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人の経験を脳内に描き込める言語。監視し判断する超高度AI。生物のように増殖し、人の生活圏を脅かすナノマシン。人は便利な道具を作り使う。道具は人の生活を生態さえも変えていく。支配しているのか、されているのか? 主従が逆転してはいないか? テクノロジーの進化は止まらない。それを是とするか、否とするか"人間性"が戸惑っていてもだ。近視で先を見通せないのに、危うい足取りで進み続けるのだ。
人らしくあることへの葛藤が描かれています。『allo,toi,toi』断末魔の悔悛の絶叫に悪夢を見ました…。
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作家初読み。これはすごい、面白い。テクノロジーで変容する世界と、変化する社会の中を生きる人間の希望、戸惑いや悩みを丁寧に描いたSF短編(中編)集。
「地には豊穣」
脳に経験を伝達するITP技術の発展は多様な文化や民族性を淘汰するのか。技術の便利さのみを信奉してきた主人公は、自らに強調された祖国人のパーソナリティを植え付けることで、新しい世界を見つける。個人のバックグラウンドに積み重ねられてきた文化や民族性の本質とは何か、何が個々の人間性を定めているのか。個人が自分の背景となる文化を選べる時代が来るのかもしれない。じーんとくるものがある。
「allo,toi,toi」
題材が重く生々しい。刑務所内でITP技術による脳の矯正実験を受ける小児性愛者の話。そして彼をモニタリングする科学者。「好き」「嫌い」とは何かを突き詰めていった結果、そもそもの人間の心の脆弱な部分が見えてきてしまう。心に残るも、ずしりと重荷が乗っかる感覚。
「Hollow Vision」
宇宙時代が幕をあけ、宇宙で暮らすための合理的な習慣やシステムが生まれていく。活劇ありでイメージ多様でわくわくする設定。他の三編より落ちるかな。
「父たちの時間」
面白い。テクノロジーの暴走が人類の危機を招くというよくある筋ではあるのだが、知的な興奮と物語としての面白さを併せ持った傑作になっている。ゴジラを連想。
原発のメンテナンスのために自律するナノマシンが実用化された世界。生物を模倣したナノマシン群は人類の予測を超えて進化を始める。
ナノマシン対策チームの主人公は、父親としての自分を意識の外に置きひたすら仕事に励んできたが、危機を前に再び家族との絆を見直していく。主人公がナノマシンの進化を自分や人間の生と重ね合わせて思いをはせていくのが面白い。世界の危機でも、人は生きて、家族を愛して、もがきながら前に進んでいく。
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「地には豊穣」「allo,toi,toi」は他のアンソロジーなどで読了済でしたが、改めて読み返してみても引き込まれる「凄い」作品でした。
「BEATLESS」をまだ読んでいないので、「hollow vision」はいまいち移入できませんでしたが、どんでん返しまで楽しめるエンターテイメント作品…でいいのかな?
書きおろし「父たちの時間」追い詰められた主人公が立ち向かう姿が、それだけで「父の背中」を彷彿とさせる描写が圧巻でした。
はずれ無しとは言え、もう少しボリュームが有っても良かったかな…
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あなたのための物語のスピンオフである「地には豊穣」と「allo,toi,toi」、BEATLESSのスピンオフである「HollowVision」、そして描き下ろし「父たちの時間」の合計4篇で構成された短編集です。
「HollowVision」だけはBEATLESSを未読のため掴みきれませんでしたが、どれも勢いと熱量の感じる秀作です。
特に印象深いのは「allo,toi,toi」と「父たちの時間」。
前者は小児性愛者の真に迫った哀切と慟哭すら感じられる内容で、後者は危うい均衡で成り立っていたバランスと秩序が一瞬で崩壊するそのスピード感と取り返しのつかなさをよく表現していました。
どれも短いので、読みやすい反面、多少の物足りなさを感じるのも事実です。
特に「父たちの時間」はできれば長編でじっくり腰を据えて読んでみたい内容でした。
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日本SF大賞2015受賞作2作品のうちのひとつ。4つのSF短編で、いずれも高度に科学技術が発達した未来を、それぞれ異なるアプローチで描いている。うち3つが他作品のスピンオフだが、知らなくても単独で十分読める。
1)地には豊穣
2009年に日本SF大賞候補となった「あなたのための物語」のスピンオフ作品。疑似神経制御言語「ITP」によりだれでも容易に経験の伝達が可能になることと、これまで個人のアイデンテティーを形成してきた文化的価値観のぶつかりが、まだ若い日本人の心の変遷とともに描かれた良作。
2)allo, toi, toi
1)と同じスピンオフ。少女を殺めた小児性愛犯罪者に対しITPによる矯正を試みるも、疑似神経が見せる幻の少女がきっかけで悲劇的な結末を迎える、印象的な作品。結局のところ、ITPは人格との折り合いという問題点を解決しないと使用に堪えないと感じた。
3)Hollow Vision
軌道ステーションで起きたテロ事件とそのてん末を、超高度AIが管理する未来宇宙とともに描く壮大な作品。宇宙空間での物理環境やhIE、液状ドレスなど近未来での宇宙生活のパーツが緻密に描かれていて、4つの中で最も想像が強く膨らんだ。宇宙旅行に行ってきたような気分になる。これも氏の長編「BEATLESS」のスピンオフ。
4)父たちの時間
書き下ろし。自然環境中で自己増殖を始めたナノマシンを止めるため研究に没頭する主人公が、別れた家族に対する「父」という自分の存在の在り方に打ちひしがれる話。ナノマシンの加速する増殖スピードが話の展開に緊張感と恐怖を与え、面白かった。長編に引き延ばしても通用するような気がする。
