紙の本
自分を人に委ねるとはどういう事か
2017/01/23 13:53
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「考える事を放棄するな」
この小説は私に警告をした。
自尊感情の低い主人公の徳山は現世に諦念を抱いた初美に居心地の良さを感じ惹かれ、初美の揺るがない姿勢に縋った結果、自分の意志で貫いてきた唯一の事を捨ててしまった。残ったのは初美となった自分だ。
生きながら消滅する事の辛さを忘れないよう、また度々読み返そうと思う。
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3浪生の徳山がキャバクラで出会ったキャバ嬢の初美から、「死にたくなったら電話してくださいとメモをもらう。
初美は、古今東西の残虐・殺人・猟奇・拷問・ホラーの書籍と知識を持ち、それを聞かせながら徳山を快楽に誘う。徳山は初美に溺れていき、友人から離れ、そして・・・
初美の非常に片寄った知識、説得力のある知性、美貌に引き寄せられる。
しかし、なぜ初美が徳山に近づいたのか、初美とはどういう人物か、は最後まで明かされない。
100万円がどうなったかの謎も明かされない。
二人の最後がどうなったかも描かれていない。
それも含めて、非常に強烈な印象を残し、力強い筆力を感じる。初美に、会ってみたい。
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第51回文藝賞受賞作 刊行前サンプル版 レビュー。
生きることをそう全否定したくはない。
しかし…恐るべきことに、私は初美と徳山が持っているものを同じように持っている。つまりは、私が徳山であっても、さほど奇妙ではないことに驚いた。そうして安堵した。これまで決して許されることなどないだろうと信じ、表には見せなかった内面を、二人の破滅はいとも簡単に受容してくれたように感じた。
現世に、そして生きるという行為に何も期待しない、何も求めないということをこれほどに徹底してできてしまう狂気を、私は持てないから苦しみながらも生きるしかないのだろうか。
告白すると、初美の話す残虐な描写は私をも興奮させた。初美という名前が、私の初めての恋人と同じ名であることも無縁ではないだろう。
生に何も足さず、生から何も奪うことなく、ただ純粋に生をそのままの形で消費し、使い果たそうとした女と男の話。
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沢田研二が歌った『時の過ぎゆくままに』に、「おちて行くのも 幸せだよと 二人冷たい 身体合わせる」という歌詞があったなぁ。
関西弁が実にリアルで、関西人としては、皮膚感覚的に嫌ぁな気色悪るさが生々しくまといついてくるものだから、もうこれは最後まで読むしかないと覚悟を決めて読み進めたものの、終盤は冗長性に耐えきれず、飛ばし読みしてしまった私を、どうかお許し下さい。
ラストは、あぁ、書くとネタバレになってしまうから、具体的には書かないけれど、この終わり方、チョット狡いと思った。
まさか落丁じゃないよね(謎。
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実際に読んだのは、Bound Proofの非売品。登場する男どもがことごとくヘタレ揃いだ。その中に紅一点、初美が燦として存在する。徳山のどこに自分との共通性を抱き、彼を虜にして意思を与え、やがて破滅へと導いたのだろう。19歳にして人間の悪意を徹底して探究し、論破する。その悪意の源に欲求があり、食欲をも否定するのを受容できたとして、最後に在日を持ち出し、しかも親の反対に屈する女に貶める必要はない。
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文藝賞の献本企画に当選してサンプル版を拝読いたしました。
読後の感想としてまず浮かび上がって来たのは「救われないな」という言葉でした。終わり方は唐突な感が否めなく(折角夢中で読んでいたのに急に冷めてしまうようなこの終わり方、もしかして字数の関係か?などと余計なことを考えてしまいました)、結末として“そうなる”のだということはわかってはいたけれど、そこに至るまでの主人公たちの心の動きがもう少し知りたかったようにも思いました。なんで「死にたい」のかとか、どうして「心中」なのかとか…。ただきっと、現実なんて救いようもなくて、起こった事実が“物語”として語られる事で「よかった」「悪かった」「納得できる」「納得できない」と聞き手側が勝手に感想を持つものだけれど、語り手が不在のとき、あるいは語り手が語ろうとしないとき、事実は事実のまま質量も感慨も何も持たずにただそこに在るだけものなのだろうから、これはこれでありなのかもしれません。
