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あまりにも幻想的で形而上的な前半は戸惑いを覚えたが、後半からディベートが始まると本作は忽ち熱を帯びる。天皇の戦争責任、東京裁判の不合理性、さらには神の概念に対する疑問など、欲張りに盛り込まれた問題点は読む者を混沌とした黙示録的世界へと誘う。
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かつて日本が戦った戦争、その戦争責任を裁いた「東京裁判」を扱った小説。ストーリーのなかの主人公マリのいる時間と空間を追いかけるのに少し苦労、一読ではなかなか追いつけない。
しかしながら、作中後半ににおいてマリが参加するディベートという切り口で裁判の本質を上手く捉え核心に迫る、そして不快感を与えない。
スピリチュアルな表現がデリケートな点を薄めている気がする。
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本屋で平積みになってベストセラーとあったのと、タイトルが気になって購入。評価に迷う作品。最後のディベートシーンや狩りのシーンは面白かったけど、全体としては長くって、この半分のページでまとめてくれれば良かったのに…という感じかな。作者はこの小説をきっかけに昭和天皇の戦争責任を考えようなどという発想はなく、ただ30年以上前のアメリカ留学中に、そんなディベートをしたのが少女の人格形成に影響を与えた…ってそれだけの話。
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「東京裁判」「天皇の戦争責任」という、ある意味語るのが難しい問題について、アメリカへ留学中のマリの視点を通して描かれる。ただし、主人公のマリが、記憶を介在して時空を移動出来る?といった不思議な能力を持つ為、時間と空間、人物の視点が次々と入れ替わり、ある種、幻想譚の様な内容でもある。肝心の戦争問題に関しては、ところどころ新しい”気づき”を与えてくれる箇所もあったが、個人的にはもう少し踏み込んで欲しかった。終盤の山場である公開ディベートにおいても、結局幻想シーンになってしまった為、せめて最後は論理的なカタルシスを与えて欲しかった。
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天皇の戦争責任、つまり第二次世界対戦における日本軍の行動に昭和天皇は責任を有しているのか否か。そうした社会的な問いに対して、小説という枠組みで思考の一端を示した意欲作。
16歳の少女が1人留学したアメリカの高校で天皇の戦争責任を問うディベート大会に臨む、その少女は著者と思しき作家に成長するがはアメリカへと自身を送り込んだは母の意図がわからず、複雑な親子関係の中で思い悩む。2つの時代がパラレルに描き出されつつ、神を巡るアニミズムの議論などが重なり合い、読者も混乱させられつつ、最後のディベートにおいて、現人神とされていた天皇の神性にまで議論は広がり、天皇の戦争責任というナイーブな問題に答えが出される。
万人にお勧めできる作品ではないし、感覚的な描写も多いので意図がよくわからない場面も正直あったが、いずらにせよ文学でしかできない形での思考実験として捉えると面白い作品。
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戦後の日本の時代背景だけでなく、家族の関係など様々なテーマが盛り込まれている。小説のかたちをした戦後史。ここにベトナムの枯葉剤による双生児に例えられた母と娘の関係を掘り下げてるところが、とくにすごい。ウチの母は戦後生まれだから全く同じではないけれど、母が望んだことって、これに近いんじゃないかと思う。ひとつわからないことがある。何故主人公は母親の望みを二つ返事で請け負うのか。何故自分には自分の人生があるといわないのか。
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天皇と戦争責任。今でも連綿と続くこの問題に挑んだテクスト。何故、タブーとされるのか。そして誰しもが天皇はひとなのか神なのか、あるいは、戦争を始めた主体が誰なのか議論し、責任問題を清算できていない背景には何があるのか。そのルサンチマンを徹底的に抉り出した作品だ。必読の一つ。
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私が戦争のことを考えるとき、思っていました。
天皇は象徴となり、戦争責任について話し合う場もなかったと・・
憲法についても、占領軍の手でしかも英語で書かれたことについて、教育されてはいない・・
何も知らずに育ってきたのだと・・
この本に接し、時代を超えて戦争に対することが出来たことが・・今後の考えにどう影響するのか・・
自身への興味へとつながっていきます。
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若い娘にこういう事を聞くのはかなりむちゃだなあ…と思いました。
私も同じ年頃に聞かれたらわからなかったと思う…。
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読者の世代によって、評価は分かれるのかもしれません。私は作者とほぼ同世代ですが、非常に刺激的で、大事なことを伝えようとしている作品だと感じました。
私たちは、日本人として大きな歴史の流れの中に身を置くのと同時に、個人としての歴史の中にも身を置いています。
あの頃の母と同じ年になったのだ、と立ち止まる瞬間が誰にでもあるのではないでしょうか?
