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第二次世界大戦下、アメリカで強制収容された日系人の撮ったスナップ写真と、その解説。
写真と文章がそろっているからこその良書。1942-1944年。
この写真が珍しいのはカラーであることと個人的な記念であること。
おばあちゃんちの押入れを整理したらこういうアルバムがでてきそう。
「叔父さんの小さいころ」みたいな、本当に普通の写真だから、いろいろなことがよくわからなくなってしまう。
幼児やおじさんは髪型や服装に時代の影響が少なく、何年前の写真だかさっぱりわからない。
その辺にいそうな人たちをみると、記録の中の登場人物ではなく、普通に生きていた人たちなんだと実感する。
シンティhttp://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4759267298の時も同じように思ったけれど、自分と同じ人種のカラー写真だからより強くそう感じる。
ぜんぜん特別じゃない、歴史じゃない、普通。
写真の題材がまた普通だ。
写真を撮るからおめかししたのであろう女の人たちや、お祭り、子供などの「珍しいもの」「きれいなもの」「かわいいもの」、ありふれた「非日常」。
虹なんかこのままツイッターにアップしたって違和感がない。
祭りやスケートは楽しそうだし、服だってきちんとしている。
ある程度の範囲までなら有刺鉄線をこえて自由に歩くことだってできる。
アイスクリームを食べる子供の写真なんて、この子と同じ年齢の日本人でアイスを食えた子なんていないよなあとか考えてしまった。
だって節子がおはじき舐めてたころだよ。
この写真だけを見ると日系アメリカ人は「恵まれている」ようにすら見える。
だけどここに写っているのは自由や権利や財産や人生を奪われた人たちなのだとエッセイは何度も確認する。
虐殺はしない。ある程度の生活も与える。これが「アメリカ式の収容所」。
きちんと政府が謝罪したアメリカでも、こうやって強調しなければいけないほど偏見にさらされているのだということが透けて見える。
たとえ良い部分があったとしても強制収容の罪が相殺されるわけではないことを確認する文章があって、この写真集は完全になる。
ハートマウンテンは比較的待遇のよい場所だったらしいけれど、山と収容棟が並ぶ景色はミリキタニの描いたツールレイク(悪名高き強制収容所)とよく似ている。http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4270002387
全体的に良かったけれど訳者あとがきだけちょっとがっかり。
参考文献は読めるだけ全部読みたくなった。
余談だけど、スケートのシーンで女の人がみんなズボンをはいていて、ああ運動用はスカートじゃなくても許されるんだなあとなんか感慨深かった。