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社会学研究のライフヒストリーの手法自体、大きな歴史の流れからこぼれた断片的な個人史を広い集めるものだけど、ここに書かれている断片的なものはその生活史からもこぼれ落ちてしまうような、微かでささいなもの。
本当は、そうしたささいなもので人の人生は成り立っていて、人が物語に乗せて語るもの以上にそこに面白さがある。
断片的なものがただ脈絡もなく置いてあるだけの人生は、失敗したり、裏切られたり何にもなれなかった自分の無意味な人生でもある。
でも、その人生は遠い他の誰かにとっては意味のあるものになるかもしれない。
とても静かな断片的なものの著者の語りは、無数の小石のなかから拾い上げた「この小石」の無意味さの魅力を無邪気に語るようで、とても好きだ。
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ここ最近ぼんやり考えていたことが本の中に同じように書かれていて驚いた。
30代後半になって、いつのまにか自分がマイノリティになっているなと感じながら、しかし、考えてみると人なんてそもそもみんなマイノリティだよなあと思っていたのだ。
明確な結論が出ないままなのも良い。我々生きてるのだから、その最中なのだから、結論なんてないのだ。
(むしろ安易にまとめようとすることの方が、きっと間違いを起こしてしまうのだと思う)
良いフレーズでバシッと決める必要なんかない。
ひたすら逡巡する。しんどいことだけど、それをやめないことが大切だと思った。
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2015年57冊目。
意味を見出すこともなく、ただただ印象に残っているシーンが人生には多くある。
著者はそんな「断片」を愛する人で、そんな断片が静かに散りばめられた本。
分析なきところに価値がないのであれば、この世界の出来事の豊かさは失われると思う。
「意味の前」に、物語は確かにある。
普通の人たちの中に、ありふれた日常の中に、見えなくとも確かに起きている世界中の人々の生活の中に。
そのことに改めて気づかされ、隣の人を、すれ違う見知らぬ人を、今より少し大切にできるようになる、そんな1冊。
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何とも言えない虚無感、だけど少し暖かい。
この本は何も教えてはくれないし、結論めいたことは書かれていない。
人を見る目、ものを見る目の優しさ、孤独感、そしてニヒリズム。
普通に生きている人が、それぞれ普通でない生を生きていること、それが普通であること、そういう世界に生き、かすかにつながっているんだなあと、堂々巡りの思考の中に引きこまれる不思議な本。
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たくさんの人たちの人生の断片。
著者の想い出の断片。
それらはみな思いつきのように語られて、途中で千切れたように終わる。私たちを置き去りにして、解釈されることを拒むかのように。分析や、解釈をされないもの。答えを与えられないもの。そしてそれらをあるがままにとらえて、その傍らに共に居続けること。まるでヴェンダースの「ベルリン 天使の詩」の天使ダミエルとカシエルみたいだ。こんな風に、人の話を聞いてあげられたなら。
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とても良い。この感じ覚えがあるなあとつらつら考えていたけど思いつかずに数日。
さっき焼きそばを作ってる時に不意に思い当たった。ポール・オースターです。ポール・オースターが社会学者のフリをした新作で通りそう。
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エッセイと言っていいのか分からないけれど、とりあえずエッセイ。
今はまだ少ししか分かっていないけど、自分の息苦しさに折り合いがつくかもしれない、そんな気がした。
また時期を見て読み直したい。
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どちらかと言えば、あまり陽の当たらない人たちの生き方との関わりの中から、筆者は今の社会を見つめる確かな視点を得ている。
声高に何かを主張するわけではないのだけれど、その語り口から、わたしたちが忘れてはならないことを指摘してもらえる。
不思議な魅力を持った著作だ。
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帯の「この本は何も教えてはくれない。ただ深く豊かに惑うだけだ」という言葉がまさに。
心の中でなんとなく浮かび上がってくる葛藤を、うまく言葉で表現してくれている。
社会のあり方、社会問題、個人の生き方、人との関わり……それらのものに言及するが答えは出さない。しかしそれでいい。それがこの本の良さだと思う。
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2015.8
答えも結論もない。残ったような残っていないような。だけどなんとも言えないものが心の中から引っぱり出されるような感じ。毎日そんなにすべてがちゃんと収まるところに収まってはおらず、フワっとした感じのまま通り過ぎたり停滞したり。本当はすべてがそういうものの集まりで、あくまで自己中心的にその時の都合で収めているだけなのか。もう一回読みたい。同じ感想かもしれないし、そうじゃないかもしれない。
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すぐそこにあるものの見え方が変わる本。それに良し悪しをつけるのでなく、啓発してくるわけでもなく…自分の生きるサイズを違った視点から考えられる、いい感覚の本です。
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この本は何も教えてくれない。
帯に書いてある通り、著者の日常生活の中の出来事や対談内容を断片的に記録した日記のようなものである。
どこの本屋にも置いていなかったため、Amazonで取り寄せて読んでみたが、イマイチ面白さがわからなかった。
短編集のような作りで、好き嫌いが分かれる作品だと強く思う。
時間が経ったらもう一度読み直してみたい。
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意味を求めたところでなんてことはない人生の断片。拾い上げてみたらば全てがキラキラしてる訳ではないが、ひとつひとつ違う形で、ただただそこに存在する断片。
ふとそれを取り上げてその形を受け止める。ただそれだけのことなのになんだかとても切なかったり癒されたり。
仏教の教えにも似たある種の諦観と、他者との違いや多様性を受け止める視点は純文学的でもある。
「普通であること」を普段意識することはない。壁が高すぎて見えないから。
世の中白か黒か、善か悪か、すべてに分かりやすい正解を求める風潮の中で、何とも意味を付せられない曖昧な感情や物事にただ寄り添うことがもはや贅沢になっている。
答えはない。
どんなに愛する恋人も友達も家族も、頭の中までは遊びに来られないから。自分の「答え」と他者の「答え」は同じものでは決してないのだ。
意味もない。
無理に意味を見出すことが良いとは思わない。でも生きていく上で何か大切なことはこんな断片に宿っているのかもしれない。
感想もなんだか断片を繋ぎ合わせた、意味のあるようでないことばかり。
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読み始めて、知らず知らずのうちに、ご本人のブログを読んでいたことに気づいた。帯に書かれている、「この本は何も教えてくれない。ただ深く豊かに惑うだけだ。そしてずっと、黙ってそばにいてくれる。」が的確すぎるくらいにこの本を表している。筆者が普段出会った出来事や人から考えた、とりとめもない、結論のないこぼれ落ちた一遍のエッセイの集積。でもそこにある、どうでもいいようなエピソード、それがすごくリアリティのある人生。結論のでない、何一つ導き出せないこれらのエピソードが、実はものすごく人間的なのかもしれない。
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著者の言う,「断片的なもの」が書かれている部分を読むのはおもしろかった。なのに,著者の私観が書かれている部分を読むのは何となくしんどかった。なんというか,センチメンタルすぎて,しんどかった。でもたぶん,そういうこともひっくるめて,この1冊のおもしろさなのかもしれない。