終わり方は好みではなかったけれど、10代の頃ずっと抱いていた不穏な気持ち、逃避としての「死にたい」という言葉、それらをやり過ごして今“普通”に生きる毎日をなにも満たされないままにやり過ごしている自分が自覚されて、読み進めている最中はずっと胸の中がざわついていました。名前しか知らない十三の街が、朝キャバが、そこに暮らす一人一人が活き活きと浮かび上がるようでもあり、惹きこまれる部分も大いにありました。
今後に期待という意味もこめまして星4つで。
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文藝賞受賞作サンプル版を頂いて。
テンポの良さと、人物描写の見事さに惹きこまれた。
暗いけれど、爽快。痛快。
『曽根崎心中』を知っていればさらに面白いし、知らなくても十分に楽しめる。
装丁(表紙)が好きな人はきっと、はまるのではないかと。
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校正前バージョンでの感想です(ブクログ企画で頂いたモノです)
なかなかに面白かったです。
全体的に村上龍の様に余分な言葉が多く、オチのメールでは愛と幻想のファシズムを思い出しました。
選評にもあったように、冒頭を読むのがかなり苦痛です。
エッチシーンはエロかったですが、最初の時だけですかね。
後半はただの風景描写的に感じました。重要ではないからいいんでしょうけど。
面白いなと思ったのは、菅野や日浦との決別シーンですね。
決別後の1回だけのハッピーに対して、陰鬱とした雰囲気に包まれてしまうのもかなりいいです。
このあたりはほんと引きこまれました。
ただ、メール以降は若干蛇足かなと。
最後の徳山のセリフも、なんか雰囲気が違う感じで拍子抜けです。
人物関連だと、大体ろくな人出てきませんね。
主人公の徳山はイケメンなだけでダメな人ですし、初美も彼女にはしたくないタイプ(友達ならまだいいかもしれない)。
菅野は空気を読む気が無いのか読めないのか妬み始めるとうざいタイプ。
日浦はお山の大将、内場たちはその腰巾着。
形岡は比較的まともかなと思いましたが、空気読まずに前に進みたがるタイプですね。
冒頭がかなり苦痛でそこを抜けたら一気に面白くなるのですが、メールがらみ、在日の話と、微妙な空気がながれてそのまま終わってしまうのが本当に残念。
どうせなら決別後の陰鬱な空気のまま進んで欲しかったところです。
面白いことは面白いですが、人に薦めれるかというと、かなり選んで薦めなきゃいけない感じです。
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献本に当たり読ませて頂きました。
ストレートな表現に、胸がすく思いだったり、痛くなったり。どんどん出て来る世の中の普遍的な不条理に対する”率直な意見というか感想”が自分でも思い当たる事だったりするので興味深く読み進められました。
そして、主人公の男性よりも初美がどんな風に育ってきたのだろうと、そちらに想像が膨らみました。
李龍徳さん、次回はどんなものを書くのだろうと、期待してしまいます。
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献本企画で読ませていただきました。ありがとうございました。設定条件があまりにリアルで身近だったので、読んでいて胃が痛くなるほどでした。著者の描写力に舌を巻きました。初美の発言、筋が通っていて痛快です。胸がスーッとします。それに対して徳山くんは残念だな、と思いました。そりゃあ取り込まれるよ。今までにない展開で、面白く読めました。これからの作品にも期待できます。新しい作家を知る機会をいただき、感謝しています。
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初美は次にどんな行動に出るだろう。
その好奇心だけで最後まで読み切った。
結果から言えば、大きな事件が起きるわけでもなくミステリのような謎や思惑があるわけでもなく、
初美は何を考えているのかわからないまま終わった。
何を考えているかわからないちょっと不思議系のキャバ嬢と付き合うことになった浪人生が主人公。
居酒屋でバイトをしながら有名大学合格を目指す主人公は段々彼女にのめりこんでいく。
自分は自分のままおっとりした性格はずっと変わっていないのに周りとの接し方が別人のようになっていく様は、本当の自分になっていっているのか洗脳されているのかもわからないふわふわした状態。
うわべだけの付き合いを断ち切って、彼女に肯定されて、ただ楽な方に流されていく主人公の気持ちは少し理解できるけれど共感して涙するほどではない。そもそも主人公が最後に何も考えられなくなっているから共感のしようがない。
読者は最初から最後まで傍観者としてこの青年の成り行きを見届け、自分だったらと考える、そんな小説だった
。
最後まで初美が何を考えていたのかもわからず、バイト仲間や家族より彼女を選んだ主人公の選択が正しかったのかどうかもわからないのがリアルに感じる。
文章として興味を持って読むことはできたが、フィクションとして面白くはなかったので星3つ。
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献本企画で当選し、読みました。
