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著者は、福祉などの公共政策が専門のようだが、学生時代には科学哲学を専攻していたらしい。そのためか、資本主義の歴史を科学史とのアナロジーで論じるなど、難しい部分もある。しかし、人類史を含む様々な分野の書物を紹介して俯瞰的な議論を展開しているので、学ぶところは多かった。
人類史は、拡大・成長の時代と定常化の時代のサイクルを繰り返してきた。農耕が始まって以降の拡大・成長期が続いた後、紀元前5世紀頃に世界各地で普遍的な思想や宗教が同時多発的に生まれたのは、農耕文明が資源・環境制約に直面したことが背景にあり、量的拡大から精神的・文化的発展へ移ったのではないかとの仮説を提示している。現在は、化石燃料を用いた工業化による拡大・成長の時代から定常化に移る分水嶺の時期にあると位置付けられ、資本主義からポスト資本主義の展開と重なる(p1-10)。
透明性や公正性がある市場経済とは異なり、資本主義は不透明、投機、巨大な利潤、独占、権力などが支配し、拡大・成長を志向するシステムと理解できる(p25-28)、ウォーラーステイン「脱=社会科学」)。近代資本主義は、ヨーロッパにおける地理的発展による空間的拡大のほかに、個人が共同体の拘束を離れて独立することができたことや、技術によって自然を開発することができるという思想によって、拡大・成長していった(p36)。
資本主義は、1929年の世界大恐慌を経験した後、経済成長は需要によってもたらされるとして、政府による公共事業や社会保障などの所得再分配を進めることを主張したケインズの修正資本主義によって、大きな成長を遂げた(p47)。GNP統計も、世界大恐慌を受けて、経済成長の指標として開発されたもの(p50)。
これまでに重視されてきた労働生産性は、人手が足りず、自然資源が十分にあることが背景にあった。現在は、人手が余り、自然資源が足りない状況になっているため、環境効率性(資源生産性)の方向に転換することが課題。ドイツでは、「労働への課税から資源消費・環境負荷への課税へ」の理念の下に、1999年にエコロジー税制改革において環境税を導入した。その税収は年金に当てて社会保険料を引き下げたことにより、企業の負担を抑えて失業率を下げて国際競争力を維持した(p145、広井「定常型社会」)。ロバートソンは、共有資源への課税の考え方から、土地やエネルギー等への課税を論じている(p175、「21世紀の経済システム展望」)。
中世に教会やギルド、都市国家など多様な主体が活動していたように、これからは国家が中心の世界から、NGO,NPOや企業など様々な主体が活躍する時代に移るようになる(p63、田中明彦「新しい中世」)。著者は、生産性の概念を転換すること、人生前半の社会保障やストックの再分配、コミュニティ経済の3つの方向をあげて、緑の福祉国家を提唱している(p206)。
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→Xマインド:環境倫理、21レッスンズ
→keynote
◯過剰による貧困(楽園のパラドックス):生産性上昇による失業ー増
◯時間再配分
◯時間政策inJapan:祝日増加←日本の空気
◯市場経済と「時間」
◯長期視座=民俗学×近代科学
◯消費〈物質→エネルギー→情報→時間〉
◯未来の収奪・過去の収奪
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科学主義に落胆し、高度成長時代の活気を経験しながらもバブル崩壊で自信を喪失し、新自由主義的資本主義にもついていけず、グローバル都市で暮らし仕事する人が、田舎(ローカル)ののんびりした互酬互助的で自然と共存するローカル・コミュニティにノスタルジーを見出したようなお話。コミュニティの維持も定住者でできず、コミュニティ機能も弱まり、自立ばかりを要求され、非正規雇用で凌ぐローカルの現実はどうするんだ?
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本書は、現在の資本主義体制が、資源の枯渇や格差の問題などが現れている点を含めて、人類の幸福や精神的充足をもたらしているのかという現状を踏まえ、資本主義とパラレルに発展してきた科学技術が人間にとって何をもたらし、それの資本主義との関係性を探っていくものである。
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資本主義とは何かについてまず考察しており、著者は「市場経済+限りない拡大・成長」を志向するシステム、と定義する。これは利潤の量的拡大による全体のパイの拡大が社会の利益につながるという議論が前提としてある。これを達成するために、個人が社会から独立した存在であることと、人間は自然を支配できることを思想的な出発点としている。
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このような思想を前提とした、資本主義と科学技術の発展を歴史的に概観していくと、「拡大・成長」の時代と「定常化」の時代があることがわかる。現在は第3の「定常化」の時代であり、この時代をポスト資本主義社会としている。
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この社会におけるビジョンとは、これまで考えられてきた思想(=機械的自然観・個人の独立性)が持つ外在的な考え方から、内在的な思想(=個人・コミュニティ・自然を相互依存的な観点で考えること)への変化を求めている。その上で、著者は「緑の福祉国家」または「持続可能な福祉社会」を提案している。これは、格差などの構造的な問題に対して①過剰の抑制 ②再分配の強化 ③コミュニティ経済、の方向性を持って対応する新たな社会構想として、提案し、結論としている。
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2015年副題として科学・人間・社会の未来。
目次として
はじめにー「ポスト・ヒューマン」と電脳資本主義
序章 人類史における拡大・成長と定常化ーポスト資本主義をめぐる座標軸
第1部資本主義の進化
第1章資本主義の意味
第2章科学と資本主義
第3章電脳資本主義と超資本主義vsポスト資本主義
第Ⅱ部科学・情報・生命
第4章社会的関係性
第5章自然の内発性
第Ⅲ部緑の福祉国家/持続可能な福祉社会
第6章資本主義の現在
第7章資本主義の社会化または「ソーシャルな資本主義 第8章コミュニティ経済
終章 地球倫理の可能性―ポスト資本主義における科学と価値
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資本主義の成り立ち、どのようなものかがわかった。これからの視点も論点として述べられており、決して、資本主義に対抗するものではない