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久しぶりに本の帯に対しわかってないんじゃないかなと思いました。「これって本当にイスラエルの作家が書いたんだろうか?(本谷有希子)」って…これ、イスラエルに住んでいないと書けない小説ばかりですけど。
イスラエルという国にはユダヤ人だけでなく、アラブ人も住んでいて(これはテルアビブ在住の友人から毎度聞かされている)、そうじゃなきゃ安息日が回らない。さらにロシア人、中欧の人々などもいて、とても複雑な社会がある。そんなことがよくわかる。ヘブライ語は読めませんが、カバーを外すとヘブライ語だけの表紙というのはなかなか挑発的です。
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短編よりショートショートよりな短いお話したち。変わってる、というより不条理な世界で生きる人々の話し。戦争と差別(および差別へ恐怖)が色濃い。
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38の短編からなる作品。期待して読みはじめたのだが、ちっとも面白くない。結局、面白く読んだのは「金魚」と「痔」「どんな動物?」の3つだけだった。
海外作品の短編は難しい。
短編が短くても成り立つのは、書き手と読み手が共有している何か、例えば習慣とか価値観とか、文化とか歴史とか、そういうものを、指し示すだけで「ああ、アレのことね、言わなくてもわかる」と通じるから。書かれていなくても通じる何かを共有していないと、思わせぶりなだけでよくわからない、単語や文のレベルでは理解できるのに全体として何が書いてあるのかわからない文章になる。
短編は、特にショートショートのようなものは、短ければ短いほどわかった時の感動は大きい。思わずニヤリとして、これが書ける作者ってセンスいい、それに、それを分かる私もセンスいい、ってなる。反対に、分からないとみじめだ。
この『突然ノックの音が』は後者だった。
先進国に共通の生活様式など、目に見える風俗は分かる。だけど、解説してもらわないとわからないジョークを解説なしで聞いている時の居心地の悪さが消えない。
面白かった3作品について。(ネタバレあり)
「金魚」 あるビデオジャーナリストが、すごくいいことを思いついた。もし金魚があなたの願いをなんでもかなえてくれるとしたら何を願いますか?って、いろんな人にインタビューして集める、というもの。何たる偶然、そして悲劇。インタビューを受けた一人は、本当に願いをかなえてくれる金魚を飼っていて、ただし、残り一つになっている状況だった。その金魚のことがバレと勘違いしてジャーナリストを殺してしまう。最後の願いを使って生き返らせることもできる。さて。
「痔」 ある男が痔を患った。痛みが気になるので痔に耳を傾けていたところ思慮深くなり成功する。反転。ある痔が人間を患った。人間に耳を傾けたところ成功した。
「どんな動物?」 4才の息子のごっこ遊びにつきあえない妻とつきあえる娼婦。世の中には誰かの期待に応えて演じる、ということができる人とできない人がいて、、、という話しをテレビの取材で演じながら書く私。
この3編は私にもニヤリポイントがわかった。わかったのでとても楽しめた。偶然なのか必然なのか、3つともループ構造(入れ子構造)の物語だった。
他の35作品はわからなかった。
わかる人にはとても面白い小説なんだろうなぁ。
あと、著者が映像作家でもあると聞いて納得。シーンの描写が映像的(映画的)。文字で書かれた作品ではあるけれど、カメラワークを感じる描写スタイルで、それが著者の人気の秘密なのかもしれないけれど、私は読み方を指示されているようで窮屈に感じられた。
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イスラエルの作家による38篇の超短編集。
人間の言葉を話す金魚が出てきたりと、意外な展開が繰り広げられる。普通の生活を描いているだけなんだけど不思議感いっぱい。
日常会話にミサイルが出てきたり、親しい友人が自爆テロで亡くなったりする生活感は、それだけで驚きだ。礼儀正しく丁寧に物事を依頼しても、小便を引っかけられるだけ、代わりにピストルを持てば話を聞いてもらえる。そんな世界の不思議さなんだけど、実は僕らの日常もかなり理不尽だよね。
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『一度も会ったことのない、この先も会うこともない女性を思い浮かべようとした。努力し、一瞬、ほとんど思い浮かべそうになった。全身が痛かった。生きているのを実感した』-『健康的な朝』
人生の大半は語られない妄想と美しき誤解から成り立っていると思う。誤解が解けるとき人は安堵するのだろうか。それとも隔絶の余りの大きさに愕然とするのだろうか。妄想が明かされるとき人はそこに真実の重さを見るのか。あるいは暗渠の託つ闇の深さを感じるのか。