紙面なのに、映像を見ているかのような圧倒的な描写に背筋が寒くなりました。
正直、読み進めていくのはとても勇気がいり、しんどかった。
なのに、読まずにはいられない。。。
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ブクログの献本企画でいただいた、未校正のサンプル版。
まず気になったのが、文体。
事実を並べた、リズムのない文章の羅列。
まるで何かのレポートみたいだと思ったが、よく考えたら、これきっとレポートなんだ。
徳山と初美。
ふたりが出会ってから最後までを、淡々と、長々と、書き綴るレポート。
何が2人をして引き寄せ合わせたのかはわからない。
初美は徳山を見て「自分と似てる」と思ったそうだけど、読んでいる限りでは似ているようなところはあまりない。
人間関係を作るのが苦手との自己分析だけど、そんな人、そこら辺にたくさんいるだろう。
ただ、ちょっと変わっている二人が、お互いを否定することなく受け入れることができたのだから、やはりそこには二人にしかわからない何かは存在していたと思うのだが…。
世界の全てを意味のないものとして否定して、なのに互いだけは「愛している」と肯定できること。そして、肯定してる相手とともに、無へ帰って行こうとすることへの同意。
理解できない。
理解できないのに、読まされる。
登場人物の誰に対しても共感できない。
だけど、見捨てて断罪する気にもなれない。
だって、誰もがみんなご立派な人間じゃないのだから。
そして、そういう偽善者ぶった考え方こそが、徳山と初美に激しく否定されているのだ。
私という読者を否定しながら、ぐいぐいと読むことを押しつけてくる圧力。
それが筆の力だというのだろうか。
はっきり言って、うまい文章とも思ってないんだが。
特に初美の話言葉が、敬語ということになっているけれど、それは体育会系の先輩後輩のあいだで使うような、短い文章でぶつぶつ切れるような敬語の言葉。
男女の愛にあるような、少し甘さや余韻のあるような敬語では全然ない。
だから初美の言葉づかいから、きゃしゃで美人でセクシーという初美の容姿を思い浮かべることはちょっとできなかった。
初美の見た目が、男性にとっての理想の女性のステレオタイプなところも気になったし。
それでもこの本は、私に読め、読めと、迫ってくるのだ。
突き付けられる否定に対して、何かもやもやとしたものを抱えながらページをめくり続けたのだった。
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初めて応募した献本企画で頂いて、読ませていただきました。
独特の世界観の中で繰り広げられる話。解るような解らないような不思議な感覚で読み進めた。徳山と初美、この二人の最期まで書かれていないのが作者のこだわり?あくまでも読者の想像を掻き立てたい思惑が憎らしい。
正直、気持ち良く読める本ではないけれど、なぜか人を惹き付けるものがあり、後味の苦さが憎らしい作品。
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bound proof 未校正版にて。
初美の本棚の場面までは、読むのが苦痛になるくらい退屈だった。そこからは引き込まれて面白く読んでいたけれど、形岡のメール辺りから失速して、失速したまま終わった。
世界は悪意に満ちている。結局は、そういうスタンスの初美を私は面白く読んでいただけなのだと思う。少なくともこの作品を読む限りでは、私はこの作者の文章に才能を少しも感じない。
顔が良いだけでアホすぎる徳山は、同情を通り越して蔑みの感情さえ湧く。でも、そんな徳山だからこそ、初美の影響を受けて、初美の知識や考えを自分のもののように勘違いし、深みにはまっていったのだろう。その「自分」の無さは、清々しいほどに初美とは対照的だ。
そして、最後の数行は蛇足だったと思う。最後のセリフに私は作者のかすかな希望を見たけれども、本当に希望を書きたいのだったら、これではかすかすぎて伝えきれていないし、絶望で終わらせたいのならば、こんな余計なことは書くべきではない。
それから、伏線が回収されていないのも気になる。そもそも、伏線のつもりがなかったのだろうか。思わせぶりなことだけ書いておいて、そんなことがあるだろうか。
世界は悪意に満ちている。それは物事を一つの方向からだけ見た、狭い考察だろうと思う。しかしそれは、確かに真実の一側面を喝破してもいるのだ。善意だけを信じていれば裏切られるし、悪意だけを見ていればすぐ近くにある善意に気付けない。それでも。
世界は悪意に満ちている。そう思いたい時もある。そう思わずにはいられない時もある。たとえその先に死が待っていようとも。一体、誰に初美の選択を責められるだろうか。
人間の残虐性は、歴史がはっきりと教えてくれる。人間はまさに醜い生き物だ。私たちは自分が人間であるから、その善良な部分を強調しようとするけれど、それを差し引いても、やはり人間はその存在そのものが悪なのだと思う。