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『ボトルネック』にも『インシテミル』にも響かなかったのに『儚い羊たちの饗宴』でずどんと撃ち抜かれたのだから、この結末、予想できていた。そして本当に、嬉しすぎる予定調和だった。
気持ち良く言い切ります。
米澤穂信は、短編がいい!
『儚い〜』ではどこか懐古主義的韻律で物語を括りつつ、少女目線の濃いサイクルで短編をまとめた米澤穂信が、今回は、土俗的、古典的、伝統的な正当の手法で、小さく堅実に、物語を横串につないでみせてくれる。
小市民シリーズなどの作家の顔とはまた違って、リアリティたっぷりに様々な違う犯罪者たちが描かれるが、驚くのはそれぞれの描き込みかた。
中学生の繊細な心の機微はいいだろう。しかしそれと横並びに駐在員の巻き込まれる東南アジアの利権にからむ賄賂文化、江戸川乱歩の薫り漂う下宿などをぴしりと書き込まれると、この人、やるなあっておもう。
難を言うなら、それがあたしがこの人の長編が読めない理由なのだが、とにかく犯人がわかりやすい。犯行理由も、ものによってはわりとらあからさま。素直といえば素直だし、短編だから仕方ない?でもすこし、勿体無い気もするのだなあ。地の文が丁寧なだけに、も少ししなやかにしまっても?
なんて贅沢ですが、いやもう、あともういっぽ。関守はそれを差っ引いても、しん、と、沈むような恐怖があって、よかったもの。
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ミステリ短編集。さまざまなシチュエーションで描かれたそれぞれの物語は、どれも引き込まれるのだけれど。どうもラストにはうすら寒いものが残ってしまいます。でもきっとそれが魅力!
お気に入りは「関守」。都市伝説の取材に行く主人公。ありがちなネタに思えたはずが、どんどん募る不穏な雰囲気。じわじわぞくぞくと嫌な予感が満ち満ちた後のこのラストは、何ともいえず怖い。その陰の物語が悲しく、真剣な思いがあるだけ、余計に。
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とても良かったです。
うっとりしてしまう程の絶妙な後味の悪さ。
ブラックな米澤さんは大好きです。
6編いずれも良く練られていて、巧いなーと感じさせる大変満足な1冊でした。
短編ではあるものの人物描写や背景は色濃く描かれ、黒さの中にもほのかな甘さを感じさせる。
この配分がお見事。
そして世界の反転する様が美しく痺れます。
「死人宿」「柘榴」「関守」が特に好み。
少女だからこそのしたたかさや生々しさ、おぞましさを感じる「柘榴」が絶品です。
『儚い羊たちの祝宴』も大好きな作品なのですが、この作品も素晴らしいです。
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これぞ米澤穂信の世界、という1冊。
嫌ミスっぽく感じる方もいるかもしれないけれど、いずれも人間の情念の世界が感じられ、逆に静かな湖面のような読後感がありました。
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儚い羊達の祝宴の続編のような短編集です。米澤穂信のブラックの部分が出ていてとても面白い。特に「柘榴」では女の打算が見えてくる。少女でも、女なのだ!と思う作品。「死人宿」「関守」「満願」なども、女のしたたかさが出ている。目的の為には、そこ迄出来るものなのだろうか?とも思えてしまうが、面白い物語です。
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事件や犯罪に関係する六編の物語。登場人物たちの日常はそれぞれ抱える事情により重苦しさを増していき、意外な結末や真相を迎えると同時に人の心の闇があぶり出される。
