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おどろおどろしいカバーデザインとタイトルが相俟ってオカルティックな印象を受けるが中身はきちんとした資料解釈に基づいた研究書。
丁寧な資料の渉猟から、平安〜院政期において怨霊や怪異、そして穢れがどのような形で受容され、変遷してきたかを説明する。
書中で語られる怪異のほとんどは神宮の檜皮が傷んだとか鳥が咥えていた骨を落としたといった内容で、鵺が討たれたり女房が一口で食べられたりといった内容ではないので、その向きを期待する人向けでもない。
タイトルにある伊勢神宮については、石清水八幡宮と並んで国家の宗廟として取り上げていることと、後半の章で各時代の伊勢神宮のあらましを当時の僧侶との関わりで触れられている程度であまり大きくウェイトを取ってはいない。
よって、怨霊ー怪異ー伊勢神宮という三要素が何かひとつの共通した論点で語られているというわけではないことに注意してほしい。
また、一冊の本の体裁をとってはいるが、それぞれの章が別個に発表された論文、論考によるため、重複する部分もまま見受けられる。
またひとつひとつが丁寧な論考なだけに、目を引くようなケレン味のある説が仮説が述べられるわけではなく、読む人によっては退屈な歴史の授業を思い起こすかもしれない。
内容はきちんとした研究書なのだが、キャッチーなカバーデザインとタイトルで少し損をしているのではないかと感じた。
尚、ある程度の古文の知識、また簡単な漢文と読み下し文が読めないと読破しにくいかもしれないので注意。