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『津山三十人殺し』は小説の題材にされたり、ネットでも有名でこの事件を知らない人の方が少ないのではないかという程ではないだろうか。岡山県民で事件の起こった加茂町の近隣の市に住んでいるという事もあり、他県の方からこの事件について詳しい場所などを聞かれたりするがこのような書籍で得た情報しか知らないというのが実情である。著者である石川清氏は『津山三十人殺し』の著者の筑波昭氏を矛盾、虚構などと書いているが如何なものかと思う。真実というのは現場に居合わせた人間しかわからないだろう。この本から得られたものは少ない。
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あまりに面白くて一気に読みました。
本著によって、私の中に何か引っかかっていた動機が氷解しました。素晴らしい本です。
題材となっている津山三十人殺しは、日本の犯罪史上でも有名な事件です。当時もセンセーションを起こし、なおかつ戦後でも映画八墓村がこの事件からヒントを得て描かれ、さらに周知されるに至ってます。
この事件をノンフィクションのドキュメンタリー形式で書いた、筑波 昭著の津山三十人殺しがあまりにも有名です。小生も数年前に読みまして、リアルなタッチ、実行犯の内面描写など感嘆したものです。
と ・ こ ・ ろ ・ が
その筑波 昭著の津山三十人殺しが、実はフィクションに満ちていたと本著で指摘しています。
本著によれば、事件研究所津山事件の真実(津山三十人殺し) の研究でそのフィクションが書かれ、筑波氏にインタビューしたところ半ば認められる供述をされたとのこと。
その部分とは犯人都井睦夫の内面で、阿部定事件に感化されたとか、大阪で遊郭通いをしたとかは創作であったと本著は指摘します。
しかし、この事件を世に大きく問うたこと、検察調書「津山事件報告書」を世に知らしめたことは大きく評価されると結論付けています。
本著はサブタイトルに「七十六年目の真実」と銘打たれている通り、筑波本のフィクションを訂正して余りある都井睦夫の内面を明確に描き切っています。
キーワードは「名家・都井家」と「ロウガイスジ」。
この二点については筑波本は軽くしか扱っていませんでした。
都井睦夫が犯行に至った動機は、それに祖母の盲目愛、集落性風俗の緩やかさ、に原因を求め、それを補完する目的で都井睦夫本人の性癖として阿部定への興味や遊郭通いを創作してしまいました。
本著は筑波本が軽視した上記2つのキーワードを深く深く取材し、都井本人の内面を描きます。
読み終え、その育ちの恨みや周囲から忌み嫌われてしまったことを考えると、これほどの犯行を犯した動機が(都井睦夫を擁護するつもりはありませんが)なるほどと納得できます。
都井睦夫に対し恨みを抱かれることをした人物は、事件発生時から都井が自殺するまで数時間であったのにもかかわらず、死んで後も蔵の中に丸二日間もこもって震えていたと書かれています。その恨みの理由も本著で詳述されています。
滅びに突っ走っていってしまった原因の「ロウガイスジ」。
病気によって簡単に命を落としてしまった時代の病気への恐怖は今では想像つきませんが、自分や家族の身を守るために病気とされた人の排除の仕方はすさまじかったと思われます。その病気のレッテルを貼られたまま小さな集落で生きていかざるを得なかった人はどれほど惨めであったか。
都井睦夫には、その惨めさを救ってくれる家族なり信仰なりがありませんでした(というか、なくなってしまったと表現するほうが適当でしょうか)。
そして結局、原因を「アイツのせい」と他人への恨みに昇華してしまいました。
もし���本人に魂の救い・心の安らぎを与える何者かが居たら、滅びへのベクトルが修正できたのでは思われて残念でなりません。都井は特に恨んでいた某女性にも「いつも睨み合っていないで、たまには笑顔で話してやってもいいけどね」と安らぎを求めたのに対し、その女性はケンもホロロに拒絶したことが暴発の直接原因になってしまっています。そして、たった一人の肉親である姉が嫁いでしまい、心許せる友達も出征した最悪のタイミングで犯行が起きてしまいました。 何もかもが最悪の展開になり、あの事件になってしまいました。
この事件を扱った書物の中で、都井本人の心の闇を照らしたという意味では、白眉といって過言ではないと思います。三十人を殺した極悪人、であることは間違いありませんが、本著は今までのステレオタイプな犯人像に一石を投じたと思います。
良い本でした。
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先月号の「本の雑誌」の特集が事件ノンフィクションで、うーん、好きなジャンルではないんだけどなあと思いつつ、いくつかのタイトルに興味を抱いて、読んでみることにした。これはそこで紹介されていた「津山三十人殺し 最後の真相」の著者が、さらに新しく調べたことを加えて書いたもの。
「津山三十人殺し」については、個人的には「八つ墓村」より山岸涼子先生の「負の暗示」から受けた印象が強い。本書を読んで、あれはかなり正確に事実に沿っているのだということがわかった。(「負の暗示」は「神かくし」という文庫に収録されているが、どの話もオソロシイ)
この事件の異様さ、殺戮の凄惨さはもはやいうまでもないだろうが、さすがに七十六年という歳月がたっているので、ある種歴史の中の出来事という感じがして、そこにわずかな救いがある。
というのは、本書の前に「消された一家 北九州・連続監禁殺人事件」を読みかけたのだけれど、そのあまりのむごたらしさに途中でやめてしまったのだ。この事件は報道規制が結ばれて(それほど残忍な犯行だった)、詳細が一般には知られていないそうだ。少し読んだだけでも、それも無理はないという気がした。この事件は2002年のことで、当然ながら、長期にわたって想像を絶する苦しみを味わったあげく死んでいった人たちの、身内や友人、知人の方たちがたくさんいる。もし自分がその立場だったらと思うと、この本の内容は耐えがたい。赤の他人である自分が、ここまで詳細な事実を知ることに、その痛みをこえるだけの理由があるだろうか。そう思ったらもう読めない。
事件ノンフィクションが苦手なのは、いつもそういう後ろめたさがつきまとうからだ。それでも読んで良かったと思えるものには、なかなか出会うことがない。
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有名事件のルポ。正直、三面記事的事件はネットでまとめられている時代に、いまさらだと感じつつ読んでいった。筑波本というこの事件取材本を否定するところがあるが、ちょっと弱いなあと。推論や書き方に抵抗がある。型通りというか若いというか。2013年に現地や存命の関係者に取材しているのは認めるのだが。そこまで期待していなかったので、そんなものだよね、と確認の読書だった。多くの小説などの創作の元ネタとして参照される、面白いネタが満載の事件であると、再認識できた本だ。
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八つ墓村のモデルになった、日本で最大死傷者数を誇る殺人事件について書かれた本です。
とはいえ犯人は決して異常者ではありません。
家系問題や結核発症、結核差別からの村八分など様々な要因が重なってこのような事件を起こすに至ります。
普通の人が最大死傷者数の事故を起こすに至る過程は運命的に残酷で、遺書を読んで正直号泣してしまいました。
優等生であったゆえの高い自己評価と、過保護教育からの怠け癖や他責の傾向の強い性格など、何が人の性格を作っていくのかという点について考えさせられました。
犯人の人生や生活について想像が広がり、とても面白かったです。