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長谷川慶太郎氏は毎年年末にかけて何冊もの本を出版されるので、現時点では最新とは言えないかもしれませんが、今年10月上旬に出された本です。他国と比較しての話だと思いますが、「日本経済は盤石だ」という主張も見ておこうと思い、この本を手に取りました。
今までの本との重複もありますが、西ドイツが東ドイツを敗戦国扱いにして統合したという内容は印象に残りました。韓国が北朝鮮と一緒になる場合の参考になると思いました。また、東ドイツが潰れて二年間でソ連が潰れたのは、北朝鮮と中国の関係に似ていると述べている点は、今後注目していきたいポイントでした。
日本経済が盤石としているのは、日本にはまだ「ものづくり」の根幹である、インフラ技術やロボット技術が強いことがポイントのようでした。このような企業が今後日本を引っ張ってくれると嬉しいです。
また、鉄鉱石をほぼ100%輸入している我が国ですが、すでに25億トンの鉄が日本にあり、それを上手にリサイクルして、電炉で鋼を作れば、鉄鉱石が不要になる解説(p121)は興味深かったです。
以下は気になったポイントです。
・中国では、融資平台による私募債形式での債券発行を禁じたので、省政府の支配・管理下にある事業体が筆頭株主である企業を上海証券取引所に上場させ、その株式を売って資金と作ってきた。株式市場が暴落すると、27の省政府は給与支払い不能となる(p24)
・大同市だけで、入居者がほとんどいないマンションが200箇所もある。ニュータウンは建設・計画中もいれて全国に250箇所もある。入居率が極端に低いマンションは全国で1万棟近くあるだろう(p29)
・2015年になって株価の最高値を更新している銘柄が日本には百数十ある、それは内需関連株である(p42)
・カナダでは、2014年2月に外国人に永住権を与える投資移民プログラムの中止を発表した、2015年1月には香港政府、オーストラリアでも一致時停止した(p47)
・日本政府が持っている大きな財産として、石油がある。国家・民間備蓄併せて、197日分にあたる、8070万キロリットルの原油、石油製品がある。備蓄米は350万トンを超える(p51)
・北朝鮮が潰れれば、今度は中国が崩壊することになる。早ければ2015か、2016年である(p55)
・原子炉の溶接部分をチェックするのは、エックス線装置が必要でこれがないと、イギリスのロイズが保険をかけない。これを製造しているのは、三菱電機のみ(p59)
・インフラ整備のためには、世界銀行(WB)が長い歴史を持っている。(p61)
・世界全体の貿易額は年間18兆ドル、90日の支払い猶予を付けるとすれば、4.5兆ドルの資金が必要となる。これを調達できるのは現時点ではNYのみ(p63)
・人民元をSDR(特別引出権)の構成通貨に加えるかどうかの決定時期は、当初の年内から、2016年9月末以降に延期となった(p64)
・人民元は、1980年には、1元=151円だったが、1994年には、12円(米ドルに対しては、82%下落、円には92%)となった(p66)
・ギリシアでは、ATMからの現金引き出しは、1日60ユーロ(8286円)以内に制限された(p74)
・ドイツはユーロを諦めるつもりは無い、ドイツが欧州で覇権を確実にする重要な道具がユーロだから。ドイツはユーロ圏の国をデフォルトさせない(p85)
・東西ドイツの統合の際、統一ドイツは旧東ドイツを敗戦国として扱った、軍隊はもちろん解体、佐官以上は全員クビ、武器もすべて売却、それで海軍を増強したのがインドネシア。(p90)
・八年制の中高一貫校「ギムナジウム」において、統合の際に理系科目を教えていた先生は残ったが、文系科目の先生は全員クビ。外務省は2000人いたが、残れたのは特殊言語を話せた8名のみ(p92、98)
・東西ドイツ統一の際に、旧西ドイツでは左翼が潰されたので、共産党・労働組合・社会民主党もつぶされた。このため賃金決定権が、労働組合から経営側に移り、国際競争力が向上した。フランスは左翼が強くてできなかった(p94)
・ギリシアで公務員があれだけ増えたのは、民間企業が倒産するや、即座に会社を国有化して従業員のポストを守ったから(p95)
・ギリシアの人口は1100万人だが、有権者は990万人、18歳未満の人口が110万人と非常に少なく、少子化が進行している(p96)
・1945年にスデーデン地方がチェコ領になると、そこから250万人以上のドイツ人が追放されたが、すべての財産が没収された。これを恨みに思っているため、チェコはユーロに加盟できない(p100)
・現在のドイツは第四帝国、最初は神聖ローマ帝国(962-1806)、次がビスマルク率いる第二帝国(1871-1918)、第三帝国がヒトラー率いる、ナチス・ドイツ(p103)
・ドイツでは、第四次産業革命を起こそうとしている、第一次が蒸気機関による18世紀のイギリス産業革命、第二次は20世紀初頭、電気エネルギーによるベルトコンベアー、第三次は20世紀後半、コンピュータによる工場自働化、第四次は、通信ネットワークを介した、モノづくり・サービスの高度化(p105)
・日本は、1858年にアメリカと日米修好通商条約(不平等条約)を結んだが、明治政府は同条約を引き継ぎ、1899年日米通商航海条約が発効するまで守り続けた(p111)
・2015年7月、軍艦島、韮山反射炉等、全国八県23か所の「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録された(p112)
・逢坂山トンネルが1880年に完成し、これにより、旧東海道線の大津ー京都間が開業した(p114)
・技術輸出から技術輸入を差し引いた2013年の技術貿易収支は、2.8兆円の黒字。
・発明特許出願世界一としている中国は、2013年、日本から5076億円の技術輸入に対して、67億円の輸出(p117)
・日本はもうすぐ鉄鉱石を輸入しなくても済む国になる、鉄鋼在庫がビルや自動車のかたちで、25億トンもある。その在庫を20年で置き換えると、1年あたり1,2億トンの鉄くずが出る。それを電炉で溶かして鋼にすれ���鉄鉱石が不要となる(p120)
・トヨタは年間、1.05兆円の研究開発をしている(日本一)が、配当金額:0.6兆円をはるかに上回っている(p124)
・GEは、金融事業の大半を売却して、製造業への回帰を図ると発表した(p129)
・航空機用ジェットエンジンのオーバーホールは、普通2000時間間隔で行われるが、IHI瑞穂工場で行った場合には、3000時間運用可能となる。これが強味である(p133)
・日本メーカは依然として、産業用ロボットの世界シェアのトップを占めている。中国市場では、日本企業が産業用ロボットで50%以上のシェア(p134)
・今世紀一杯は、デフレが続く。その最大の理由は、世界的規模の戦争がないから。戦争が起きないので、モノが減らずにダブつく。モノがだぶついていてインフレになることはありえない(p152)
2015年11月15日作成