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概要:
地域コミュニティの活性化に関する研究会の研究成果をまとめたもの。第Ⅰ部ではアンケート調査を踏まえ、都市自治体における地域コミュニティ及び関係施設の現状と課題、その解決に向けた分析・考察を行い、第Ⅱ部ではアンケート調査結果の取りまとめ及び分析を行っている。
目次:
第Ⅰ部 地域コミュニティの現状・課題及び展望
序論
第1章 地域・住民のための「コミュニティ政策」をめざして
第2章 都市自治体における地域コミュニティ施策の状況
第3章 都市自治体における地域コミュニティ活性化への取組み
1 都市自治体の政策課題としての地域コミュニティ活性化
2 「分権型協働都市」実現に向けた取組み~新潟市の事例~
3 ”豊中スタイル”による地域自治の推進~豊中市の事例~
第4章 地域コミュニティ活性化のための地域コーディネート
第5章 地域コミュニティをめぐる今後の展望~アンケート調査から~
第Ⅱ部 都市自治体における地域コミュニティと関係施策の実態~アンケート調査の分析から~
ピックアップと一言:
・「参加」(民主的意思決定)と「協働」(地域社会自身による公共サービスの確保)とが車の両輪のようにバランスをとって進めていくところに、現代日本の都市内分権の要諦がある。
→「参加」とは意思決定であり、いわゆる地域代表制として市の政策にある程度の意見を反映させることができる仕組みのこと。「協働」とは地域活動であり、防災や福祉など自分たちでできることを自分たちで行うことですね。
・コミュニティの活性化は、素朴な「ふるさとナショナリズム(地域への帰属と誇り)」と無縁ではないだけに、下手をすると国家的ナショナリズムの動きの中に包括されていく危険性が常にある。
→ふるさと(地域にしろ国にしろ)への帰属と誇りを持つことは、住民によるふるさと(地域・国)への前向きな取り組みを生み、住みよいふるさと(地域・国)となることは良いことと思います。これが歪んで、排他的になってしまうと問題になるのだと思いますね。
・若い世代は、「何かをしてもらうためには、自分も何かをしなければいけない」という地域活動では当たり前の論理(互酬性)を知らず、地域活動も「(誰かから)提供されるサービス」と思っている可能性がある。だとすれば、地域で暮らす作法を、一から伝える以外に次の担い手を育てる方法はないが、世代間ギャップをつなぐ仲介者(ファシリテーター、アドバイザー)が必要だと感じている。
→「協働」(地域活動)は、組織内でも分担し、地域住民にも加わってもらって活動を行っていくことができますが、「参加」(意思決定)は、中心的な役割の立場の人がとりまとめる必要があり、これを中間支援組織や、集落支援員や、地域コーディネーターなどが支援していくことが必要になります。
・地縁型住民自治組織の加入率…50%未満5.9%、50-60%8.2%、60-70%17.6%、70-80%32.8%、80-90%24.0%、90-100%10.9%、100%0.6%
→数��だけ見ると、体感と比べ、とても高い加入率だと感じます。おそらく、自動加入(強制という意味ではなく、エリア内に住んでいることで会員となること。)の地域があり、このことを住民自身が知らないことが、多くあるのではないかと思います。この場合、実質的には活動などに参加しないので、指標としては総会参加率や、回覧世帯率なども必要かと思います。
・協議会型住民自治組織の有無…ある50.1%、ない49.9%
→いわゆる小学校区単位で、自治会・町内会やNPOなどのテーマ型団体が集まった住民自治組織が、設置されている市町村の割合ですが、2014年時点で半分の自治体が設置しているという事実は、思ったよりも高いですね。新しい法人格がいよいよ必要になってきたと思います。
・豊中市自治基本条例…「すべての住民により組織する」というのは、住民はすべてその地域の一員として、自主的に地域自治組織の運営や活動に参加、参画できることを示したもので、住民に参加を強制するという意味ではない。既存の地域団体が中心となって、住民や地域で活動する団体、事業者等に幅広く声をかけることにより、組織づくりを進めていく。
→強制加入ではないが、運営や活動に参加してもらう努力は必要。とにかく、組織のこと、活動のことを知ってもらう事が第一歩。広報活動や、参加しやすいイベントづくりから。
・地域コミュニティの強化がなぜ必要かといえば、税収不足により行政サービスが十分得られなくなるからという理由をよく聞くが、それだけではない。それ以上に自然災害などの「想定外」の課題を乗り越え、人が、地域が生きるために必要なのである。
→自然災害以外にも、不審者の出没・暴走グループ・ドラッグなどへの地域ぐるみの防犯、高齢者・障害者向けのバリアフリーなどの地域づくり、などなど、自分たちでやらなければ良くならないことが益々増えてきます。
・都市内分権(協議会型住民自治組織づくり)の取り組みに対して、地域コミュニティ側から「屋上屋」論が唱えられる。しかし、アンケート調査を見ると、様々なプラスの効果が実際にあることが分かる。特に「地域内の話し合いにより、今まで取り組まれなかった課題に取り組むことができるようになった」との回答がきわめて多いことに注目したい。筆者はこれこそ地域内の諸団体に横串を刺すことのもっとも重要なメリットだと考えてきた。
→横串を刺すことで、住民自治組織は地域代表制を担保することができ、様々な取組が地域総意というお墨付きを得られることが大きいと思います。
・自治体も地域コミュニティに対して、サービス実施組織とするのか自治決定組織とするのかといったところまで考えているところはほとんどない。
→いわゆる「参加」(意思決定)と「協働」(地域活動)とを意識して、制度設計していく必要がありますね。
感想等:
・住民自治組織に関する全国自治体を対象としたアンケート調査の結果が載っている貴重な本です。住民自治を語る上でこうした基礎知識を持っておくことはとても大事で、地域に関する部署についた職員や、中間支援組織、地域コーディネーターなどは必読です。
・ただし、基礎知識がないと難しい部分もあり、まずは別の、住民自治とは何かといった基本的なことが書いてある本を先に読んでおいた方がいいと思います。