唐突さは、時間に依存する概念だろうか。自分には、それが実際の出来事が予想もしなかったタイミングで起こることによってもたらされる感覚というよりも、思ってもみなかったことが明かされることによって引き起こされる感覚であるような気がする。少なくとも、エトガル・ケレットの短い文章を読んで感じる唐突さは、時間と切り離されても唐突であることを主張する。詰まるところ、期待したときに何かが起こらないこと、あるいは期待していないときに何かが起きることは、究極的には時間によって解消可能な心の変化をもたらすだけだが、誤解が誤解であると判明したときに掻き乱された心の動きはいつまでも止まらない振り子のように疑問符を生み続ける。そのいつまでも時々刻々新たに生み出される疑問符が、いつまでも唐突さを鮮明に保つ。
ケレットの短篇には、そんな時間の流れの外に出てしまった唐突さが満ち溢れている。他人が自分とは異なることをこれでもかと思い知らされ、他人を誤解するより先に、自分の妄想を逞しくして安全地帯に逃げ込もうとする気配が迫ってくる。それでも、他人の考えていることが自分の考えていることと余りに異なるからといって、闇雲に排他的になったりはしない。唐突さを無理に力で抑え込まない。抑え込もうとすればその内側で圧力が高まるだけであることは解っている。放置された数多の唐突さはてんでに動き回り、時に算数のように正の符号と負の符号が合わさって消えてしまうこともあれば、いつまでも反対方向にすれ違い続けることもある。その混迷さの中で妄想を膨らませていると、不思議な達観を産みさえする。今まで読んだことのない感覚をケレットは連れてくる。
それを全てイスラエルという場所に起因せしめるのは単純過ぎるだろうけれど、その事を抜きにはなぞれない物事の道理もここにはある。不寛容さのこちら側とあちら側の両方に同じ神が居たとしたら、突然ノックして入って来る他人を拒絶でも歓迎でもない態度で受け入れるようになるのだろうか。その達観の哀しみを思う。
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イスラエルの作家ということで、表題作の『突然ノックの音が』など国の状況と重ね合わせて読んだ。ごく普通に妻と不仲だったり子供が可愛かったりサエない日常を送っていたりするのがある意味根深く感じた。『グアバ』がそういう中で一番うまい。「エドガル」という名前は挑戦するという意味があるそうで『ポケットにはなにがある?』の戦闘的ではない可能性への挑戦がとてもいい。こういうリリカルさがこの作家の魅力だと思った。
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イスラエルの作家、本当に短い短編集。
様々なスタイルの小説、サクサク読めます。おかげで、ついつい後回しにしてしまい、読了までに間が空いてしまった。
一つ一つが意表をついていながら、うなずけるストーリー。良かった!
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作品の出来はまちまちで、もっと厳選して薄くしても(安くしても)いいのでは、とは思ったがかなり素晴らしい作品もたくさんあった。
「嘘の国」「健康的な朝」「カプセルトイ」「金魚」「喪の食事」「 グアバ」等。
著者はイスラエルに住むユダヤ人だが、ユダヤ教を信じている訳ではない。しかしユダヤ教的なものは体に刻み込まれているし、自爆テロなどのイスラエル・パレスチナ問題も日常にある。
こういう作家がこれから新しいイスラエルを作っていくかもしれないと、希望を感じた。
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エッセイ集「あの素晴らしき七年」が良かったので、これは本業の小説の方も読まねば、と思って手にとりました。
どれも短いので、まったくエネルギーを使わずにするすると読めますが、その多くは読んだそばから忘れていき、心に残らないものが多かったです。
というわけで、「あの素晴らしき七年」の方がだんぜん好きです。
「七年」同様、死とか戦争というものが日常にあるということが文章のあちこちに意図せず出てきていて(意図して言及されているのかもしれませんが)、読んでいて、ときどきどうしようもない思いにかられました。途方に暮れるという感じが近いかな。
日本の小説などで「死」や「病気」がラストに用意されていると、なんとなく「安易だなぁ」なんてしらけてしまったりすることがありますが、同じフィクションの中の「死」なのに、自分の受け取り方がケレットの作品を前にすると全然違っていて、いろんな意味で複雑な思いがします。
一番好きなのは、「喪の食事」。
「金魚」「グアバ」「カプセルトイ」「どんな動物?」「青あざ」も好きです。
あとはあまり記憶にないです。
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38編からなる短編集。
面白い作品はもうとことん面白く、読み終ったあとに「うーん」と思わず唸り声をあげてしまうのだが、つまらない作品はどこをどう楽しんでよいのか皆目見当がつかないくらいにつまらない。
それでも面白い作品のその「面白さ」がつまらない作品のその「つまらなさ」を大きく凌駕しているので、全体としては非常に面白い作品集だと思う。
本書のタイトルや、ひとつひとつの作品の短さから星新一のショート・ショート的な作品を思い浮かべる方もいるかと思うが、そう思い込んで読み始めると肩すかしを食らう。
それと、本の帯に記されている内容と本書の内容にかなり食い違いがあるように思える。
本の帯には「こみ上げる笑いとそこはかとない悲しみ」とあり、確かにそのような作品も含まれてはいるが、どちらかというとシリアスでヘヴィーな内容が多くを占めているように思える。
