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仕事の成功を収めるに当たって専門知識が必要になるが、近年多くの専門分野が狭くなってきているにも関わらず、世の中で解決すべき課題は一向に小さく狭くなってはいない。
仕事の成功には様々な分野とのコラボレーションが要求され、企業内外や分野内外の境界線を越えて問題解決を行うことが増加しているのではないか。そんな中、たゆまぬイノベーションを続けていくにはどうしたら良いのか。
必勝法は、チーミング。学習しながら実行する組織・チームを如何に作るかがキモとなる。
これから最も成功するリーダーは、周囲の人達の才能を伸ばせる人だ。
はっきり意見を言い合い、協働することを求め、試み、試みた結果の失敗を振り返り知識として共有して次の行動に活かしていく。
自分を含めた人の心理を理解して、情熱を持って仕事にあたり、周囲を信じる。
人が自然と保身心理に陥ることを認識して、失敗を恐れず勇気をもって行動する。
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【はじめに】
著者のエドモンドソンは、チームのパフォーマンスを左右する要素を分析するGoogleのプロジェクト・アリストテレスで、彼女の1999年の論文が鍵となる心理的安全性を論じたものとして参照されたことで有名となった。本書の原著は2012年の出版で、プロジェクト・アリストテレスの結果が報告された2015年の前に出版されたものである。「心理的安全性」がそれほど注目されていない時期に書かれたものであるため、その後に生じた心理的安全性への注目の影響からのバイアスなく著者の組織論における心理的安全性の位置づけを比較的正確に知ることができる内容となっている。具体的には、著者が主張する「学習するための組織論」という中心概念があり、その中での重要な要素として心理的安全性の確立が位置付けられている。心理的安全性が流行に沿って導入されたものではなく、著者の研究の流れからして必然的に導かれたものだということも理解できるだろう。
一方、2021年に日本版が出版された『恐れのない組織――「心理的安全性」が、学習・イノベーション・成長をもたらす』の方は2019年が原著の刊行年。こちらは、「心理的安全性」という概念に寄せた本になっている。そちらの方に直接的に興味がある人は、おそらく本書ではなく『恐れのない組織』を方を読んだ方がよいだろう。自分は、まず『恐れのない組織』を読んだ後、続いて本書を読むこととなったため、心理的安全性とは何かという著者の考えが明確になっていたことから比較的理解が進んだ。
【概要】
■ チーミングとは
原題は"TEAMING ― How Organization Learn, Innovate, and Compete in the Knowledge Economy" である。
「チーミング」という新しい働き方の概念を提唱し、学習するための組織とは何か、リーダがいかにしてフレーミングを行うべきか、心理的安全性がある組織をどうやって作るのか、上手に失敗するために何をすべきか、そして境界を越えたチーミングを行うにはどうすればよいか、が語られる。
■ 心理的安全性とは
著者は、成功しているチームは「率直に意見を言う」「協働する」「試みる」「省察する」の四つの行動を実践しているという。この四つのうち、特に最初の「率直に意見を言う」は、いわゆる心理的安全性に直接関わるものである。この心理的安全性によってチーミングと組織学習が可能になるという。
心理的安全性のメリットとしては次の七つが挙げられる。
- 率直に話すことが奨励される
- 考えが明晰になる
- 意義ある対立が後押しされる
- 失敗が緩和される
- イノベーションが促される
- 成功という目標を追求する上での障害が取り除かれる
- 責任が向上する
いずれも新しいことや成長を目指す組織においては非常に重要なものだ。逆に、上記の七つが実現されていないチームでは、心理的安全性が確保されていないということになる。そう考えるとさらに心理的安全性の重要性が強調される。
では、なぜそれだけメリットのある心理的安全性が確保されないのか。それは、心理的安全性が、特に通常のヒエラルキー型組��では「対人リスク」のために失われがちだからである。なぜなら人は、生まれつき社会に適応した結果として、権力や序列に敏感になっているからだ。人は自分のポジションをよく理解しており、対人リスクをどの程度冒すことがどれくらい安全と考えるかが自らのポジションから決まってくる。
「ほとんどの人が、私が対人リスクと呼ぶもの、つまり他の人にばかにされるリスクを何とかしなければならないと思っている」
意志と継続的な努力なく、心理的安全性は確保されることがないのである。そして、それは「率直に話そう」と表面的に言うだけでは絶対に得られることはないものである。それどころか、「心理的安全性を直接的かつあからさまに生み出そうと重点的に取り組むのは、必要な変化を生み出す方法として間違っている」と著者は考える。
心理的安全性はリーダーがまず確保するが、それは組織の中で「経験の共有を通してこそ育つ共通の感覚である」。上長の職位にあるものが、問題があればいつでも話にきなさい、と言ってもそれだけでは何も変わらない。具体的な手段を講じることが必要だとして、著者はリーダーが取りうる行動として次の行動を挙げる。
・直接話のできる、親しみやすい人になる
・現在持っている知識の限界を認める
・自分もよく間違うことを積極的に示す
・参加を促す
・失敗は学習する機会であることを強調する
・具体的な言葉を使う
・境界を設ける
・境界を超えたことについてメンバーに責任を負わせる
■ 上手に失敗すること
「上手に失敗して、早く成功する」 ことが重要だと著者は言う。失敗は悪いものではない。失敗から学ぶことは簡単ではない。しかも、チーミングには失敗がつきものである。
階層が上がれば失敗への恐れから自由になると考えるかもしれないが、実体は全くそうではない。逆に地位が高くなればなるほど、失敗に対する社会的、心理的に受ける罰が大きくなり、失敗を隠すようになる。
著者は、失敗にもレベルがあるとして、失敗のスペクトルというものを提唱する。本当に非難に値する失敗と非難に値するもののように扱われているだけの失敗とを分けることが必要なのである。本当に非難されるべき失敗(防ぐことのできる失敗)は数ある失敗の中の一部であり、本来個人の責に帰するべきではない失敗(複雑な失敗)や称賛されるべき失敗(知的な失敗)が同じようにまとめて個人の失敗として非難されがちである。
