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文化の諸領域について経済学的な視座から分析をすることを通じて文化政策を取り扱った本です。これは必読書であると言えます。
この本の極めて特徴的で重要なことは、ここで用いられる「経済学」が、標準的な経済学、すなわち、合理的な経済人の仮定、インセンティブへの反応、市場の効率的な分配、限界部分での判断、比較優位といった、最も基本的なフレームワークに則っているということです。その上で、文化の事象を経済学的価値と文化的価値に分け、さらに前者を市場適合と市場の失敗に分けることで、それぞれの事象に適う政策を選択できるよう分析しています。
章立ては、
第1章 序論
第2章 文化政策の領域
第3章 政策過程
第4章 芸術政策
第5章 文化産業
第6章 文化遺産
第7章 都市再生、地域発展と文化
第8章 観光
第9章 国際経済における文化
第10章 文化多様性
第11章 芸術教育
第12章 経済発展と文化
第13章 知的財産
第14章 文化統計
第15章 結論
となっており、一口に「文化」と言っても、ここで扱う文化はかなり広い領域を指していることが分かります。文化政策といって思い浮かべるような、絶滅の危機に瀕する伝統芸能といった保護と補助金が必要な文化はもちろん、ショービジネスといった市場が成り立つ産業もここでは同じ土俵に立っています。
ともかく文化においては「霞を食って生きている」といったような聖域を死守したいような勢力があり、カネで価値を判断されるのは俗っぽくされるべきではないと拒絶されることがあります。しかし、ここで経済学的分析が持ち出されるのは、経済学的価値と文化的価値に分けることで、むしろ後者が顕在化し、それにより経済的扱いの波から護る手法も検討できることができます。このような点で、この本が必読書であると言えます。
数式が一切登場しないこともあり、経済学の知識が一切無くても読むことができます。とはいえ、経済学の知識があった方が断然理解は深まります。また、数式も図表も一切登場しませんが、これらがあった方がより理解しやすいという点は、一つ問題点としてあげられますが、もちろんそれを補った上で余りある重要なことが書かれている本です。