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ドゥームズデイ・ブック 上 みんなのレビュー
- コニー・ウィリス (著), 大森 望 (訳)
- 税込価格:1,210円(11pt)
- 出版社:早川書房
- 発行年月:2003.3
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紙の本
未知のものに対する恐怖というのは、いつの時代も普遍的なもの。見事な人物描写で唸らせてくれる、極上のSF文学作品。
2011/04/18 10:56
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:道楽猫 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「航路」ですっかりコニー・ウィリスファンになった私。
表紙絵がまるでラノベのようでなんだかなぁ…なのですが、前知識ゼロの状態で手に取ってみました。
私の大好きなタイムトラベルものです。英語圏SFの三大タイトルと言われるネビュラ賞、ヒューゴー賞、ローカス賞の三冠を独占したというだけあって、SFという枠では収まり切らない、非常に文学的な面白さがありました。
21世紀のオックスフォード大学の女子学生キヴリンが、研究のため、中世へのタイムトラベルを行う。
一方、手塩にかけた自分の学生を、そんな危険なところへは行かせたくなかった、ダンワージー教授。
物語は、キヴリンの中世時代とダンワージー教授の現代が平行して語られます。
中世でも比較的安全だと言われる時代のイギリスに跳んだはずのキヴリンは、何故かペストが蔓延している時代に間違って跳ばされ、しかも着いた早々、自らが原因不明の病に倒れ、元の時代に戻るためのポイントが失われてしまいます。もちろん、考え得る限りの予防策は講じていたはずなのに何故…。
そして、21世紀でも、突然未知のウイルスの猛威にさらされ、人々が次々に倒れ、パニック状態に。
キヴリンを中世に送り込んだ研究者もまた、同じ病に倒れてしまい、かくて彼女を回収する手段は現代に於いても失われてしまうのです。
「何かがおかしい…」
中世において、ペストは不治の伝染病です。
いったん感染者が出てしまえば、人々はなすすべもなく、次々に人が死んでいくのを、ただ見送るしかないのです。
その真っ只中で、無駄だと知りつつも懸命に対策を講じ、人々を救おうとするキヴリンの姿に心打たれます。
そこに至るまの情景描写や人物描写をこれでもかと丁寧に積み重ねてあるだけに、この怒涛の展開に至るや、読む者をずっぽりと引きずり込み、物語の世界に巻き込んでぐいぐい引っ張ってくれます。
それにしても、作者は本当にこの時代にタイムトラベルして"見てきた"んじゃないかと思えるほど、真に迫った描写をしていることに驚かされます。
また、一方の現代においても、未知のウイルスであれば根本的な対策がないのは同じ事。
重苦しさから言えば、それはもちろん中世のほうに軍配は上がります。21世紀のパニック具合は、コミカルな要素も織り込まれ、それほどの閉塞感はありません。
それでも、やはり、未知のものに対する恐怖というのは、いつの時代も普遍的なもので、人々の本能や人間性を見事に浮かび上がらせるものだとつくづく感じます。
よく夢で見る、"色々な障害のためなかなか目的地に辿り着けない"もどかしさを、ダンワージーの奔走する姿に重ね合わせ、ハラハラしつつ、おしまいまで一気に読まされてしまいました。
「来てくださると思ってました」
そうなんですね。きっと、キヴリンがかの時代に跳ばされてしまったのも、間違いではなく、必然。
あの時代が、彼女を呼び寄せたのでしょう。
紙の本
感動しました。
2003/04/05 17:56
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:tkm - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイム・トラベルもののSFですが、ハード面を重視する方には少々物足りないかも知れません。でも、ストーリー、人物設定、個々のエピソードなどは文句のつけようがありませんでした。とにかく面白い小説です。夢中で読み進み、1人邪魔が入らない部屋に籠って一気に読了。かなり長いですが全く気にならず、ラスト付近では思わず涙しました。21世紀と14世紀の話が交互に進み、それぞれの四面楚歌の状況、様々な人間模様にさり気無く挿み込まれたユーモアと何より主人公たちの崇高さ。読み終わるのも勿体無いと感じた程でした。惜しむらくは表紙! 若年層だけではなく、40代以上の方でも充分面白く読めると思うのですが、この表紙ではちょっと手が出し辛いかも…
紙の本
出だしはまったり
2015/09/28 18:07
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:flamekissflower - この投稿者のレビュー一覧を見る
いかにもSFチックな感じで、歴史専攻の女学生が自分の専門の年代へタイムスリップしていって、全然雰囲気の違う現在と過去が並行して進行していきます。上巻は細かい出来事がつまびらかに書かれているので全体での意味合いがつかめず、対象物に目を近づけすぎていて肝心の品物が何なのかわからないもどかしさを感じました。なので上巻の70%くらいまでは惰性で読み進めていましたが、だんだん登場人物たちへの理解が進むにつれて物語にひきこまれ、下巻に続くあたりで劇的な展開がはじまり、下巻からは目が離せず朝3時まで読んでしまいました。
生活がリアルに表現されていて、自分がタイムスリップしたような気分、鳥インフルエンザで病院に隔離されたような気分が味わえます。過去と21世紀で隔たりはあるものの、物語の展開されている場所は本当に狭いんです。地味なお話かも。でも深いお話でした。
紙の本
ウィリスの上手さに酔いしれる
2015/11/24 22:00
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ヤン - この投稿者のレビュー一覧を見る
熱心なSF読みではないとはいえ、このような傑作を読み逃していた自分を恥じたい気分だ。
時は2054年、タイムトラベルが可能となった時代。オックスフォード大学の史学部生キブリンは、研究のため14世紀へと旅立つ。だが、あらゆるトラブルが重なり、無事にたどり着けたか分からない事態に陥ってしまう。キブリンの安否を確かめようと、文字通り必死に走りまわる主人公ダンワージー教授。
しかし、正体不明のウィルスが蔓延し、隔離状態となる。一方のキブリンも、とんでもない危機に陥ってしまい…はたしてダンワージー教授は、無事にキブリンを現代へと回収することができるのか、というのが大まかなストーリーだ。
そう、いってみれば単純な話なのだ。これだけの話を、ウィリスは丁寧に丁寧に描いていく。もしかすると、遅々として進まない展開に、読者は苛立ちを覚えるかもしれない。だが、そこを何とか耐えて欲しい。これこそがウィリスの最大の持ち味といっていい。前半部分の執拗な繰り返しや書き込みが、後半じわじわと効いてきて、怒涛の感動へとつながるのだ。まさにウィリスマジックとしかいいようがない。
もうひとつ特筆すべきは、ウィリスの描く、子供の造形の上手さだ。本作でも、ダンワージー教授の手足となって奔走する少年コリン、また別作品ながら「航路」に登場する少女メイジーなど、ともすれば陰惨な話が展開されるなかで、彼らに救われる場面は、決して少なくない。まさか、こんな小生意気な少年と、こまっしゃくれた少女に泣かされるとは思ってもみなかった。
さあ、圧倒的なリーダビリティを誇るウィリスの手腕に酔うがいい。その結末は必ずあなたの胸を打つに違いない。