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リスクやストレスを背負いながらなぜこの建物を建てるのか。
見えないものに導かれているのだろうか。
教会を建てるような、祈りや信仰に近い気持ちだろうか。
出来上がった空間は神秘的で、崇高で、静謐さがある。
その空間に身を置いた時、熱い想いや
込み上げる想いを感じる。
負が正に変わる瞬間かもしれない。
誰の利益になるか分からない状態で、プライドや執念や信念がなければ出来ない仕事だと思う。
そのギリギリの状態だからこそ、潜在的な能力がひきだされ不可能を可能にするのだろうか。
沢山の人の痕跡が残り、記憶を継承する建築。
建物でありながら、人に対するような愛着を生む建築だと思った。
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記憶のたたずまい 松家仁之
はじめに
家を建てるわけ 2008.09―2011.06
松原隆一郎 家の来歴 戦前
松原隆一郎 家の来歴 戦後
松原隆一郎 家を継ぐ
松原隆一郎 実家を売却する
松原隆一郎 書庫と仏壇の家を探す
堀部安嗣 依頼を受ける
どんな家を建てるのか 2011.06―2012.05
松原隆一郎 阿佐ヶ谷の土地柄
松原隆一郎 堀部建築との出会い
堀部安嗣 施主との出会い
堀部安嗣 ふたつの目[コラム]
松原隆一郎 住み手から見た堀部建築
松原隆一郎 どんな書庫住宅を望むか
堀部安嗣 初期プラン
堀部安嗣 第二プラン
松原隆一郎 仰天の最終プラン
堀部安嗣 最終プラン
堀部安嗣 墓[コラム]
堀部安嗣 プレゼン
堀部安嗣 実施設計
堀部安嗣 図書館[コラム]
建ち上がる家 2012.05―2013.03
松原隆一郎 施工会社の奮闘
堀部安嗣 工務店探し
堀部安嗣 着工
松原隆一郎 職人の仕事
堀部安嗣 施工プロセス
松原隆一郎 建ち上がる書庫と仏壇の家
堀部安嗣 竣工
堀部安嗣 記憶[コラム]
工事現場から
おわりに
帯を見るだけでも買ったかいがあります。円筒形の書庫がいかにして誕生したのか。
面白く羨ましい。
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親の家を処分し、仏壇を守ることになって、膨大な本と仏壇のための書庫を建てたルポ。
図書館などでみるような円形のらせんの書架の家。その中間くらいに親の仏壇も収まっている。
ふしぎな書庫兼書斎。
ぜひ実物を見てみたくなる!
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まず「書庫を建てる」という題に惹かれた。
「1万冊の本を収める狭小住宅プロジェクト」というサブタイトルも、某ビフォーアフターのような、プロジェクトXのような感じで好奇心を煽る。
いたってシンプルな表紙をめくると、まるでこの建物の扉を開いたように、入り口からの写真がカラーで掲載されていた。
まるで灯台のように、地階から最上階まで吹き抜けて連なるらせん階段の壁面に、同じくらせん状にぐるりと連なる書棚。
…素晴らしい!こんな書庫が欲しい、いや住みたい。読む内に、この建物を作るに至った施主や設計者の思いがわかり、この建築がどれだけ難しいか、唯一無二のものかもよくわかりましたが、…ああ、でもやっぱり住んでみたいなあ!
