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献本企画に当選して、読ませていただきました。
どんどんと「死」に近づいていく。それなのにそこまで暗い雰囲気はそこまでない。「不幸」と思っているようにもそこまで見えない。そんなところが余計に怖く感じてしまった。
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献本企画でいただきました。文藝賞受賞作です。 内向きだった男が内向きな女と出会って、どんどん内向きになっていくお話です。世の中を人生を悲観し、すべてを切り捨てて行く姿は共感できませんが、閉じたふたりだけの世界はとても心地よいのだというのは伝わりました。視点が徳山(男性)なので、初美(女性)の生い立ちや気持ちの描写がほとんどなく、彼女の気持ちがさっぱりわからなかったのが残念でした。ミステリアスにしたかったのでしょうか。
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初めて献本に当選。光栄にも読ませて頂きました。
本年度の文藝賞受賞作です。
まず、舞台がとてもいいですね。十三という、阪急電鉄の
中では、おハイソ感のない、大阪らしい、活気と泥臭さと
曖昧さのある猥雑な街を選んで舞台にしているのが
素晴らしい。
徳岡という宅浪生と初美というキャバ嬢が、めまいの中に
堕ちていくような恋をして、お互い溺れ合ってゆくのも、
大阪のどこよりも、ここでならありうるかもしれない、という
リアリティを持って書かれていると思います。
大阪の言葉も、やりすぎていなくて
「ああ、こういう喋り方するよな…。」
と、人物の口吻に、納得するものがあります。
色っぽく、一緒にいると楽で、そして金の心配をさせなそう。
そして、入り口は楽そうなのに、謎めいている。
そういう初美の姿から、男…徳岡は惹かれていきます。
極めて普通の日常的な恋の初手から入っていったはずが
当たり前の日常の擬態を纏った異質な日々へと、
恋人たちを連れてゆく。
猥雑な街なら、こんなこともあるのじゃないか、と
読者もまんまと嵌ってゆく、その感じが凄いのです。
その何気なさが怖いし、刃物のように読者の背筋にきます。
荒れた言葉遣いがない、しんとした言葉たちから届く
その感じは、つい私にもう1ページと読み進めさせました。
二人は死に向かって淡々と官能的で時間の流れのない
道行きの日々を過ごしていくのですが、初美の家庭環境や
背景、思惑などは、本当に無彩色で透明な感じ。
多くの読者様が「見えない」とおっしゃる所以でしょう。
でも、私は、彼女は徳岡と出逢うもっと前に、それらを
喪失して、自分でも現実的な手触りで思い出すことが
出来なくなっていいる女性なのだな、と感じました。
彼女はもうずっと前に、彼女が朗読した人々のように
本当は死んでいる、そんな気がするのです。
生きている感じがしない女、初美はきっと。
まだ生きて、熱を発している男、徳岡に。
自分が過去に受けた心理的な「死」に至るまでの痛みを、
彼に対して語り、性的にふたりで高まって擬似的な死を
分け合うことで、どうにか現実に留まっていたのかな、と
思うのです。
だけどそれだけでは、そのまま生きてはいられない。
徳岡の方はずり落ちるように閉じた日常に溺れていって
初美と同じく壊れていきます。
バイト、友人、受験…彼を現実に繋ぎ止めていたものは
どんどん彼から剥がれ落ち、彼も自分の日常から
熱や色、音をなくしてゆく。
そんな感じがありました。
何でもない日々も、裏返すとこんなに怖くて。
ぽっかりと私達を飲み込んでいく。
虚構だと解っていても、本当じゃないか?と一瞬
本を閉じる時に思って。
そしてそのあと我に返り、自分の日常を確認して
帰って来られた…、良かった…。
小説って堪らない…と嘆息させてくれる、というのが
読後に一番感じたことでした。
車谷長吉さんとか、お好きな方にもいいと思います。
関西文学の新たな騎手になっていただきたい作家さんの
登場とお見受けしました。次回作が楽しみです。
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献本企画にていただきました。
一言であらわせと言われれば
『モラトリアム期の人間か、モラトリアムを過ごした人間になら、ああと分かる感覚』
『タナトス(破滅願望)文学』
というところでしょうか。
これを読んで、わかるわかると頷く人もいれば、嫌悪する人もいるかもしれない。
大抵は、そこまで堕ちこまず這い上がるか、見ないふりをするのを、主人公は、ずるずると恋人と共に暗闇部分へいってしまう。
人間関係というか、バイト仲間や予備校の先輩との付き合いの描写が、本当に読んでいると鬱々します。今時なのか?特殊なのか?
