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ヘーゲルの『大論理学』の内容を、その構成にそくして解説している本です。
「あとがき」には、個別問題については、著者の『ヘーゲル論理学研究序説』(2002年、梓出版社)を参照してほしいと述べられているのですが、本書はそのダイジェスト版のような内容なのかもしれません。ヘーゲルがとりあげている個々の論点に立ち入って解説がなされており、『大論理学』がさまざまな問題を統一的な観点から考察している書だということはわかるのですが、その哲学的な意義についてじゅうぶんに解き明かすほどのていねいな説明はおこなわれておらず、消化不良の感がのこります。むしろ個別的な論点に立ち入ることは控えて、ヘーゲル論理学の核心的な発想に的を絞って解説してほしかったようにも思います。
とはいえ、個人的には『大論理学』の理解に役立った解説もいくつかありました。「有論」における量や度の叙述は、当時の数学や自然科学についてのヘーゲルの理解にもとづいており、門外漢にはなにが問題になっているのかということさえ把握しづらいと感じていたのですが、本書ではヘーゲルの論理学が、思惟と存在の同一を原理とする古代ギリシア以来の形而上学(存在論)に近い性格をもっているという大きな枠組みが示されたうえで、その個別的な論点の説明がなされていて、その理解に一歩近づくことができたように感じています。
なお、「本書は、勤務校で行った「西洋哲学特殊講義」……の準備ノートを書きなおしたものである」と書かれていますが、講義をもとにしたためであるのか、語り口が中途半端にくだけていて、かえって読みにくいようにも感じてしまいました。そのことが、どこかとっつきにくいという印象を生んだのかもしれません。