表題の『満願』は、六編のうち一つのタイトルですが、全体を通しても人の「願い」がテーマなのでしょうね。彼らの動機、つまり願いは何だったのか、願いのために人は何を選択し、何を切り捨ててしまうのか。
始めから惹きつられ、登場人物といっしょにじりじりとした焦燥感に駆られ、いったいどうなるのかと一字一句から目が離せませんでした。非常に満足度が高かったです。
シンプルで丁寧な文章は非常に読みやすい。中身は濃密かつ緻密。周到に練りこまれた伏線の妙。謎と真相への驚きが物語の中に自然に織り込まれていて、本当に上手い。
どれもよかったですがホラーテイストな『関守』が特に好み。
『夜警』殉職した新人警官について思いを巡らせる交番所長。なぜ彼は発砲するに至ったのか。幾つもの事実が繋がり見え方が変わってくる新人警官の人となりと行動。硬質な緊張感。自業自得感がありますね。
『死人宿』遺書を書いたのは一体だれか。一番推理らしい推理をしている。主人公がんばったのにな、ひどい。主人公を一番応援した作品。
『柘榴』稼がず生活能力のない夫と別れる決心をした妻。二人の娘の秘めた想いとのすれ違い。どこか耽美的でグロテスク。これから先が想像されてしまうだけに一番後味が悪い。
『万灯』バングラデシュのガス田を調査にきた商社マンの冒険。現地住民との交渉に難航する彼の運命は。追い詰められ感が凄い。一番先が気になったのはこの作品。社会派エンターテイメントとしても秀逸の出来。
『関守』峠の連続事故をオカルト雑誌の記事にするため現場近くのドライブインで老婆に取材するライター。怪談風で特に好みの一作。上手い。怖い。もうずっと初めから不穏で怪しくて、全ての情報がかっちりはまる快感がそのまま怖さに繋がる。
『満願』殺人を犯してしまった女性が刑期を終え出所する。かつて彼女を弁護した主人公は、下宿時代の彼女の思い出から事件と裁判までを回想するうちに彼女の真の動機に気がついてしまう。彼女の動機は、もはや動機というよりも業であり、自らを支える誇り。気付きの小道具が上手い。
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一貫して暗く重い内容ばかりだ。でも私は嫌いじゃない。そしてどの話もノスタルジーが漂う。住宅地の街灯、温泉宿やドライブインのほの暗さ。夜店の豆電球。アジアの辺境での光を閉ざした話し合い。そして古民家の客間。どれもがどこか郷愁を感じる。初めてこの作家の小説を読んだが、深い力を感じた。別の本も読んでみたいと思った。
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収録された6編に共通するのは人が死ぬことくらい。心理サスペンス、社会派サスペンス、推理もの、ホラーじみたものなど、かなり毛色や長さの違う話が収録されている。敢えて言うなら無意味なほど広大なジャンルを表すカテゴリ用語となった「ミステリ」ってことになるだろう。
最も長い「万灯」がいちばん好きだけど最も米澤作品っぽくないかもしれない。他には「夜警」「満願」が好みだが、この3編は時制の倒置がおこなわれている点が共通している(所謂倒叙小説)。内容にはあまり関係ないかもしれないが・・。それにしても作品の幅が広いな~。
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短編のミステリーが6編。
なんとも完成されたお話ばかりで、くいくい引き込まれる。
美しい母子が静かに策謀を巡らす「柘榴」が特によかった。
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ううん、ブラック!
一番最初に読んだ米澤穂信の文章がこっち寄りだったなーと懐かしく思った。
古典部とか読んだあとにこれ読むと、色の違いがすごくて圧倒される。
短編集ですが読みごたえあります。
ごちそうさまでした!
