時々刻々と変化する環境の中でリーマンが破綻に至るまでの各金融機関 CEO、財務省、ニューヨーク連銀、FRB のパニックと奮闘を描く。巻末の「主要登場人物」のリストだけでも 100名以上に及ぶ大著で、ファニーメイ、フレディマックの半国有化に続く、リーマン、AIG、メリルリンチ、モルンガン・スタンレーとどこまで続くのか判らない信用収縮と流動性低下のシーンは圧巻。苦悩する金融エリートの姿はある意味感動的でもあるが、どうも毎日のヘリ通勤とか、社用のガルフストリームで出張とか、株価下落で牧場を売らないといけなくなったとかいう話を聞くにつけ、現実感が薄くなる。
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「証券かはリスクを減らし、流動性を高めると考えられていたが、現実に発生するのは数多くの機関と投資家が良かれ悪かれ密接に結びつく状況だった。」
リーマンブラザーズがいかに破滅していくのかについて多くの証言に基づき書かれたノンフィクションもの。
優秀な者たちによる駆け引きは面白く、私益を追求しすぎた結果として自分の利益すらもぶっ飛ばしてしまう環境を作る恐れがある危険な行為は、ほかの誰かが絶対に守るに違いないという確信がなければ行う事ができない。空売り。しかし、それが見捨てられたしまった場合、リスクテイカーはその最終決定機関を非難する。なんという強欲で私益中心なのか。
そのような私欲が渦巻く投資機関で働く事は、やはりとても面白いのだと思う。
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(上下巻共通)
結果としてどんなことがおこったかはわかっていたけれど、どんな経緯で事態が推移していったのかがわかって興味深く読めました。
何が正しい選択だったのかはわかりませんが、政治家がメンツにこだわらなければもう少し軟着陸の可能性が有ったんじゃないかと思います。
あと、経営者が事態をちゃんと把握できないのもおっかない感じでしたね。
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デリバティブは爆発しうるし、実際に爆発した。ウォーレン・バフェットはデリバティブを大量破壊兵器と呼んだ。
社会主義者。ミスター救済。ヘンリー・ポールソンは正しい闘いをしていると信じていた。経済システムを救うのに必須の闘いを。それなのに彼に与えられた称号は、人民の敵というのに近い。
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2008年9月12日夜ニューヨーク連銀にウォール街の銀行のCEOが集められた。議題はライバル会社であるリーマン・ブラザーズをどうやって救うか。政府の支援はない。5大投資銀行のうち最も弱く、最もリスクの高い(レバレッジの大きい)ベア・スターンズは既に倒れた。ウォール街の企業のレバレレッジは32倍、上手くいってる間はリスクをとればとるほど儲かり、幹部からトレーダーまで高給で他社に移籍されないように繋ぎ止めるのが当たり前だった。サブプライムローンなどの債券はひとまとめにされ、それから切り刻まれ、またまとめられてCDOという債券に仕立て上げられた。理論上はリスクを分散することで低格付けのCDOを組み合わせて出来上がったCDOは格付けが上がる。しかし、分散したはずのリスクはつながっていたためサブプライムローン市場の崩壊で金融システムそのものが崩壊の危機に陥った。レッドクリフの連環の計を思い出してしまったのだが鎖でつなげばそれぞれの船は安定し、悪天候でも船が沈んだり船が揺れて落ちたりするリスクは小さくなる。しかし一旦火の手が上がると鎖でつながれた船団全体が焼け落ちるリスクが高まることに気がついていなかった。
半年前の3月17日月曜日の朝5時リーマン・ブラザーズCEOのディック・ファルドは悪夢の週明けを迎えていた。金曜日に財務長官ハンク・ポールソンからビッグ・ファイブのベア・スターンズがこの終末に破綻することが告げられたからだ。しかもベア・スターンズは政府の支援付きでJPモルガンにわずか1株2ドルでたたき売られることが決まってしまっている。ひずみを見つけた空売り屋が狙う破綻のドミノの向け先は次に小さいリーマンだと言うことはわかっていた。市場が開くと同時にリーマン株は35%下落し、WSJのインタビューに応じた結果一旦50%下げた株は取引終了1時間前に上昇に転じ、結局19%安の31.75$で閉じた。