ぜひこたつを持ち込みたい。
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『劇的ビフォー・アフター』というテレビ番組がある。狭小住宅や危険家屋で暮らす施主の依頼に応え、その家屋をリフォームする過程を、司会者とゲストがクイズなどに答えながら視聴者とともに見守り、リフォーム前と後の落差に感動する施主の反応を見て楽しむ、というあれである。番組のミソは、設計を担当する「匠」と呼ばれる建築家に、あらかじめ注文はつけるけれど、それがどんな風に具体化されるか、施主は完成するまで見せてもらえないところにある。この本は、ちょうどその書籍版といったら、よく分かるかもしれない。
もちろん設計図や模型は施工前に示されるし、施主はそれに納得して契約するわけだが、それなりに著名な建築家に設計を依頼する時点で、ある程度、建築物が施主の意向に沿っていさえすれば、その具現化は、建築家のアイデアが中心になったものになる。つまり、金を出し、そこに住まうのは施主の方だが、建物は「誰それの(設計した)家」になってしまう、という点で両者はよく似ている。
それでは、施主は満足していないかと言えば、そうではない。自分の希望を深いところで受け止め、とうてい素人ではなしえない造形にまで導くという点がすべてをクリアしてしまうからだ。この「書庫」の凄いところは、施主である松原氏の希望、それは、たとえば浴槽に浸かりながら草花を眺める、とか、屋上庭園だとかいう、いわば通俗的な願望は、あっさりうっちゃって、その心理の深いところにある、祖父の残した「イエ」の継承という本質をズバリとつかみ出し、円筒形の吹き抜けの内側に仏壇と本をすっぽり納めてしまったことにある。
建築家は、アレクサンドリア図書館だとか、納骨堂だとか、その発想のよって来るところを書いてはいるが、円筒形のなかに「仏」を納めるという観点から見れば、この書庫は「経筒」や「厨子」、もしくは「持仏堂」の一種と考えることができる。それかあらぬか、建築家の文章からは、共に記憶を蔵する場所としての書物と墓所の類似に思い至ったことが述べられている。
平行四辺形の形をした八坪ほどの狭小地に書庫を建てる。しかも、そこにはかなり大きな仏壇を納めることが必須条件となっている。なぜなら、この書庫は、祖父の残した実家を売却した費用でまかなわれているからだ。というよりむしろ、祖父の思い出の残る実家とその土地を、そのまま残すことができなかった直系の孫が、新築書庫という形で祖父の位牌の入った仏壇を安置する建物を建てる、というところにこそ深い意味が込められているのだ。
事実、冒頭から書き起こされるのは、松原氏の家の来歴であり、多分にこみいった家庭事情なのだ。裸一貫で事業を起こし、成功者となった祖父は、信頼していた人間や国家にその財を奪われ、最後には魚崎の実家だけが残る。父は資産家であった家の思い出に生き、実態から目を背け、他者と縁を切り、残った資産を独り占めする。しかし、阪神淡路大震災で、その実家も倒壊。父の死後は、兄妹三人で分割相続することになる。
実家にあった石や樹木まで移築、移植しようという、家の継承ということに対する松原氏の強い思い入れには共感する人もそうでない人もいるだろう。評者も長男として仏壇を引き継ぎはしたが、父母の建てた家は白蟻の被害もあり、解体してしまった。狭い土地のことで、庭も木もない。特に思い出に残るようなものもなければ、それを失くしたことで悔いるところもない。所詮は人によるのだろう。
松原氏は、仏壇や庭木に対するほどには、本自体に思い入れは少ないようで、仕事に使う資料として検索、取り出しに適した形で常時一万冊を収納できることに主眼を置いている。写真で見たところ納められているのは、現在公刊されている本に多い白い背表紙が目立つ。所謂書庫というより、アナログのデータベースといった印象を受ける。そのなかで異彩を放つのはなんといっても立派な仏壇であろう。白檀の香の匂いが漂ってきそうな荘厳な佇まいを見せている。文庫や新書も多く並んだ書棚にはそこまでの迫力はない。
建築家と施主が、一つの建築物が完成するまでの思いをそれぞれ語るという形態も興味深く、どこにも直角を使用しない矩形を底面とした躯体内部に複数の円筒形を刳りぬいたRC造の小豆色の書庫、というなかなかお目にかかれない建築の出来上がるまでを、どうぞじっくりと検分されたい。
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この空間を体感したいと強く思いました。
先日ご一緒させていただいた吉川の鯰さんもこの建築に関わっていたんですね。
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堀部安嗣さんのはじめににあったように、建物1つたてるときに、施主さん、設計者、施工者に無数のストーリがあるがゆえに、建物ができ上がる過程は小説を読むようで面白い。施主さんも、何か強い事情により、建物を必要としていました。きっかけは幼少時代を過ごした祖父の家を処分しなければならなかった、それゆえに祖父の来歴をたどっては処分することを自分なりに納得していき、仏壇を置く場所としての書斎をつくることにたどり着いたという長い前置きがありました。それがあったから竣工したとき、ああ良かったですねと読者もほっとするのだと思います。
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松原隆一郎、堀部安嗣、共著の書庫を建てる。
建築家とクライアント交互の視点で阿佐ヶ谷の書庫竣工までを綴る。
前半の松原家の家歴探訪パート大変興味深かった。
堀部さんのストイックさ、松原さんの堀部さんへの信頼。どの要素が欠けても良い建築は出来ないのだよな。
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1万冊も本はいらないし、こんな書庫を建てるお金もないけど。できるまでを外野から読むのは本当にたまんない!
