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今や「世界のコレエダ」的な人が一介のテレビ制作マンだったときに書いたもの。初めて自分の手で制作した番組をきっかけに(故人として)出会った山内豊德という厚生官僚の軌跡を追ったルポルタージュ。是枝さんについては、「誰も知らない」「そして父になる」「万引き家族」といった作品から、自分の興味関心と重なるところがありそうだと思いながらも、各作品が話題となることから若干あざとい人という印象ももっていた。でもこの本を読んで、素直にこの人の底を成しているものは信じられると思った。こんなふうにも書いているし。
テーマやメッセージといった言葉で作品を語ったり、語られたりすることは好きではない。なぜならそのようなものに回収されてしまう作品は、人間そのものの描写が弱いからに他ならないのだと、いつも映画を作りながら考えているからだ。物語やテーマの為に人間がいるのではない。それは私たちの生がそうであるように、生はただ生としてそこにゴロッと転がっているのだ。そのような人間を映画の中で描きたいと思うようになったのは、もしかするとこの一冊目のノンフィクションでの一組の夫婦との出会いが、無意識のうちに僕にそうさせた遠因なのかも知れない。(p.8)
この本では、福祉に、そして(図らずの)晩年には水俣病問題に深く関わった山内氏の厚生官僚として日々が描かれる。それはそれでその誠実な仕事ぶりに胸を打たれるし、こういう人が自ら死を選ぶことになってしまうことに憤りを感じさせる(と同時に、なぜ死んでしまったのかとも思う。生きてもうひと踏ん張りすることはできなかったのかと……)。
それとともに、夫婦の絆に触れられることにも大きな価値を感じている。撮影がらみで、亡くなった夫のことを聞きに来た若き日の是枝さんに「公共」という言葉を使い取材を引き受けてくれた妻の偉大さを感じさせる。
山内氏の著書からなど引用が多かったり、読みものとしてのこなれた感はいまいちなのだが、それがこの本のよさだろう。思いはもちながらも術をもたず不器用だった若者らしさが感じられ、それをその成長した姿と引き比べるとき、何が人を成長させるのか、言い換えれば成長できる人は何をもっているのかということも感じられると思う。
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図らずも、初是枝作品が、映画でなくこれになってしまった。
NHKクローズアップ現代の対談見てから一気にエンジンかかり、調べればいくつものご著書が!原点とも言える作品、なんて発見しちゃったら読まずにいられない!
朝日新聞のコラムも目にして、”公共圏を豊かに”のフレーズにその関心が集約されている予感もあり、もう是枝沼にハマることは決定した、というところです。
込み上げる激しい感情は今回なかったものの、静かな熱さにはやはり涙するばかり。誠実な人は誠実な人を引き寄せるんだなと、まさに出会いは鏡、詩を愛する山内氏と文学部出身の監督との共鳴とも言える洗練された文章と詩の味わいも加わって。
もうこれは、一介のノンフィクションではなく、エッセンシャルな作品です。
最後のエピローグ、亡くなって数年後の奥様の言葉が、シンプルに、純度高く、心に沁みた。
「生は生としてそこにゴロっと転がっている」監督のそのスタンス、映画、追いかけます!
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社会正義といった得たいの知れない物事に真摯に向き合い死を選んだ公務員の物語。真実を教えてくれる一冊。
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重たい読後感で、何ともすっきり整理できない。福島との相似を思わずにはいられないが、それだけではない。個人の生き方と社会の関係。。。