コロラド大学の将校養成プログラムで弱いものいじめをする教官につっかかって放校処分になったファルドが上巻の主人公であり、雑用係のバイトとして入ったリーマンでスタートレーダーでAMEXに買収されるまでの8ヶ月間、クーデターを起こし会社のトップに立ったグラックスマンに見いだされた。94年にAMEXがリーマンを放り出した際ファルドはCEOに抜擢され後のCOOである盟友ジョー・グレゴリーとともにアグレッシブな取引でリーマンを成長させた。このグレゴリーの人事が後に色々問題を引き起こすのだが直感に従い、後にリーマンを救おうと奔走する債券部門のトップ、ハーバート・マクデイドを専門外のエクイティ部門に移動させ、ブロンド美人(写真を見る限り?キャリアウーマンっぽくはある)のエリン・キャランをCFOに据えた。キャランは実力を見せようと張り切るが元は税務が専門でプレゼンは上手かったが破綻間近のCFOとしては適任ではなかった。人情家で激しやすいファルドは人事には関わらず、後にはグレゴリーやキャランを切ることも上手く出来ない。リーマンに投資する機関投資家はいくつかあったが最終的にはファルドが主導権を握りたがり、リーマン株を高く売りつけようとしたが為に全てご破算になっている。拡大期には戦闘を走る魅力的な���ーダーだったファルドには負け戦の殿軍の指揮は向いておらず、実際にリーマンが破綻する下巻では存在感を失っている。
金融危機を救おうとするポールソンはゴールドマンサックス(GS)のCEOからブッシュ政権に引き抜かれていたが、リーマンショック後にそこらにGS出身者がいたために批判を受けることになる。例えば下巻で救済されるワコビアのCEOロバート・スティールは7月まで財務次官で同じくGS出身だ。元財務長官のロバート・ルービンやポールソンが追い出したコーザインはニュージャージー州知事になっており、このクーデターに参加したジョン・セインはこの物語の中ではバンカメに救済されるメリルリンチのCEOだ。セインは911の当日GS本社にいた幹部のトップで不幸なことにその日だけGSのCEOとして仕事に就いた。
FRBのバーナンキ、ニューヨーク連銀のガイトナー、ビッグ・ファイブやシティ、JPモルガンといった商業銀行のそれぞれの立場で物語は進むがリーマンと並んで大きな位置を占めたのがAIGだった。AIGは会社の破綻に備える保険(CDS)を売り出し、大きな収益を上げていたが金融システムが破綻すると保険金の支払いは不可能になる。この本では「空売り屋」のヘッジファンドは名もなき悪役だが、マイケル・ルイスの「世紀の空売り」ではアンチヒーローとして描かれており、むしろ問題なのは無謀なレバレッジをかけてリスクを膨らませた投資銀行や破綻が足下に来ているのにCDSの販売をやめなかったAIGの方だ。原題の「TOO BIG TO FAIL」はリーマンではなくAIGに代表される複雑に絡まり合った金融システムそのものだが連鎖破綻を防ごうと資金注入すると、無謀なリスクをとった人達に高価な報酬を与えることになり、報酬を制限すると人員が逃げ出し問題の解決が遅れてしまう。政府としては何をどうしても批判は避けられない。
上巻で最も納得がいくのはオマハの賢人バークシャー・ハザウェイのウォーレン・バフェットの投資哲学だ。投資相手を検討してもし疑問点が余りにも多ければ例え答えが用意されていても投資しない。わからないものには手を出さないに限る。複雑な債券化商品を売り出したCEO達は自社の資産の時価を計算することが出来ず方針を誤った。
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原書名:TOO BIG TO FAIL
第1章 リーマン株急落
第2章 ポールソン財務長官の怒り
第3章 NY連銀総裁ガイトナーの不安
第4章 バーナンキFRB議長の苦闘
第5章 リーマン収益報告への疑念
第6章 襲いかかる空売り
第7章 揺れるメリルリンチ
第8章 瀕死の巨人AIG
第9章 ゴールドマン・サックスの未来
第10章 ファニーメイとフレディマック株急落
第11章 リーマンCEOの焦り
第12章 倒れゆく巨大金融機関
第13章 誰がリーマンを救うのか?