現役大学生に聞いてみたいところです。
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献本企画にていただきました。
選評の一つに「長い」というのがあったのだけどすごく同意してしまった。でも長いのに読ませる力はあり、好みの話ではなかった割にはしっかり最後まで読んでしまった。
何と言ったらいいんだろう、あらすじでは心中ものという風に書かれていたが、心中というよりは一人の人間が落ち行くさまを描いたというほうが合っている気がする。浪人生という立場の主人公がそれだけでも卑屈であるというのに、ある女性に会うことで彼女に縛られるように、或いは夢見るように、ねじれていくのが奇妙におかしい。されど本人に自覚はなく、本当に転落人生を送るというのは本人にとってはわからないのかもしれないと思うと怖かった。
自分でも段々憑りつかれるように彼女、初美を中心に世界が変わってしまうのは恋や愛というだけの盲信ではない。少しずつ毒を含ませるように、闇に落ちていくのが恐ろしい。
それと特に最後に希望として描いていた未来さえ取り払われてしまうあたりが容赦なく、ある意味下手に希望を残さなくてよい終わり方かもしれない。よい終わりではないけれど、変に明るいものやよい話にしてしまわなかったあたりは一筋ちゃんととおってて良かったと思う。
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ゆるやかな、ゆるやかな心中の物語。
意味のわからなかった冒頭の、徳山を見た初美の大笑い。
読後、その時の初美の心の声が聞こえた気がした。
「見つけた」「おったやん」と聞こえた気がした。
結末は描かれていないけれど、ゆるやかに、けれど確実に死にゆく二人が見える。
尽きない眠りの中、初美はもう徳山を必要としていない。でも、離しもしない。
いや徳山が離れられなくなっている。
逃げ道はあったのに。「ない」と思っていたのは徳山だけなのに。
眼を閉じれば闇。夢も見ない眠り。
落ちる瞼に抗う理由はとっくに無くしている。
読んでいる間中ずっと、初美と徳山の、老成されたような言葉・行動に気持ち悪さを感じた。
この「気持ち悪い」は、この作品にとってはきっと褒め言葉になるのだろう。
献本企画でいただいたプルーフ版にて読了。
普段読まないタイプのお話なので、新鮮でした。
Booklog様、河出書房様、ありがとうございました。
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献本企画でいただきました。(はじめてでとてもうれしかった)
裏表紙にある『現代の「心中もの」登場!』というフレーズに、読後なるほどと思う。本文中にふたりが死んだという明確な記述はないけど、それを示唆する終わり方はしている。他者との関係がなくなっていくこと=関係性の喪失がふたりの死を表しているようにも思える。
他者とのつながりはこんなに大切なんですよ、と諭したいわけではないようだけど、肉体的な死だけが死ではないという一例を示しているような。
個人的には、自分に似ているキャラクターがいて読んでて恥ずかしくなったり「他人から見たらこういう風に思われるのか」と考えて落ち着かなかった。それだけ人物描写が巧みで、キャラクターの性格や思考回路、そこから繰り出されるセリフが現実味を帯びているということ。
ラスト数行は希望にもその逆にも読めるので、人によってどう解釈が違うのか気になるところ。
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献本企画で 戴いて
先程 読み終わりました。
読み始めて 暫くは 表現が私には合わなくて
ちょっと苛々したり もやもやしたりしました。
途中からは 慣れました。
こういうのは 言葉の認識とか使い方の
相性だと思うから 人によって感じ方は違うのかな
と 思います。
初美と徳山。
初美は 初めから 徳山と自分が
似ていると認識したと言っていて
勿論 そういう部分はあったのだろうけど
私は 元から似ていたというよりも 徳山は
初美の持つ 厭世的で説得力のある 世界観に
飲み込まれていったように感じました。
そして 飲み込まれてしまうことが
無理もないと思えるほどには
読んでいた私も 初美の世界観には
魅了されました。
終わりのほうの 形岡とのメールのやり取り。
形岡の言葉は 確かにとても偽善的で
非現実的だと私も思いました。
でも それでも初美の言葉は痛かった。
そんな言葉を向けなくても
形岡との関わりを
絶ってしまえばいいだけじゃないのか と思いました。
でもきっと 初美の言葉から
私が感じた痛みは
そして 受け取った形岡が感じただろう痛みは
きっと ずっとずっと長いこと
初美自身が感じ続けていた
痛みなんだろうと思いました。
なんだか 自分が一番
繊細だった時代を思い出しました。
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献本企画にて。初美というキャラクターが強烈。
徳山に寄り添っていくようで本当は全く必要となんてしていないんだろうなあ。教祖となるのはこういう人間なのかもしれない。なんというか、思考から支配していく感じ。でも初美自身は無自覚なのかも。最後の「在日」発言は暗示を解くようだった、夢想の世界から現実に引きずり落とすような展開に驚嘆。
文章はとても読みやすくて、途中で長いと思ったけど、振り返るとセンテンスが明解でわかりやすい。何をどう書き換えたのか気になるから改稿版を読んでみたくなった。
