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男1女2で男2を殺害・放火した罪で死刑囚となったアグネスが何故未熟な牧師を教戒師として指名したか、恋人関係であったらしいナタンを殺したのか、謎かけに加え、ナタンの生誕エピソードがオカルトめいていて、アグネスの独白だけでも読ませるのに、更に面白要素てんこ盛りでいいのか…から読み始めた。アグネスのアイデンティティーだけでも引き込まれるのに…贅沢な作品だわ。移動労働者として底辺で生きて来たアグネス、母親に置いて行かれたアグネス、死刑囚として決定してるが、アグネスの心は解放されるのか、とか、もう、なんか色々凄い。
アイスランドの実在する死刑囚アグネスの話だが、むろんフィクションではあるけれど、アグネスの内面が如何に理知的で繊細であっただろうか、と言う描写が素晴らしい。ハンナ・ケントはオーストラリア人、アグネスがどんな人間だったか、と言う作者の知的探求心が生んだ傑作。母親に捨てられ、子供の頃から農場を転々とし、身一つで生きて来て、愛する人間に愛されてないと知ってしまい、結果として殺人を犯すことになり、「魔女」とまで言われたアグネスが死刑執行日までの日々を過ごした農場で初めて自分を一人の人間として接してくれる人間を得ても死から逃れられない。死刑執行制度が云々、と言う事は微塵も考えずに読んだ。そう言う話ではない。女性作家の文章ってあんまり好きじゃない事が多いんだけども心の声の情景に酔う、と言うか。ひたすらに冷たく硬質で美しい感じ…
女子力も恋愛力もゼロ値に近いんだけど『凍える墓』のナタンとアグネスの回想の部分は、人間関係の一つとして国を越え、時代を超え、現在の私が読んでもとてもリアルである。ナタンの狡さ、アグネスの信じたい気持ちと絶望…人間関係の原始的なものを感じる。恋愛関係云々で読まなくても解る。普段は女性主人公ものは故意に避けて読まないんだけど『凍える墓』はそう言う意識無く読んでる。アグネスとナタンの出会い部分の回想に差し掛かってるんだけど、ナタンがちっともイイ男でもないのも気にならない。「男前」と評される男性が一人も出てこない(笑)んだが、そんなことはどうでもいい。
1800年代のアイスランドの農民の家が蝋燭の灯りだけで、常に薄暗い感触がどんなものか、とか、養母が死を迎える雪嵐の数日間のアグネスの心の中にある記憶、嵐が来る予兆に満ちた風景の描写とか、アグネスの主観で描かれているが抒情的な部分ばかりが先行しない情景に圧倒される…訳者が上手いんだろうけど、死刑囚の回想となると、刹那的で同情を故意に煽るような書き方もあると思うんだけど、決してそうじゃないと言うか…カスも残らないほど乾いているだけ、ではないけど、乾いているいる、と言うか…言葉で言うの難しいな…文章力が凄まじく凄い。
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殺人を犯した女性死刑囚の、刑の執行までの姿を、史実を基に描いている。馴染みのないアイスランドという国の、19世紀の農村の姿が重く、暗く、寒く、そして、人殺しの悪女として冷たい視線に晒されているアグネスの絶望と人生が苦しく、冷たいぬかるみにはまっているような気持ちに。
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アイスランド最後の女性死刑囚アグネスという実話を元にしたフィクション。
1829年、殺人罪で死刑宣告を受けたアグネスは、執行までの間を行政官ヨウンの農場で過ごすことになる。
アグネスを恐れ嫌うヨウンの家族や、アグネスの教誨師となった牧師補トウティとの関わりながら自分のことを話すようになっていくアグネスの心を描く。
アイスランドに関して知識もなく、イメージするものも無いため、最初は読んでも感じるものがなかった。また、アイスランド独特な名前が混乱しやすいところも戸惑う。
それでも読んでいくうちに切なく静かに進む物語に引き込まれていく。
アグネスのまっすぐにひとを愛した思いや、逃れられない身分の違いなどは、国が違っても十分伝わってくる。
心を閉ざしたアグネスにどのように接していけば良いのかと悩む若いトウティにも、人殺しという恐ろしい罪を負ったアグネスへの恐怖や嫌悪を隠せないヨウンの家族にも、大きな罪によって間もなく命を失うアグネスにも寄り添いやすい。
もともとの文章もなのだろうが、翻訳も静かな描写で語られており、物語の雰囲気にあっている。
知らなかった国への興味を引き出させる作品だった。
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実在したアイスランドの女性死刑囚について掘り下げて物語にした小説。
著者自身はオーストラリアの人だけど、アイスランドという場所柄もあってか、明るい話になるわけないのだな。
実話が元なので結末が覆される可能性は低かったものの、それでも期待してた自分。
人の数だけ物語がある、という言葉を、何百回目かに噛み締めたストーリーであったこと。
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今ひとつハマれず。ストーリー的に奇抜だったり仕掛けがあったりする必要性は全然無いし、丁寧な描写は好感が持てるけど、それ以上の何かは一読した限りでは見つけられず