http://www.ne.jp/asahi/behere/now/newpage193.htm
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崩壊した親族関係と、残った「家」と「イエ」。
タイトルは「書庫を建てる」ではあるが、家族関係に呪いを抱えたまま仏壇と書庫を収める鎮魂の家を建てよう、というお話。
冒頭は結構暗い動機が続く。四度目の堀部さんとの仕事の決断には奥さんのヒトコト、フタコトが効いている。やっぱりそういうものか。
ちょっと変わったケースではあるけれど、建築をめぐる様々なファクターが織り込まれていて、また施主と建築家それぞれの視点からの告白でもあり、一粒で何度か美味しい。
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本屋で目にしたら、思わず手に取り、そして買いたくなるような本である。松原隆一郎さんのことは毎日新聞?の論壇でよく見ていたので、名前は知っていたが、その松原さんが書庫を建てたというのはあとで紹介する西牟田靖さんの『本で床は抜けるのか』で知った。その松原さんの書庫の本を見たのは、神保町の東京堂書店の新刊書コーナーだった。巻頭の、大英図書館の書棚を思い出させる円形の書棚に魅せられたが、荷物になるのでその場では買わず、豊橋にもどったあと精文館に寄って購入した。しかし、精文館では建築コーナーにあるだけで、さがすのに苦労した。こんな本はやはり2階の新刊書コーナーに置くべきではないだろうか。(これは本屋への注文)それはともかく、ぼくは定年まで5年を切り、日夜本屋の処分を考えている身であり、定年後自宅かその周辺に書庫を持ちたいという気持ちはさらさらない。なのに、本書を買う気になったのは、本書冒頭で松原さんのライフヒストリーが語られていたからだ。要するに書庫は、松原さん限定の1万冊の蔵書をいれるだけでなく、祖父からの仏壇をも入れるものにしようと建てたということを知ったからである。松原さんがなぜそのように考えたかは、本書を読んでもらうしかないが、本書後半では、松原さんというより、その奥さんが見いだした建築家堀部安嗣さんと松原さん夫婦とのキャッチボールを通じて、書庫の輪郭が形づくられ、そして実際には(これは家を建てたものなら経験しているが)、図面ではわからない幾多の困難があり、それを施工した工務店、巧の存在があって解決できたということを松原・堀部両人のかけあいによって展開している。内容もそうだが、このようなスタイルも本書を魅力的なものにしている。
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夏が暑くて冬寒い住まいだそうで、真似はできそうにありませんが、本としては寝室とか水回りとかももっと取り上げて欲しかったと思います。
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学者である施主と建築家による、仏壇と蔵書を収める書庫の普請記録。前半で施主の祖父・祖母、父への想いが赤裸々に著されることで、後半の建築家による設計の必然性が分かる。静謐さのある建築。語り過ぎない建築。
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以下引用。
実はこの初期プランの方が松原さんの最初の要望を反映しているものだったのです。最終プランでは知らず知らずのうちに却下してしまった要素も含まれていました
やはり急ごしらえでとりあえずつくったものというのは、時間が経つと納得のいかない部分が必ずでてくる
細かな要望にも執着しすぎず、先入観も取り払って、自分がいいと思える事に素直に向き合う
初期プランを改良したものをつくり、また無粋なプラン群のなかでも比較的まともなものを選んで、その二つのプランをご覧頂き、選んでいただくようにと、安易なことを視野に入れ始めて
しかし一方で、借金まで求めた私の淡い夢はすべて消し飛ぶプランだとも感じました
当時の墓地は密閉された空間ではなく、人がしばしば出入りしながら死者をしのび、対話するための場であり、いわば生者と死者、現在と過去が、あの世とこの世がまじわる場だった
今まで深い感銘を受けた建築には、死の気配がある。」
信頼して任せているのだから、堀部さんがいいと思う事を受け入れるしかありません
法律や松原さんの要望から即物的に生まれたプランには生命感と根本的な魅力が欠けているのです。設計者が自分で心からいいと思うもの、血肉化しているものを何度も心のフィルターを通してかたちに落ち着かせてゆかあければ
松原さんの細かな要望にも執着しすぎず、先入観も取り払って、自分がいいと思える事に、素直に向き合い追究する
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有名な学者さんも、我々同様、親子関係で強いルサンチマンを持っていることが意外だった。それ故に祖父への思い入れが強いように感じた。その祖父の鎮魂のために仏壇付き書庫を建てるとは、まるで綾辻行人の小説のようだ。しかし、その情念が一流建築家と化学反応を起こし、あの螺旋状の書庫が建ったとすれば、それはいいルサンチマンと言える。