作中、母と娘の関係については、若干あいまいなまま終わってしまいますが、あのとき母に聞きたかったことを大人になった主人公は懸命に聞き出そうとします。
そして、子に伝えたいことをあのときの自分へ向けて発信しようとします。
現実には、自分の両親や子と向き合うって、なかなか難しいことですが、この部分はとても大事だと感じました。
それにしても、私たち日本人は、自分の国のことを(他国についてはもっと!)知らないですね。
敗戦後の日本の表現、憲法作成のプロセスに関する記述は、ちょっと偏っているのかな、と思いました。
読者は『池上彰の憲法入門』などを片手に多方面からの認識をされるといいと思います。
完成された条文や歴史の事象の表面からは、それに至ったプロセスや背景がそぎ落とされてしまいます。
過去の日本人たちが戦争を超えて、何を後世に残し、伝えたかったのか、読み取ろうとする姿勢を私たち一人一人が持てるといいですね。
多くの方が書いてらっしゃるように、中盤、この話をどう受け止めていいのかわからなくなりましたが、文庫版の池澤夏樹氏の解説に導かれて、読み進めることができました。ナイス解説です!
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夢?現実?妄想? 解説に「読者はこの原理を受け入れなければならない。」とある。残念ながら受け入れられなかったので☆1つ
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半年ぐらいかけてようやく読了。
戦後70年。戦争を語る人がいなくなり、もはや地続きの記憶ではなくなった戦争、そして戦後を、自分とほぼ同世代の作者が小説という型で再定義していく。小説のなかでも触れらるが、この国で近現代史がどれほど蓋をされているかということにはたと気づかされ、今一度戦争から地続きの記憶として、再構築されなければならないと感じさせられた。読みにくいけど、読む価値はある作品。
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複数の文学賞を受賞した作品であり、キャッチに興味もあって読んでみたが、ちょっと自分には面白さが分からなかったと言うのが実感だ。
何点か納得させられる事も書かれていたが、その事とこの小説を包む雰囲気やストーリーと絡ませる所が違和感を感じた。
第二次世界大戦と呼ばれる先の戦争の犠牲者や体験者、また戦前、戦後の天皇制に思うところのある人々がこの小説を読んだ場合にも違和感を感じる人々が多いのではないかと思う。
確かに敗戦後、一部で思考を停止してしまった日本国民の問題と現在に至るまで何らこの事が改善されていない事に憂うという思いは感じることは出来たが。
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ラストまでの導線が読みづらく、入ってこないなぁ、という感じ。しかし、ラストは良いです。
結構考えたい人には良いのかも。
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赤坂真理『東京プリズン』
ムムム。解説の池澤夏樹の言葉を借りれば「小説にはこんなこともできる」。姉妹書の『愛と暴力の戦後とその後』と併せて読むと、小説の本書の方が解説的で新書の姉妹書の方が情緒的描写的ですらある。それなのに、やはり、本書はすごくパーソナルな視点と感情から時代を描いた"小説"。内容と形式の両方を味わえる。
とはいえ、ディベートという形式を通じて天皇の戦争責任を問うという主題と、私/母/祖母の過去/現在/未来を通じて見えないものを見る、見なかったものを見るという副題と、物事を突き詰めるために抽象度を上げていくと彼我の境が溶けて責任を負うべき「私という主体」が危うくなるという難題は、どうしても調和を奏でているとは言いがたく、論理と感情と精神を行ったり来たりしながらの読書は疲れる。
この疲れは、気持ちのよい疲れではあって、体を動かすのが好きな人は好き好んで疲れるために体をいじめるけれど、運動嫌いの人にはその感覚がわからないように、変態読書人しか楽しめない疲れのような気がする。傑作ではあるけれど、誰にでもおすすめできないというのがつらいところ。
また、天皇という依り代は空虚であり、空虚であるがゆえに天皇制の良き果実も悪しき結果も周りの祈願次第だ、というトーンは、私も今だから受け入れることができる。30代だと微妙で、20代であれば拒絶しただろうと思う。そういう意味で何重にも読む人を選ぶ。
小説が「小さい説」であることをはみ出つつ、著者の極めて個人的な体験を下敷きにした私小説的な狭さをアクロバティックに接続した物語。その難しさに喜びたい。