こうしてみると、長谷さんの作品には微細なロボット(ITP、タバコからの霧状コンピュータ、ナノマシンなど)が多数登場するなと思う。
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父たちの時間以外は他の作品集や雑誌で追っていましたが、こうやってまとまるとまた面白い。三作目と四作目のラストシーンの幻想的で恐ろしいような何故か感動してしまいそうな風景の描写が好きです。
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自己矯正が一般化した未来には、いつか死体になったときどの文化の下に積み重なるかを選ぶことが、自己を語ることになるのかもしれない。
(P.64)
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AIが人間の能力を超えてまもなく、様々な領域において人間を管理する役割を与えられ始めた黎明期を描くSF短編集。人類に有益であっても、人智を超えたAIに対する空恐ろしい雰囲気がそこはかとなく漂い、この物語の世界の今後について考えてしまう。
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SF。短編集。
ハードなSFとしては読みやすい文章は好みだが、各作品のテーマが難しい。文化、性犯罪、テロなど。
あまり心に響かなかったな。
「allo,toi,toi」はなかなか好きか。
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『あなたのための物語』の著者として名前だけは知っていたものの、まだ作品を読んだことがなかったため、短編作品集であるこちらがとっつきやすいかと思い購入。
一言で言って面白い。ついついページをめくって読了してしまった。
『あなたのための物語』購入したので、読むのがとても楽しみである。
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2016/11/20
タイトルにある通り、人間性をモチーフにしたSF4篇
判断や好みは自分の歴史から作られると感じた。
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表題のとおり登場人物たちを取り巻く「人間性」の葛藤を重点とした短編が4作収められた一冊。一話一話に時間をかけて、ゆっくりと読みたかった…。腰を据えて読まないと魅力が伝わりづらいのだろうなという作品。いつかリベンジする。
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短編集4編
人工による経験の伝承と文化的背景を扱った「地には豊穣」、小児性愛者の矯正の物語「allo,toi,toi」、宇宙ステーションでの海賊との戦いを描いた「Hollow Vision」、原子力発電所を扱った「父たちの時間」。どれもが少々本格的で、わかりにくく、難しかったが、確固たる世界が構築されていた。一番好きなのは最後の物語で、増殖していく「クラウズ」が不気味でその後が気になる。
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『地には豊穣』
再読
豊穣の月の下で薄れ往く文化差異を惜しむ話
豊穣という言葉は普段使わないとかどうでも良いことを思う
科学の力で言葉や国家や宗教と文化がたいらになるまで
果たしてどれくらいかかるか
他の話と比べると割と平和な話かもしれない
『allo,toi,toi』
再読
犯罪者心理とSFてきに接触する話
SFというより警察ものとか社会派とかああいう系統よりか
SFというのもそういうものだけれども
感情自律ができても犯罪は減らないだろうけれど文化は衰退しそう
『Hollow Vision』
スパイ大作戦な娯楽活劇調
『BEATLESS』の超高度AI世界は無尽に広がりそうなので
この話の結末もそのひとつとして見える
『父たちの時間』
今度の新ハリウッド版は期待できるのかという話
もとい
3年前のグダグダ神話崩壊ぶりがすごく日本人的だったが
日本以外はどうなんですかね
日本のことも良く知らない日本人には良くわからないけれども
父たちというより雄一般なのではというあたりはちょっと腑に落ちないが
閉じて終わる話でもないということか
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生まれた国の文化を捨てて生きてきたデラシネの話。
小児性愛者を矯正しようとする技術と、その試験台になる終身刑囚の話。
急激に進化するナノマシンを前に、科学者としての自分と父としての自分の相克に悩む男の話。
冷徹で淡々とした筆致で描き出されるのは、SFの文体による個人の魂の話です。SFとしてのアイディアの尖り具合もなかなか面白く、そのアイディアに立脚した世界観を存分に活かしつつエモーショナルな視点を貫くスタイルは、グレッグ・イーガンの短編に近いものを感じます。
・・・が、エモーショナルな作風であることは認めるんですが、その「エモーション〈情動〉」の描き方が、理に走っているのが鴨的にはちょっとアレかなー、と。
言いたいこと、表現したいことはものすごく伝わって来るんですけど、「あれがこうなってこのようになりました、だから私は云々」というト書きの描写が延々と続いて、いまひとつ登場人物に感情移入できないもどかしさがあります。理屈抜きでうわーーーっと魂を鷲掴みにする、そんな荒々しい表現もあって良いんじゃないかなと思うんですよね、「個人」をテーマに据えるからには。
SFの枠に閉じ込めておくには、勿体ないタイプの作家さんなのかもしれませんね。一皮むけることを期待したいと思います。