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今となっては東日本大震災のことを思うけれど、そんな局所的な話ではなく、私達は世界を認識できるのか、認識しているのか、について書かれた、これは普遍的な小説だ。
精神異常者は、恭子なのかもしれないし、母親なのかもしれないし、恭子と母親なのかもしれないし、海塚市民なのかもしれない。恭子のモノローグだから、というのとは別の次元の話として、それを特定することは出来ない。現実世界において、誰の考えが異常であるかを断言することは出来ないのだ。それは、異常と正常の境目は刻々と移り変わるものであるからだ。ある時代において正常な考えであったものが、別の時代においては異常な考えとなる例はたくさんある。
そんな中で、「結び合い」の異常さに注目したい。東日本大震災の直後によく言われていた「絆」という言葉に、アンチの意見を述べれば人非人のように言われただろう。しかしあれから数年経って、いまだに故郷に帰れない人がいるという現実に思いを致す人はどれくらいいるのだろうか。つまり私が言いたいのは、「絆」などという耳触りの良いことを言っても、そんなものは一過性の、自己満足に満ちた、欺瞞でしかない、ということだ。人はいつだって、他人の幸不幸になど無頓着なものなのだ。
ボラード病とは何か。私達を世界に繋ぎ止めるもの。人は自分の存在の正当性を確かめるために、異質な人間を作って弾圧する。そうして、私達は仲間だね、と確認する。常に「私達」の側にいられるように、誰かの異質さを見付けてはそれを指摘し、排除する。そうすることによって、「私達」の側で安心して生きていられる。安心して生きていられるならば、排除された側の人間のことなど考えもしない。ボラード病とはすべての人間のかかっている病だ。
最後の一文には、しびれた。
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良くも悪くも印象に残る本。震災後の福島を連想させる話。絆とか花という歌の気持ち悪さに似たもの。タリバンとかイスラム国とかもこれに近い病なんだろう。どっちが気狂いなのかわからなくなった。
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この何とも言えない不気味などんよりとした世界にもう少し浸っていたいと思いながら読了。
ディストピア小説か、3.11を描いた寓話か。
いや、そんなことはどうでもいい。
この、恭子と母に見えている世界と「ドウチョウ」できるかどうか、なのだろう。
いやいや違うな。彼女たちが住んでいる海塚という街の絆を受けいれるかどうか、なのか。
何かがおかしい。何かがゆがんでいる。狂っているのは恭子たちか、住人たちか、それともこの国のどこかに住む私たちか。
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震災後の閉塞感と、「絆」のような言葉(ここでは「結び合い」)に隠された薄気味悪さが巧みに描かれている。きちんとして礼儀正しく、助け合い、裏で蠢く悪事には気付かないふりをしてやりすごす、気づいて声をあげる者は抹殺する日本人の姿。
この本が素晴らしいのは、そういった解釈だけでは収まりきれないところがあるから。震災がなかったとしても、ここに書かれたようなことは起こり得る。いや、既に何度も起こっていたし、これからも起こる。
それを心に刻み込むことが、唯一それを避ける方法であることを教えてくれる。
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いとうせいこうの書評を読んで図書館で借りてきた。
彼が昨年末「今年の3冊」に挙げているくらいだから、よほどの力のある小説なんだろうと思う。
アホな私はいとう氏の解説無くして本書の内容は理解できなかったのだが(今も本当には理解できてないが)、とにかく気持ち悪くて仕方ない。
臭いの描写や人物の薄気味悪さはもちろんのこと、
作品世界に蔓延する暗黙の了解ごとみたいなものが、抜け出せない泥沼のようにまとわりついて、とにかく生理的に気持ち悪い。
そして個人的には、母親の融通の利かない内職のやり方が自分に似ていてうんざりする(笑)
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11人が参加した読書会にて1人しか気がつかなかった重大な仕掛けがあるのだが、これを読んだ人の何人がこのことに気がつくだろう?
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ジョージ・オーウェルの「一九八四年」の世界を連想せざるを得なかった。「一九八四年」の日本近未来版、作中ではもちろん特定はしていないが(特定してしまったら大変なことだ)、放射能汚染に起因する福島の帰還困難区域の近未来を舞台にして描いていると想像した。
やはり全体主義は気味が悪い。しかしながら、それに染まってしまえば(作中の表現では、海塚にドウチョウしてしまえば)、楽な部分もあるのかもしれない。自由を享受し続けることは苦痛を伴うものでもあるから。仮に自分が作中の海塚のような世界に放り込まれたら、「ボラード病になれる」だろうか?いや、普通に海塚讃歌を歌っているだろう。自分はそんなに強い人間ではないから。どうにもならないことを気にしても仕方ないし、世の中なるようにしかならないのだ。
読了後、このレビューを書くにあたって少し読み返してみて、この「ディストピア小説」の意図が少し分かった気がした。あまり具体的に書くと作者が炎上しかねないので、含みを持たせた書きぶりになるのだろう。恭子は、海塚の人たちが正常であることを確認できるように残されている「ボラード」であるということか。今となっては、強制収容所に隔離されてしまったのだろうか。何とも哀しい結末である。
ディストピア・・・逆ユートピア.暗黒社会.ユートピア(理想社会)と正反対の社会.ディストピアは全体主義国家などをイメージして用いられることが多い.
