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貧困はこうも人を卑屈にするものかと思いました。また、作者自身の男性との関係のいつまでも未練たらしく優柔不断なところや職を転々とするところなども少しばかり腑に落ちませんでした。正直この作品が後々まで読み継がれていくほどの作品かなと思いました。
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林芙美子の出世作、なんども改稿し続けた1~3部を収録。
表紙には「逆境におしつぶされることなくひたすらに文学に向かってまっすぐに生きる」と書かれているけど、まったくそういう風には読めません。少しも埒の明かない暮らしに、しょっちゅう自棄っぱちになっては悪態を吐き、できもしないことを夢見たりして、それでも文学を捨てきれない人、というのが私の受けた印象でした。
なにしろ、貧乏でも芸術一筋を気どりつつ、生活の苦労は女に丸投げしてきた多くの男性作家とはわけが違うもの。女にとっては、貧しさと、男に依存する/利用されることとが不可分の関係なのだということが、この人の吐き出す思いを読むと、あらためて実感されて、ほんとうに今の時代の女の貧困と、本質的には変わっていないと、つくづく感じます。特に、彼女を愛しているという「松田さん」が、見返りを期待しないと言いながら金を貸してくれることが、むしろ重荷で嫌でたまらない気持ちは、とてもよくわかる。
いっそ誰かと結婚しようか、いっそ売春でもするか、と、本心とも思えない言葉を吐きつつ、それでも文学を手放さないでい続けたのは、「純粋な志」なんてきれいごとでは済まない、意地とか開き直りとか、複雑なものがあったんじゃないだろうか。林芙美子が、成功してからも、あれはプロレタリアート作家よりも落ちる「ルンペンプロレタリアート作家」だと中傷を投げつけられたように、性的にも、志においても、”純粋”でいるという贅沢が許されないのが、つまり貧困な女ということなのです。
もっとも、その日その日の気持ちが火花のように飛び散っていた第一部とくらべると、第三部はかなり整理されて、作家のサクセスストーリーの趣には近づいてくるのだけど。しかし第2部の最後に付記された、今は成功して自分の家も構えた作者がふと漏らす恐れや空しさにこそ、林芙美子の直の肉声がもっとも伝わってくる気がします。特に、苦しいなかで支えとなってきたことは間違いないけれど、重荷でもあり自分を縛る鎖であったことも間違いない家族というものを、ふと客観的に眺めてしまう心持ちを描いている部分が、強い印象を残す。家族への相反する気持ちも含め、彼女の率直な筆が時代を超えて共感を呼び続けていることに納得します。
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改造社版の放浪記のあと、全面改稿が行われた放浪記が第三部まで出されていて、本書はその全三部を収録。
だれもが言うとおり、こちらは落ち着きと丁寧さはあるものの、改造社版の原初の破壊力は薄められてしまった。
もちろん改造社版のほうが優れた作品だが、これはこれで。
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カテゴリ:図書館企画展示
2020年度第3回図書館企画展示
「大学生に読んでほしい本」 第2弾!
本学教員から本学学生の皆さんに「ぜひ学生時代に読んでほしい!」という図書の推薦に係る展示です。
川津誠教授(日本語日本文学科)からのおすすめ図書を展示しています。
展示中の図書は借りることができますので、どうぞお早めにご来館ください。
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★3.5
文章が素敵。生活が大変だった日々の記録なんだけれども、暗くなくてどこか明るいと感じるのは、作者の性格なのだろうか。
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「文壇に登場したころは『貧乏を売り物にする素人小説家』、その次は『たった半年間のパリ滞在を売り物にする成り上がり小説家』、そして、日中戦争から太平洋戦争にかけては『軍国主義を太鼓と笛で囃し立てた政府お抱え小説家』など、いつも批判の的になってきました。」
と筆者自身が語った(らしい)ように、正直貧乏売り物にしているだけとしか思えない内容で、序盤で嫌になってきた。樋口一葉が同じように貧乏の中で書き上げた作品とは品格が違う。
登場人物が似たり寄ったりで誰が誰かわからなくなるし、比喩などの表現技法も独特すぎてよくわからないし、何より読んでいてダカラナニ?と思ってしまう。
中盤すぎてから突然変異する作品もあるのでもう少し我慢して読もうと思ったが、いやいや読むだけに先に進まず、この時間利用して別の本読んだ方が好いやと思い、定価1,166円はブックオフに消えました。(無駄に分厚いだけの本。この千余円は紙代なのでは)
