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稲盛さんの書籍は他で何冊か読んでいましたが、やっとその原点とも言える京セラフィロソフィを読みました。他の本を読んでいたのでアメーバ経営の内容など知っていることもありましたが、改めて600ページほどのボリュームがある本書を通じて稲盛氏の経営哲学を深く幅広く知ることができ、満足しています。
この本を読む前は、本書のメイン読者層は中小企業でオーナー系の社長かなと思っていましたが、いまこのご時世に読むと、必ずしもそうではない、基本を忘れてしまった日本の大企業はもとより、ゆきすぎた株主資本主義が蔓延している米国企業も、こういう考え方に触れるべきと思いました。昨今ハーバード大学のマイケル・ポーター教授がCSV(Creating Shared Value)経営ということを言い始めていますが、稲盛さんから言わせれば、やっと気づいたのか、という感じではないでしょうか。経営は、究極的には戦略の巧拙で業績の差が出るのではなく、「考え方×熱意×能力」が重要で、特に経営者の考え方、どういう会社になりたいかという思いが一番大事ということで、外国人に対して日本的経営は何かと聞かれたら、この考え方を是非紹介したいと思います。
最後におこがましいですがフィロソフィーに一つだけケチをつけさせてもらうと、本書の内容は家族をかなり犠牲にする印象をうけることです。今のご時世、共働きで子供がいる家庭を想定すると、稲盛さんの書いていることを夫が実践したら、家庭不和が起こりあっという間に離婚になるところも多いでしょう。稲盛さんは本書の中で彼岸の智慧と此岸の知恵のバランスを両方取らなければ一流の人間ではないというようなことを述べられていますが、仕事と家庭のバランスも同様に重要です。本書でも大乗利他の話を何度も出されていますが、妻や子供をないがしろにした大乗利他は真の意味での精進ではないと思います。