失敗のスペクトルとは以下のようなレベルのことをいう。
逸脱>不注意>能力不足>プロセスの不備>困難な仕事>プロセスの複雑さ>不確実性>仮説検証>探査実験
日本社会は空気を読むことが多いことから、失敗の隠蔽はより当てはまるのではないかと思われるかもしれないが、著者は失敗から学ぶことにかけてトヨタ生産方式(TPS)のアンドンは類を見ない仕組みであると賞賛している。上手に失敗することは、社会の特質ではなく、システムで対処可能な課題でもあるのだ。そして、トヨタのアンドンがそうであるように、失敗は早く表に出して、費用対効率高く学習されるべきなのだ。失敗から学ぶ力を身につけることは組織の責務になる。そのためのプロセスやインセンティブを組織的に設計することが重要となる。多くの組織はそうなっていない。通常は失敗を恐れて避けようとすることから、そういう組織になるのはとても難しいことだ。
■ 境界について
優れたチーミングは境界を超えるという。境界とは物理的な距離の場合もあるし(現在ではリモートワークのためさらに多く顕在化している)、地位や格差によるものもあるし、知識レベルの差であることもある。今日の組織では、多様性の確保のためにこういった多くの境界の障壁を超えて協働することが必要になる。現在のチーミングにおいてはそのことは非常に重要でアクチュアルな課題である。
■ 学習する組織
著者は、「学習しながら実行する」ことを「効率を追求しながら実行する」に対比させる。後者において、リーダーは答えを与えるのに対して、前者においてリーダーは方向性を与えるのである。後者ではリーダーは答えを持っていることが必要だが、VUCAの時代において、リーダー含めて誰もが答えを持っているわけではない。その場合には、リーダーから部下への一方通行のコミュニケーションだけではなく、双方向のフィードバックが必要で、絶えざる変化と社員よる日々の判断が不可欠となっているのである。
著者はそのことを「ベストプラクティスは動く標的である」と表現する。
また著者は業務にも、ルーチン業務>複雑な業務>イノベーションの業務という形でのスペクトラムがあるとする。これらの業務のスペクトラムの中では必要になるスキルやアクションが違ってくる。そして、現代では、ますますイノベーション業務のスペクトラムに重心が寄ってきているというのがその見立てである。だからこそ「チーミング」がますます重要になってくるのだ。VUCAの時代においては常に学習のサイクルを回すことが必要であり、学習する組織を作らなければならない。そのためにこそリーダーシップが必要になってくるというのが著者の結論である。
【所感】
同じ著者の『恐れのない組織』の方が心理的安全性というテーマで一本筋が通っている分読みやすいかもしれない。もちろん本書でも心理的安全性は中心テーマのひとつではあるが、学習する組織を構築するための組織論というその上位テーマがあって、そのバランスが若干悪い感じがする。あまりにも「心理的安全性」が自分の中でも大きなテーマとして頭の中にあるからなのかもしれない。
チーミングが重要であることは間違いない。でも、もしかしたら両方とも読む必要はなかったかも。
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『 恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』 (エイミー・C・エドモンドソン)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4862762883
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2部読みかけ。
組織の心理的安全性は何度も読んでいるが、そもそも心理的安全性がなぜ大事なのかというと、レジリエンスの高い組織、失敗し学習する組織を作るために大事なのかなとおもった。
自分のチームは、チームとして良い成果を上げてきているが、部として会社として果たすべき役割を真に全うしているかと問われると疑問が湧いてくる。
部の機能を全うするために課として果たすべきことはなにか?まで思い至っておらず、他人事の人が多いのではないかなと思った。
チームが機能するとはどういうことか、最終的には会社が機能するとはどういうことか?だと思う。考えながら読み進めたい。
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今の会社の教科書的な本で、社員全員で読書会をして共通認識を持てるようにしました。
この本で学んだことで、実行フレームと学習フレームという言葉があり、今までわたしは実行フレームでメンバーに指示してきてしまったことにすごく反省をしました。
メンバーにとっては何も考えずにやるべきことがわかりやりやすいだろうと思いますが、マネージャーである自分自身の首を絞め続けることになるので本当にやめないと…
この本をメンバーも読んだことで、マネージャーのわたしの指示の意図も汲み取ってもらえるようになり、チームが活性化しました!
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素晴らしい本。
チームを機能させるためのリーダーシップについて、現代的な状況を踏まえたエッセンスが広範に網羅されているし、体系的にも整理されている。
原著の出版か2012年と少し古い(2024年読了)が、書かれている内容は少しも古くなっていない。
むしろ複雑さが増すビジネス環境に対しては、重要性かどんどん増している印象。
フレーミング、心理的安全性、失敗の戦略的活用、異なる組織間の連携など、状況に合わせて、どのようなリーダーシップを発揮するべきかがわかる。業務の種類(定型、複雑、イノベーティブ)に分けて論じられているのも好印象。
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様々な資料に基づいたチーミングの問題と具体的な解決例成功例が載っている。
エピソードが多くチーミングの課題に即していないときに読むと、冗長に感じる。具体的な問題に直面したら辞書的に読みたい。