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タイトル通り、心理職がセクシャルマイノリティのクライエントとかかわるための論文集。
不安を誘う副題は、執筆陣の経験や先行研究からきちんと書けるのはここだけだから同性愛と性同一性障害に対象をしぼります、ということらしい。
抽象的な部分はともかく経験に則した後半は良かった。
学術の文章の中ににじみでる、目の前の人の苦しみを軽減したいという意志に打たれる。
第三部だけでも心理職に限らずいろんな人に読んでほしい。
序盤はセクマイの概念や歴史などが抽象的に説明される。
こういう本がでるのは大事なことだけど、学術の俎上にのせられると、セクマイが特殊なカタマリとして観察されているみたいで嫌だ。
分類や書き方もややこしい。
善意のシスジェンダーへテロがいきなりこれを読んで、人としてのセクマイを理解できるのか疑問に感じた。
キリスト教圏の認識を普遍の認識とみなしている部分があるのもいただけない。
知らないうちにDSMが新しくなってたのねとか、勉強になった部分もあるけれど、気持ちの上で読みにくくてやたらと時間をくってしまった。
しかし後半はきちんとセクマイを人間扱いしてきた臨床家の文章が続いてぐっと読むのが楽になった。
特に第三部はセクマイを説明するのではなく、心理職の側の気持ちに焦点を当てているのがいい。
自分の偏見に気づく必要があるのは心理職に限ったことではないし、対象もセクマイに限らない。
具体的な対応策が、自分がばかなことをしないための参考になった。
ついでに言えば、心理職以外の人も心理職を人としてみる必要があるんだと思った。
心理的な援助は機械的にできる仕事じゃないから、自分の中の価値観や信念がどうしたって顔を出す。
それが助けになることもあれば足を引っ張ることもある。
「人」に助けてもらうんだから、クライエントや部外者の側も心理職の人への上手な頼り方を考えていかなければならないんだ。
当たり前のことだけど、私にはちょっとした発見だった。