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1975年から1979年にかけて書かれた日本文学から7篇を収録。個人的に面白かった順に。
中上健次「岬」
既読の作品。登場人物たちの語る紀州のことばや風景描写、そして短く切られたセンテンスによって、物語世界の暴力的な力強さであったり土俗的な血なまぐささであったりが、荒々しくも精緻に紡ぎ出されている。紀州サーガの出発点であり、日本文学を代表する傑作。
筒井康隆「遠い座敷」
座敷という日本独自の空間が持つ不気味さ/奇妙さを感じた。同時に、ありえない奇異が起こっているのに読後は違和感よりも懐かしさの方が強く残り、句読点が極端に少ない特徴的な文体も成功していると思った。
三田誠広「僕って何」
学生運動という今となってはとっつきにくいモチーフではあるが、主人公の抱える懊悩は現代の若者に通づるところが多分にあり、共感できた。「岬」と同じく芥川賞作品ながらこちらは軽妙で、読みやす過ぎるくらいに読みやすい。
田中小実昌「ポロポロ」
「ポロポロ」という祈りの言葉に託された、宗教というものへのスタンスが独特で面白かった。今後何度も読み返すことで面白味が更に増していくように思う。同じ表題のついた作者の短篇集も近々読んでみたい。
開高健「玉、砕ける」
垢擦りによって身体の汚れが落とされていくさまが気持ちよかった。秀麗な文章も仕掛けとしての〝垢の玉〟も、見事にきまっていた。
田久保英夫「髪の環」
最後に髪の環を作る場面が印象的。あまり皆子の魅力が伝わってこなかったのが残念だが、上手い短篇だと思った。
富岡多惠子「幸福」
幸福と不幸を巡る、これもよくできた短篇。が、ちょっと雰囲気が暗すぎるような。
どの作品も面白く読んだが、「岬」が圧倒的なために、他の作品の魅力が若干薄れてしまっている感もあった。