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アイスランド最後の女死刑囚、アグネス。殺人犯の彼女は刑の執行を待つ間、ある農場で過ごすことになる。農場の人々との交流や、自ら選んだ牧師見習いとの接見によって彼女は少しずつ心を開き、その身の上を語りだす。
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舞台は19世紀前半のアイスランド。同国最後の女性死刑囚アグネスが死刑宣告から執行までの間をとある農家で暮らすことになり、その生活を綴った話。
「想像で補った事実」(非常に怪しい言葉ではあるが・・・)と著者の追記にあるように、実際の記録を頼りにそこを推測で肉付けしているもののようだ。
とはいえ、死刑の方法が斧で首を刎ね飛ばすことも、処刑台が四方八方から見える小高い丘に設置されることもきっと事実なのだろう。多分公開処刑ということなのだろうが、たかだか200年前にこんなヤバイことが行われていたというのが驚きだけど、日本も江戸時代なら磔やら火刑やら派手にやっていたわけで、当時は日常(?)だったのかも知れない。
それが当時の常識だったならば、私もこうした死刑を物見遊山で見に行ったのだろうか。それが残酷だという価値観もなかったのだから。
その意味において、この小説で起こっていることは、当時の価値観に照らしてみればごく一般的な、社会の一風景だったのだろう。愛憎劇も含めて。
内容はやはり事実を題材にした小説なだけあって、心を閉ざしたアグネスが最後は世話をしてくれた農家の人々と打ち解け合って心温まる終わり方をする、的なハートフルなオチは望めない。彼女はあくまで不幸な形で殺人に加担し、罪を赦されることもなく恐怖で歯をガチガチと鳴らし、最後まで命乞いをしながら無残に殺される。最後の生活で彼女は救われた等とほろ苦い話で済むのは残された人々だけで(実際に彼女を預かった農場の人々はそれどころではないだろうが)、人生が終了する側との間には決して越えられない壁がある。
殺人犯であろうがなかろうが、人の内面は複雑な者も、そうでない者もいるのだろう。少なくとも小説の中ではアグネスは前者であり、それは作者が意図したことでもある(訳者あとがきより)。
殺人者の境遇について取り上げられ印象に残っているのは、2008年の秋葉原通り魔事件だろうか。加藤という男の不幸な生い立ちがテレビで紹介されていたが、まあそれはそれとして死刑は執行された。まあ親は選べないし、境遇によって罪を軽くし出したらキリがないだろう。介護疲れの殺人などが法的にどう扱われるのかは知らないけど。
世界観にぐっと引き込まれる牽引力溢れる話だった。
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アイスランド、女死刑囚、黒髪……ということで、アイスランド出身のビョークが主人公・セルマを演じたダンサーインザダークと本書を重ねてしまった。ストーリーにも共通するところが多く、読後に残るやるせなさにも近いものがある。アイスランド人名が覚えづらいのが最大の難点。
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アイスランドの事実をもとにした話しなのに 作者がオーストラリア女性と
知ってびっくり。資料を調べるのも大変だったと思うのに・・・
史実を元にしたフィクション、 上手く出来ていると思った。
19世紀半ば極北の貧しい農民の生活 最後の女性死刑囚の生い立ちも
その後の生活の様子も 取り巻く登場人物像も詳しく書かれていて
読み応えがあった。
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どうして読みたいと思ったのか忘れてしまった。図書館に予約したことも忘れていた。我ならすごい忘却力。初読の北欧ものなので楽しみ。
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発せられた言葉は、発する人の価値によって重さが異なる。その「重み」は話の聞き手の固定観念によって変わる。人間にありがちな「決めつけ」や固定観念、その固定観念を押し通す根拠のない結審はどの時代にも存在するのだろう。
歴史や伝承は、当時の権力者(勝者)の足跡だとするのなら、この話は敗者に焦点を当てた魅力ある女性の一生。
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アイスランドに行きたい行きたいと騒いでいた私に知人が教えてくれた本。実在した女性死刑囚を巡る死刑が決定してから執行されるまでの短い一年を描いた作品。
女性死刑囚がどうして死刑になってしまったのか、世間から見た彼女、実際に起こったこと、彼女を巡る人たちが神を裏切ったと敬遠して嫌悪していた彼女のそばにいる間に、少しずつ彼女の人となりを理解し、心がほぐれていく様が丹念に描かれている。その一方で、死刑が覆されない女性死刑-アグネスの心は、表題そのものの「凍え」たままで、どうにもできなかった人生を悲しみながら振り返る。
私を私だと知らない人たち、と彼女が称していた周囲の人間から、最後は少しでも温もりをもらえたのだろうか。
アイスランドの極寒の冬と、束の間の春と夏を彼女の一緒に過ごしながら、寂しさと海の潮と谷間の緑を嗅いだ気がした。