少なくとも気軽な気持ちで読み始めると辛い目に会うように思える。
それと同じく帯にある「これって本当にイスラエルの作家が書いたんだろうか? 私のよく知っている誰かじゃなくて」とあるが、これも相当に違う表現のように思える。
少なくとも僕の知っている誰かはここにはいないし、イスラエルの作家でなければ書けない、あるいは書けても説得力のない凡作に終わってしまうような作品で溢れているように思える。
前出のように、つまらない作品が(少なくとも僕にとってつまらないという意味)が割と多く収められているので、手放しで面白い本とは言えないのだけれど、本書に出会えたことは、幸せだったと思う。
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好み。(妄想の)子供に「今流行ってる仮面ライダービルドのフルボトルやで!」などと買い与えても、その子供はにっこり笑うだけで手に取らない。母親が子供の頃に親戚に貰った外国土産の木製のパズルを毎日ばらしては組み立てている。母親は「またはずしたわ」と思いながらも、来る日も来る日も息子が毎日同じ作業をしていることに不安を覚え、同時に羨ましいとも、こいつにはかなわない、とも思う。とまた妄想を書いてしまいました。この作者の日常生活で起こる何気ない出来事のこだわりが非常によい。木製のおもちゃのように、あたたかい。
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38の物語が収められた短編集。著者の出自は省略するとして、表題作はあまりに不条理な状況に置かれながら、それが現実なのだと受け入れるかのような語り手に、著者の姿が重なる。他に好きだったのは「嘘の国」(自分がついてきたその場しのぎの嘘が全部現実になっているパラレルワールドが存在した、という話。珍しく?ちゃんとしたオチがある)、「創作」(小説を書き始めた夫婦の作品に込められた思いを考えさせられる)、「金魚」(願いを3つだけかなえてくれる金魚のシュールな話)などなど。
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非日常的なもの、心理的なもの、さまざまなテイストの掌サイズの短編集。アイロニカルで結構ドライで、読んだ後、心がちょっとちくっと痛くなるような。
たとえば「嘘の国」。私も結構ウソ付きなので、こんな国があったらほとんど恐怖。母を病気にしたりしたことあったし……。非常に身につまされたが、こんな形でウソを表現したもの見たことなかったので、かなり驚いたし面白かった。
「チーザス・クライスト」。すごく短いのだが、どこに連れてかれるのかわからない流れるような展開が新鮮で何度か読み返した。
「チクッ」。こういう痛そうなのは生理的に苦手なんだけど、ファスナーを開けてくるみ込まれることを想像したらまたドキドキして。
「創作」。この短編の中に四つの物語が入っている。これもくるみ込まれてる。
「色を選べ」。これは辛い。寓話化して書いているだけに普遍的なことだとわかるから。
「ポケットにはなにがある?」。これは詩。
「バッド・カルマ」。怖い。絶対フィクションだと思いつつ、妙にリアリティがある。
「プードル」。ちょっと泣ける。泣いていいのかわからないけど。
「一発」。これもしんどいな。イスラエルの人ってすごう優秀って聞くけど、これが今のアメリカ?
「カプセルトイ」。テロと癌が隣り合わせなのはこの国特有のことかもしれないけど、何か普遍性を感じるのはなぜ?
「金魚」。「嘘の国」に次いで好き。ところで結構ロシア人、ウォッカが出てくるのが少し不思議だったけど、ソ連崩壊後にイスラエルに移ってきたロシア人がいたことをこの本で知った。
「ジョゼフ」。映画の一場面のような緊張感のある一編。
「喪の食事」。三番目に好き。これも映像化するといいのに。ほっとする。
「グアバ」。そうか、グアバに生まれ変わるんだ。思ってもみなかった。
作者の経歴を意識しなくても面白く読めると思うが、イスラエルという国の事情やテロと隣り合わせで生きるということの心理やさまざまな移民のことを知って読むとよりいっそう面白い気がする。そういう「特殊な」背景に基づいた話でありながら、なぜか普遍性を帯びている。日本に日常的な自爆テロはないかもしれないけれど、何かしら似たような社会の切迫感や閉塞感はあって、そういう中で生きていくことへの漠とした不安は共通なのかもしれない。もちろん、自爆テロとはレベルが違うだろうけれども、知らない国の知らない話ではなく、自分ごととして感じることができるのだ、この本に収められた話は。
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一編がこのくらいの長さでこの雰囲気やと何となくバリー・ユアグローと比べてしまうねんけど、比べるとこっちの方が地に足がついてて湿度が高い、ユアグローの方がシュールでドライかな。好みでいうとユアグローやけど、比べればであってこれはこれで悪くない。
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ショートショートと言っていい短編集.
奇想天外な展開,ひねりの効いたあるいは噛み合わない会話,不条理な展開,唐突におわるラスト.盛りだくさんの内容である.私は表題作,「創作」「プードル」「金魚」が良かった.