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ストーリーセラーシリーズは全部持ってるつもりだったが、表題作を読んだ記憶がない。
Amazonで調べてみよう。
相変わらず面白いが、書き下ろしもそろそろ読みたいなあ。。。
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どのお話もテンポよく、面白くかつ読みやすく
クウォリティーの高いものだった。
「夜警」と「満願」が特に良かった。
ぐるっと頭の中を回転させられる感覚に陥るような
展開が恐ろしくゾクっとしながらも面白かった。
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部下が殉職した。夫婦喧嘩の仲裁をしようとして、包丁を振り回した夫を射殺し、その包丁で刺されて死んだ。あいつは、警官には向かない男だった。(「夜警」)
職場のいじめに耐えかね、それから守ろうとしなかった私から姿を消した恋人が見つかった。彼女は、叔父の経営する宿で仲居として生きていた。その宿は、火山ガスによる不幸な死亡事故がしばしば起こるため『死人宿』と呼ばれていた。(「死人宿」)
夫である佐原成海は不思議な男だった。美男子ではなく、着ているものも上等ではない。けれど妙に異性を魅了する話しぶりの男だった。しかし家庭人としての彼はよくない男だった。娘たちのため、私は離婚を決意する。慈しんできた娘たちの親権は、私が手に入れるはずだった。(「柘榴」)
会社のため、人々のためにガス開発に携わってきた私は、これまで確かに最善を尽くしてきた。アラムを殺したのも、森下を殺したのも、全て必要なことだったのだ。しかし、私は今、裁かれている。(「万灯」)
フリーライターの私は、都市伝説ムックの記事のため、先輩に紹介された山奥のドライブインを訪れた。ドライブインの先で謎の交通事故が四件続いていたのだった。(「関守」)
弁護士になるための苦学生活を支えてくれた下宿先の奥方が借金苦から人を殺してしまった。刑を軽くするため奔走したのも既に昔、今日、彼女が刑期を終え出所してくる。(「満願」)
図書館でひたすら待った甲斐があった……。全体的に後味の悪いホラー寄りのミステリだけど大変美味しくいただいた。
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人生を賭けた激しい願いが、6つの謎を呼び起こす。期待の若手が放つミステリの至芸! 人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機とは――。驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、フリーライターなど、切実に生きる人々が遭遇する6つの奇妙な事件。入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジック。「日常の謎」の名手が描く、王道的ミステリの新たな傑作誕生!
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表題作のほか、「夜警」 「死人宿」 「柘榴」 「万灯」 「関守」
どの物語も最後の最後に驚かされる。それもただのどんでん返しではない。人間の心の闇の深淵を覗くような、背筋が寒くなるようで、一瞬にして足元をすくわれたように落ち込んだ気分にさせられるのである。信じたい気持ちと、それでもやはりこのラストが真実なのだと心底ではわかっていたような昏い気持ちの狭間に閉じ込められたような読後感の一冊である。
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期待の若手が放つミステリの至芸!
人生を賭けた激しい願いが、6つの謎を呼び起こす。
それは果たして、罪と呼べるのだろうか?
男が女が、善悪を超えて守ろうとしたものは何か?
巧みな心理ドラマが織りなす、米澤ワールドの新たな最高峰!
■夜警
警察に適した人間とは?
交番勤務の巡査殉死に隠された真実。
■死人宿
当て推量でもなく、狭量な常識にもよらず、謎を解くこととは?
合理性より優しさが大事な時もある。
■柘榴
離婚調停中の両親に対し、美しい中学姉妹がとった行動は?
勝ち取られるトロフィーの価値は、描かれない。
■万灯
日本に新たな資源をもたらすためなら何だってする覚悟だ。
それがたとえ殺人であっても。
しかし、思いもよらぬ存在により男は裁かれる。
■関守
毎年1人死んでいるという峠に取材しに来たフリーライター。
途中のドライブインで老婆に話を訊くことにするが……。
道祖神は実在していた。思いもよらぬ排他心を持って。
■満願
殺人の末、刑期を静かに終えた、若き日にお世話になったおかみさん。
殺人を犯した、ほんとうの理由は?
果たして満願成就といえるのか。
どの短編も非常にハイレベル。一番は横山秀夫なみの警察小説でもある「夜警」でしょうか。
「関守」「満願」あたりも、語りが上手い。
ミステリ :☆☆☆☆☆
ストーリー :☆☆☆☆
人物 :☆☆☆☆
文章 :☆☆☆☆☆