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初美は思慮のレベルの浅い人間とのつきあいにうんざりして、といっても世の中は案外レベルの低い人間が多く、もう人間と関わること自体が嫌になっているのだろう。
しかしそうはいっても渇きはある。そのため徳山のようなつまらない人間であっても、他に比べればマシというだけで入れ込んでしまう。実際のところ、縋っているのは初美の方だろう。彼女に寄って来る男は数多くいても、彼女の理想を満たせる男など、というより許容範囲に入る男すら殆どいないはずだ。孤独なのである。
だから、一身に尽くすというポジションを多分楽しんでいる。かなりの欲目でもって徳山を許容範囲を超えた理想にすら近い相手にまで補正をかけて、バーチャルな関係に酔っている。しかし彼女は、徳山に満足してはいない。ただ、もっとマシな人間がいないのだ。
初美は純粋な思考力、知性で言えば作中トップの人間だ。しかし生活するにはキャバクラで働かなくてはならないし、さして知性があるわけでもないネズミ講の幹部に比べて生活は楽ではない。こういったところに感じるストレスが自殺願望(フェイクだと思うが)や、思考力の劣る人間たちに対する攻撃性となるのだろう。
一見するとナジャの如き神秘的なファムファタル、高い知性で常にうまく立ち回る快活なヒロインにも見えるが、実際のところ人間社会に疲れ、周囲に会話のレベルを合わせるには知性とプライドが邪魔をし、「なんでこいつらこんなバカなんだ」という憤懣を溜め込んでいるその辺によくいる女、というか人間なのだ。
最後に彼らは死んだろうか?
死んでないだろうね。
仕事も介護も育児も近所付き合いも社内政治も、生きる上でのすべては煩雑で何もかもぱっと終わってしまえばいい。
しかしそれで済むならもっと早くそうできたろう。
できないから彼女は今までずるずると生きてきて、隠れてまで何か食べて生きて続けている。安易で簡単な終わりなんてやってこない。小説が終わった後も、結局は似たような日々が続いていくのだ。
初美っていうのは浮世離れしたように見えてバカ相手にケンカ売らずにいられない、やりたくもない仕事をして精神磨り減っている、その辺の人間と大差ない存在なのだ。その辺の人間の大半は、本当に自殺まで至るほどの厭世観を持ち合わせてはいないだろう。
さんざん言われている「長い」という点についてだが、最初の方70ページくらいを読んでいる間は投げ出しかけた。
せめて10ページ以内には作品の主テーマの影なり片鱗なりを覗かせておかなくては、ただのキャバクラ恋愛小説と思って閉じてしまう人も多いのではないだろうか。賞を取ったことで概要が広まり、そのような心配は不要になるのかもしれないが。
(感想は献本版についてのもの)
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「死にたくなったら電話してください。いつでも」空っぽの日々を生きてきた男は、女が語る悪意に溺れていく。破滅の至福へと扇動される衝撃作。全選考員が絶賛した、第51回文藝賞授賞作。
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初美の言動、初美の内なる声、初美が目で見て肌で感じるものに、どんどん引き込まれて行きました。
普段、めったに小説を読むことがない私ですが、サンプル企画に当選して機会をいただいたので、出張の新幹線の中で読みました。
いつもはビジネス書か仕事関連の本を読み、わずかに経済小説を読むという程度です。
これからはインターバルとして文学作品も読みたいなと思わせてくれました。
出だしは、ただ字面を追っていただけでした。初美の部屋のシーンに来た時、まさに初美の本棚が私の眼前に広がってから、どんどん彼女の魅力に取りつかれて行きました。
初美のような感性と、ゆるぎない意思を持ちたいものです。確かに「変な子」かもしれません。けれど、世の中に「普通の子」は存在しないのです。誰もが、個性を持った「普通じゃない子」だと思うのです。
クライマックス直前の、形岡さんのメールが、物語全体を引き締めている感じを受けました。
誰もがもっと、自分を出せる世の中になって欲しいな、と思います。
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第51回文藝賞受賞。
2浪中の徳山は、ナンバーワンキャバ嬢・初美から、携帯番号と「死にたくなったら電話して下さい。いつでも。」というメッセージを渡される。
彼女の膨大な「世界の残虐史」のコレクションと知識、厭世的な彼女の思考に徳山も影響され・・・。
目標も確固たる意思を持たない人間が、彼女の依存症になる話を描いた話というところか。あまりよくわからなかった。
初美がどういう人なのか、こちらのほうが気になった。
(図書館)
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死に急ぐ必要なんて無いのに、生きる意味を見出せない。初美と出会ったことで徳山の世界が閉じて行く、閉鎖のような、鎖国をしたかのような息苦しさを覚える話だった。
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私には理解しがたい世界観。
初美は、どういったいきさつで、死にとりつかれてしまったのかが気になった。
やっぱり最後は死で終わるのかなー
死であっても、2人が幸せならいいのかな。