ボラード・・・係留柱.船をつないでおくため、波止場や桟橋などに設けた杭.
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BRUTUSの読書入門で紹介されていたあらすじ&書評が面白そうだったので購入。
グロくて怖いものがたり。
帯とか書評からはもっと海塚の町にクローズアップした話かと思っていたけど、主人公恭子の独白形式で進む、彼女と彼女の母親の話が中心の物語でした。
海塚市は福島を彷彿とさせるところが多く、どうしても原発事故のことと結びつけて読んでしまうのだけど、震災後時間が経って原発事故のことも忘れてきて、肉も野菜も海産物も安全なものだと思い込もうとしている日本を暗示している、と単純に納得するのはちょっと違うなという引っかかりが読んでいる間ずっとあって、それが何なのか今もまだ分からず、グロい描写、うす薄気持ち悪さ、すんなりと読めない引っかかりの数々、ほとんど明かされない海塚市の謎、読んでてだいぶしんどかったですが何とか最後まで読みました。
個人的に心に残ったのは、母が汚染された海塚の農水産物を捨て、安全なたべもの(インスタントラーメンや缶詰など)を恭子に食べさせるのだけど、それもまた不健康な食べ物である、というところ。
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参照:
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%A4%A7%E9%9C%87%E7%81%BD#.E6.96.87.E5.AD.A6
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帯が気になったので購入。ハリガネムシが嫌いなので、不安を覚えつつ。
「ドウチョウ」できないものの不安さ、苦しさご十二分に表現されている。
落ちは唐突な印象があった。
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帯からしておどろおどろしい。
「密かにはびこるファシズム、打ち砕かれるヒューマニズム」
福島らしき場所を舞台とした、ディストピア小説だ。この小説が描くファシズムにはヒトラーのような指導者は出てこない。身構えて読み始めると意外にも長閑だ。しかし、読み進めると違和感が忍び寄ってくる。
震災後の「絆」というキーワードの乱発に違和感を感じたものだが、この小説の街では絆が強制された閉鎖的な世界となっている。その絆に反した行動をするものは秘密警察のような輩に排除される。
この小説にはなぜこのような世界に至ったのかは書かれていない。どうしてこの気味の悪い街が醸成されたのか、それぞれに想像してみることは重要ではないか。
僕なりに想像するに、こんな感じだろうか。日本中で絆や復興を高らかに掲げたものの、時を経て風化し置き去りにされた地域。そこに極右的なリーダーが現れ、住民に団結を強い、背くものは排除する。
世界各地で起きている疎外からくるファシズムに対して、日本はそうはならない、多くの人がそう思っている。でもこの小説を読むと、意外に遠くないような気もしてくる。
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2015/4/29
「この世界は捏造だ」
避難先から地元へ戻ってきた貧乏な小学生、恭子。学校で教えられる、一番大切なものは結び合い。
ほんと苦しい。これは日本の近未来の話なんだと気付いてからは怖くて怖くてたまらなかった。
原発事故、軽視されすぎているよね。
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なんかあんまりよくわかんなかった。
最後の方でもっと分かりやすくいろんなことが紐解かれたりするかと思ってたのですが、私にはもう少し分かりやすく書いていただかないと。
もう一回読むといいのかもね。
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読書会の本なのでどんな本か全くわからず読み始めた。
読後感が何ともいえない作品。
最後の幽閉された主人公の部分で気持ちが落ちた。
ハッピーエンドの作品を読みたくなる。
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恐ろしい小説を読んでしまった。主人公とその母はなぜここに住まなければならなかったのかとかは書かれていないので少し不満。しかし、監視社会だからどこに住もうとも意味なかったのかしら。いずれにせよ、日本がダメになっちゃうときはきっとこんな感じで言論統制されたり思想を否定され変人扱いされて転向させられたりするんだろうな、という恐ろしさがある。結局のところ、戦争を経ても日本人の隣組とか五人組的な気質は変わっていないという風刺と受け止めることにしたが…。