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久留米有馬家御領を舞台に、井上村大庄屋高松家の次男・庄十郎の生涯を主軸に、圧制に苦しむ領民、百姓と庄屋、大庄屋との確執、かつて一揆を捨て身で食い止めた御家老・稲次因幡の生き方などを、農村の自然溢れる描写と、どこまでも逞しい百姓たちの生き様とともに描く歴史小説。
久留米の土地柄や歴史に疎く、前半はなかなか進まなかったけれど、庄十郎が医師を志し、名医・鎮水の弟子となったあたりからはグイグイ引き込まれて読んだ。
一部表題にもなっている「天に星、地に花、人に慈愛」という家老・稲次が掲げた掛け軸の言葉が作品全体を優しく包む。
遊興の限りを尽くし、領民にその犠牲を強いるばかりの為政者。それを体を張ってでも諫めることのできない側近達。二度目の一揆騒動で不幸だったのは、家中に稲次のようなものがいなかったことだという言葉が胸に沁みる。国を治める者の度量というものをしみじみと思う。
「人間は、お上が気に入らんでも、正かこつなら、せにゃならんこつがある」
一揆の責めにあい多くのものが断罪されたとき、庄十郎がみよに言った言葉が深く胸に刺さる。
昔のことを描きながら全く古びず、今に十分通じる人の在り方というものを深く描いた素晴らしい作品でした。