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リーマン破綻までの一連の流れが生々しく書かれている。登場人物が多く流れを掴みにくいが、現実ではこの様に様々な人物が登場しその利害が絡み合いそれが結果となっていく事が伝わってくる。
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利益至上主義による無謀なリスクテイクが裏目に出てしまい、追い詰められていくリーマンブラザーズ。
リーマンを助ける余力のないウォール街、共倒れの危機。
救済すべきか、すべきでないかに悩む財務省とFRB。
それぞれの利害が絡み合い、どんどん混迷が深まっていく。
金融システムで起きていることを、そしてこれからの先行きを見通せている者は誰もいない。
リーマンショックの顛末が、ユニークな各CEOたちや財務長官ポールソンなどの葛藤を基に描かれていて、とてもわかりやすかった。
下巻も楽しみ。
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この本を読むと、リーマンショックは不可避だったのではないかと思う。振り返って見ると、それぞれの打ち手の良し悪しは評価できるのだろうけど、トップノッチの人たちが、頭脳と体力を振り絞っても(から?)、あの結果になったことを考えると、資本主義という仕組み上、起こるべくして起こったとしか言えない気がする。
P99 バフェットはまたリーマンの財務諸表に取り掛かった。ある数字や事項が気になるたびに、そのページ番号を報告書の最初のページに書きためていった。読み始めて一時間と立たないうちに、報告書の最初のページは何十もの番号で埋まった。これは明らかな危険信号だ。バフェットは一つ単純なルールに従っていた。疑問が多すぎる企業には、たとえその答えが用意されていたとしても、投資してはならない
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リーマンショック後のウォール街のドタバタを再現。キーマンの動きをインタビューを基に克明に描いてくれている。アメリカの書籍らしく、人物説明が生い立ちから入るので、行ったり来たり感が強いのはご愛嬌か。
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リーマンショックから10年。日経の特集が組まれていたので、興味を持って読んでみた。
信用がすべての源となる金融業は、いったんその信用を失うと、途端に立ち行かなくなるという至極あたりまえのことではあるが、その重要性に気づかされる著書である。
銀行家とトレーダーの対立はウォール街の階級闘争と言ってもいい。投資銀行業務が芸術と見なされる一方で、トレーディングは、技術は必要だが知能や創意はかならずしも必要でないスポーツのようなもの。そういう考えが少なからずあった。
バフェットはまたリーマンの財務諸表に取りかかった。ある数字や事項が気になるたびに、そのページ番号を報告書の最初のページに書きためていった。読みはじめて一時間とたたないうちに、報告書の最初のページは何十もの番号で埋まった。これは明らかな危険信号だ。バフェットはひとつ単純なルールにしたがっていた―疑問が多すぎる企業には、たとえその答えが用意されていたとしても、投資してはならない。リーマンへの投資はなさそうだと結論づけて、その夜は終わりにした。
19世紀のウォルター・バジョットの有名な箴言が思い出された―”銀行家はみな、自分が信頼に足る人間であることを証明する必要が生じたら、どれほどうまく言い繕おうと、すでに信頼は失われていることを知っている”
取引の最終段階で、あとわずかでも好条件を引き出したいときにウォール街でよく用いられる言いわけである。CEOの許可を得なければならないから、と最後にひと押しするのだ。
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原題は”Too Big To Fail”。「私は世界大恐慌の研究者として人生をすごしてきました。歴史から判断しても、いま大胆な行動をとらなければ、ふたたび恐慌が訪れるでしょう。そして今回は以前よりはるかに、はるかに深刻なものになる」(ベン・バーナンキ、下巻、P.279)と言われた2008年9月の数週間のドキュメンタリー。
内容は関心あればお読み頂くとして、一番重かったのは、責任を負っている人ほど負っていない人に対して我慢しなければならないということだ。「山のようにある悪い選択肢のなかでは、いちばん現実的な解決策」(同、P.370)は政治家、マスコミに袋叩きにされる。事態が解決しなければ被害を受けるのは実は叩いている当人たちなのだが、それに気づいていない。こういう場面で人々を説得することはプロ同士の交渉よりも難しい。
貪欲で我が強く同時に献身的で異常なまでに仕事熱心、こういう多義性をもった人々を単純に「悪党」よばわりするのもメディアなら、彼らの成し遂げたことに光を当てるのもやはりメディア、ということで本書の著者はNYタイムズ紙の熟練記者。彼は末尾でセオドア・ルーズベルト大統領の言葉を引用する。「重要なのは批評家ではない・・・名声は、現に競技場に立つ男のものだ。・・・万一失敗に終わっても・・・勝利も敗北も知らない者たちと同じになることはありえない」(同、P.430)。
リーマンの経営者がワシントンで開かれた公聴会に呼ばれる。議員・有権者の罵声を浴びる中、弁護士に用意させた原稿を突然とじて即興で語った言葉。
「私は毎晩目を覚まし、何かちがう方法があったのだろうか、と自問しています。あのときの会話でほかにどう言えただろうか。自分はどうすべきだったのだろうか。そうやって、毎晩毎晩わが身をふり返っています。」(同、P.380)
スケール感や重さは人それぞれでも、仕事を真剣にやるというのはこの悔恨と日々向き合うこととほぼ同義なのではないだろうか。
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英訳特有の読みにくさはあるが、市場取引に8年携わり、ニューヨークに1年駐在した身からすると、非常に臨場感をもって楽しめる内容だった。同時に、世界の金融界の中枢は、登場するほんの数十人が仕切ってると思うと、とてつもなく恐ろしいと感じた。どうすれば、こんな人間たちに仲間入りできるのだろうか。キャリア、資産、何もかもぶっ飛んでいて、その意味でフィクションに近い感覚で読んでいたと思う。