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日記の体裁はとっているけども、突然場面と時間が飛ぶので、わかりづらいことが多々。
特にラスト部分は「一体全体どうなった!?」感があって……。
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100分で名著でとりあげられた。分厚い本で今まで読んだことがなかった。作者の自伝で単にいろいろな生活をしていることをえがいているだけであるという紹介が多かったが、実際は小説や童話や詩を書いていて、なかなか採択されないという状態を描いたものであった。詩が書かれていることも放浪記の紹介にはなかったと思われる。
作家になるとはどのようなことなのかを知るにはいい本であると思われる。
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時系列が…とか人間関係が…など気にし出すと読めないと思うが、一気に読んでしまった。
NHKの番組がきっかけで手に取ったという経緯は恥ずかしいが林芙美子さんに出会えてよかった。
ジェンダー、経済格差、いじめや差別、政治不信などいろいろな課題があるのに放置されている今こそ読む価値があると思う。
昔の絵画(風景画など)を見るとその当時の街の風景や人の息遣いなどを視覚的に感じられることが多いが、放浪記を読むと彼女が生きた時代の東京下町の景色、街並み、地図上の位置関係や風俗が甦るようで、生きていた人々の日々の暮らしやその息遣いまでが手に取るようにわかる。歴史書にはない楽しさがあった。
長編だが、改めて年数を数えると、ほんの数年間であることに驚きを隠せない。著者のことを悪くいう人もいるが、20才前後のわずか数年間の著者の生き様、どんなに貧しく辛くとも、古書を離さなかった(学び続けようとしていた)彼女の姿に感銘を受けざるを得なかった。
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去年の12月にラジオで偶然、作家の林芙美子さんの亡くなる4日前に放送された肉声を聴きました。
昭和26年に放送された若い女性からの様々な人生に関する質問に林さんが答えていく内容です。
車の運転中でしかも音質もそんなに良くなかったので内容はきちんと聞き取れていなかったのですが、その語り口はとても優しくかつとても力強いものでした。
聴いたラジオが非常に頭に残ったので、林さんの代表作「放浪記」を軽い気持ちで読み始めたのですが、、読むにはなかなかな覚悟の必要な内容でした汗
苦境から作家で成功するに至ったサクセスストーリー的な単純なものを想像していたのですが、一つ一つの文章表現を理解するのに時間はかかるし時系列も前後入れ替わっているなどしてなかなか読み進めるのに時間がかかりました苦笑
流石に読み終えるのに2ヶ月もかかると途中でしんどくなってくるのですが、何かこう、腕を鷲掴みされながら目を見開いて間近で訴えかけられてくるような凄みが全ての頁に溢れていました。
貧窮のどん底を這い回る日々の中、ある時はカフェのスタンドの陰で、ある時は台所のお櫃を机がわりに、ある時は下宿のささくれだった畳に腹ばいになりながら、書くことを決してやめなかったようです。その執念が随所から感じ取れます。
まだまだ飲み込みきれていない部分も多々ありますが、表現することについて強烈な気づきを得た一冊でした。
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貧乏ってやつぁこういう事を言うのさね。どこまでもどこまでも追いかけてきて、いつの間にか自分に成り代わって、次の貧乏をうむのさね。自業自得とのたまう人の、なんたる無理解。金と親と別れた男についてのどこまでも続く愚痴。恋愛模様は演歌そのもの。さまようのは、住まいだけでは無いのです。
破滅型の生活、自己生産の貧乏と、持て余した若さと体力は過激思想とよくくっつく。理想の奥深くに昏く光る恨みを籠めて。当時、この書き方で口に出して歩いたら思想犯として逮捕される流れもよく分かった。
ただひたすらの困窮のサイクルの中でこの人はよくぞ文筆家になったものだ。詩に触れ続け、詩人に囲まれてきた方のようで、日記も非常に詩的だけど、啄木のように生活臭が強い。北原白秋が好きでロシア文学を良く読んだようで作品が頻出する。時代的には第一次大戦後、関東大震災の記述もある。だが世の中の出来事の記録よりも、20歳そこそこで、自分のもがき苦しむ精神を、ありのまま書き付けた胆力に恐れ入る。内容的には何の救いも無いのだが、好評を博したという事は、多くの人が共感したということか。
頭の中のBGMはずっと『からたちの花』でした。いや白秋じゃない、陽水のほう。