紙の本
世に送り出す
2017/11/11 03:50
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
子供たちの自立を願う親の心が伝わってきました。自分の好きなものにとことん打ち込める環境を用意してあげたいと思います。
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高学歴でも就職できない時代に備え、格差社会に負けない人に育てることを目的とした子育ての書籍である。子育ての書籍も起業の書籍も数多く存在するが、二つの組み合わせはユニークである。
本書は良い大学に入って良い会社に入るという戦後の成功体験のアンチテーゼになっている。これも一種の戦後レジームの打破である。良い大学に入って良い会社に入る人ではなく、起業して自分で稼げる子どもを目指すべきと主張する。好きなことと自活力を両輪として、会社や組織に頼らずに生活できる力を養う子育てである。
我が子がブラック企業に使い潰されるより、起業家になった方がいい。これは親心として自然である。ブラック企業は会社が労働者に無限の忠誠と奉仕を要求する病理であり、その対抗策は各人が職(job)意識を高めることになる。但し、これには、隣の席の電話が鳴っても取らないことが良いことかという疑問もある。
本書の起業家像は他者に助けられ、感謝する存在である。これはブラック企業を否定するが、厳格な職(job)意識も窮屈という向きには一つの方向性になるだろう。勿論、自分が助けられることもあれば、相手を助けることもあるという相互主義が前提である。さもなければ一方的に搾取するブラック企業になってしまう。
良い大学に入って良い会社に入るという戦後レジーム克服の必要性は理解しても、起業人が解になるかには異論もある。ヒルズ族のような起業家には金だけが全てというような傲慢さ、冷酷さがある。社会問題になっているブラック企業や貧困ビジネスの経営者とも共通する。そのような人間に自分の子どもを育てたくないと思うことは親心として当然である。
しかし、それが目指すべき起業家ではない。「非常にすばらしい起業人もたくさん存在する」(144頁)。実際、成功者の人々は、自分は運が良かっただけと謙虚な人が多い。自己責任論を振りかざしてバッシングしたり、「日本は資本主義だから」と思考停止したりする傾向は、実は社会経験が乏しい人の方が意外と強い。本物の成功者とは異なる。この意味で自分の子どもを起業人に育てることは悪いことではない。