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夏目漱石、永井荷風、久保田万太郎、松本清張、藤沢周平・・・などの作家から、評論家の江國滋、歌舞伎の初代中村吉衛門・松本幸四郎、俳優の渥美清まで、思いもよらない人まで含まれている。
小説では表わせない、個人の心情を俳句を作る事で精神的なバランスを保っていた作家も多いようである。
その典型は夏目漱石がよく知られているが、永井荷風などもその範疇に入る。
荷風は、シンプル・シングル・ライフの先駆者としての美学を持ち続けた老人として評価されているが、荷風にとって小説も、発表を意識して書いた日記も、ついには門づけの文章であり、心の真実はおのずと十七音に凝縮していたと著者は言う。
・誰よりも早き浴衣や浮気者
・稲妻に臍もかくさぬ女かな
・紫陽花や身を持ちくづす庵の主
・もてあます西瓜一つやひとり者
・しみしみと一人はさむし鐘の声
・禅寺に何悟れとや葉鶏頭
・行くところなき身の春や墓詣
・泣きあかす夜は来にけり秋の雨
・秋風の今年は母を奪ひけり
奔放に生きた荷風が、58歳の時に母を亡くして一人泣きあかす姿は、俳句にしか表現できない姿であろう。