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清水真砂子さんが絶賛していて、読まなくちゃと思いながら、随分時間が経ってしまった。
80年代の雰囲気を思い出す本だった。まだソ連に力があって、冷戦下での核戦争への恐怖と、第二次世界大戦後の高度成長による環境汚染が明らかになってきた頃。(『見えない雲』など思い出す。)ドイツも東西に分かれており、この本でも少し出てくるが、中東戦争の記憶も生々しい頃の若者の雰囲気が感じられる。
と、同時に、当時はドイツですらまだ家庭における夫婦の関係が対等ではなかったのだと感慨深い。日本の少し前(90年代)の家庭がこんな感じだったのではないかと思う。
もちろん今でもこういう夫婦関係はあるだろうし、年配の夫婦ならもっと多いだろう。
しかし、今の目から見れば、主人公ビーネの母はまだ42歳。今だったら夫と別れて自分の納得できる生き方をするのに遅い年齢ではない。自分のやりたいことに家族を従わせようとする夫の言いなりになる必要など全くないと思える。だから、ちょっとこの母親にイライラする。
この物語は16歳のビーネと母ロッティの二人の生き方の変化を書いているが、ビーネは日本の高校よりずっと大人びていて、自分というものがはっきり見えてきている。確かに物語のはじめの頃のビーネはゼバスチアンに好かれることしか考えないため、却って彼にとって魅力のない女性になってしまっているが、自分を取り戻していく過程は素晴らしい。家庭のトラブルも彼女の成長を促したと思えば、両親の問題も彼女にとっては良かったのかもしれない。ビーネは誰と結婚しようときっと、両親のような夫婦にはならないだろう。
しかし、母親のロッティはどうかな。夫に自己主張できるようにはなったし、そもそも夫が嫌いなわけではないが、こういう男が容易に変わるとも思えないし、歳をとるとますますその傾向が強くなるのではないかと思う。フィクションではあるが、今生きていたら両親は80代、対等な関係を築けているだろうか。ビーネは50代で、きっと仕事も続けてしっかりした大人になっていると思うが。
歳をとって読んだので、どうしても親の方が気になってしまった。
タイトルとなったゼバスチアンは、プロヴァイオリニストを目指す青年で、とても魅力的。彼に好かれるために自分を手放しそうになるビーネに、君は君のやりたいことをやるべきと言える。クラシック音楽でプロを目指すなら、練習第一、音楽第一は全くおかしくない。ディスコ音楽やうるさいところが嫌いというのも納得できる。ゼバスチアンがもっとイヤなやつかと思ったが、いい男だった。まあ、でもこういう男性はやはりクラシック音楽に通じたパートナーの方がいいような気がします。
イマドキの子にはどうだろう。最近の若者の本はとても分かりやすいので、ビーネの成長過程を読み取ることが難しいかもしれない。あと時系列が前後するのを読み取れないかも。今の本は前後する場合は、章立てを変えたりして、はっきり区別できるようになってるからなあ。ビーネも日本の高校生と比べると大人びてるし。大学生くらいの女性なら共感できるかも。
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新訳復刊されて良かった。今の日本でも恐ろしいほどのリアリティをもっている。いや我が家と言うべきか。
お父さん、お母さん、主人公の娘、弟、恋人ゼバスチアン。。。ジェンダーの問題が女性だけではなく、男性の問題としても深く横たわっている。住居、経済、進路、恋愛、友情。どれも概念としては簡単だが、物語としては手強い。それを見事ひとつのものに仕立てた著者に喝采。
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YA物だけど、女性が家父長制的な価値観を内面化して自分を抑えつけているところを描くなど、大人にも、そして現代の日本でも切実に迫ってくる内容。
終盤、(やむにやまれずではあるものの)変わろうと新たな一歩を踏み出した主人公とその家族を応援したい。きっと社会を変えるより親密な関係を変える方がより勇気が必要だから。