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フランスを舞台にした近未来小説。本当にあり得るかもと思わせる設定、流れの緻密さと、そこで生きる主人公の大学教授の生き方に対するなんとも言い尽くせぬ皮肉感。最後の選択の理由はそれなのか?!となるけども、実際そうなのかもな…と思う自分もいたり。この帰結がウェルベックのヨーロッパ的なもの、自由主義的なものに対する正直な印象なのかも。それがいいとか、わるいとかでなく。
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このディストピアはあまりにも唐突すぎる。イスラームとこのディストピアを結びつける説明がまったくない。
この部分がこの小説のトゲ。
以下引用
チェスタートンとベロックが導入していた政治哲学の根本的な要素のひとつは「補完性原理」だった。その原理によれば、どんな実体(社会的、経済的、政治的)も、それより小さい単位の機関に任せうる機能を担ってはならない。教皇ピウス十一世は、回勅「クアドラゲシモ・アンノ」にて、この原理に次のような定義を与えている。「個人企業や工場が達成しうることを個人から取り上げて共同体に与えるのが良くないことであるように、より上位で大きな組織が、より下位の小さい単位によって効率よく実現されうる機能を剥奪することは、不公平で、真剣な悪であり、あるべき秩序を妨げる」。ベン・アッベスが思いついた新しい機能とは、この場合「あるべき秩序を妨げる」のは、国という大きすぎる単位による割り当て、つまり社会保障そのものであるという内容だった。p202
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近い将来、この本に書かれている展開は全世界で、とりわけ閉塞感で息詰まる寸前の日本でも起こるかもしれないと肌で感じさせる小説だ。日本人の一部はそれを恐怖と思い、他の一部は期待に胸を震わせるのなら、すでに日本社会は、また価値観は断絶しているのである。金属疲労したすべての資本主義社会への警鐘か。
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近未来を扱ったフィクションだけど、とてもリアルな感じがする作品。
この本にあるように本当にイスラーム政権がフランスで近未来に登場するとは思えないです。ですが、次のような点で本当に起こりうる未来の描写であるように個人的には思われます。
昨今、アメリカでのトランプ氏の台頭や、ヨーロッパでの反移民・極右勢力の躍進など、これまで欧米諸国が自らを誇ってきた自由や平等、人道主義的な価値観はかなり崩壊しつつあるように端からみていると思います。そしてそういった価値観を信じ守り続けている人たちにとっても、本書の極右代表と(穏健だが)イスラーム代表の決選投票というような、まさにどうしようもない選択をせまられる未来と言うのは間近に迫っているような気がします。そのような選択を迫られたとき、民主主義というこれまで絶対的であった価値観にも崩壊が起きたと感じそうな気がします。
自由や平等、人道主義、そして民主主義など、これまで誇りに思ってきた価値観が次々に崩壊したときに、欧米の人たちはどのような気持ちになるのでしょうか。その一つの大きな可能性として、まさに「服従」、従う・信じることによる心の安寧、を著者は提示しているように思われました。
また、自分にも通じますが、現代社会に生きる人間がふとした瞬間に感じる虚無感もうまく描いた作品だなぁと思いました。
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イスラムの政権ができる
軽犯罪が減る 失業率が現象(女性の退場) 家族手当上昇 教育費を当てる 義務教育は12歳まで 職業教育が奨励 中等高等教育は私立へ
2番目の妻を娶る
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文学だけが死者の魂と最も完全な、直接的で深遠なコンタクトを許してくれる。友人との会話においても全くありえない性質のもの。
自分に似合った本とは何よりもその著者に親近感を抱いている本。その著者に何度でもあって一緒に時間を過ごしたいと思う本。ユイスマンスのユーモア。懐の深い独特なもの。読者が著者をからかうことで成り立っている。
家庭教師のバイト。知性の伝達はほとんどの場合不可能。
イデオロギー対立なのだろうな。。。この退廃的空気、不快である。なぜある人はこのように人をもののように扱って書くことができるのだろうか....ぞっとするな。そしてこのようなタイプの人とかかわらないためにはどうすれば良いのだろうか、と考えずにはいられない。退廃、無意味感、そしてうっすらそこにある経済的貧困....、と同性愛差別。なんだろうな、この恋愛依存症系の文章。とても具合が悪くなるから読みたくない。テーマ選択は途中までよかったのに。いい歳して精神的に自立しろ、と思ってしまう。
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数ヶ月積ん読しておいたものを眠れなかったので一気に消化してみたが、うーん、話題になった程の真価を感じることは難しかった。
そもそも自分の中が自分はウェルベックの作風(とされている)扇情的・快楽的なものに対して本心はどうあれ表向きは否定的な気持ちが先立ってしまい、あまり好感が持てないままだった。
前半のifストーリーはシャルリーエブドや昨年末の事件のこともあり非常にリアリティがあって楽しく読めた。だけど結局は主人公が改宗した理由、世間が迎合した理由も作中でイスラムが真に戦うべきとしている物質主義の極みみたいなところにあるあたり、結局展開に無理があるように思えてしまった。
物質主義は物語の中でも克服されないままであり、一部のインテリジェンス層を除き作中の庶民や欧州は真に服従したとは言えないのではという疑問は最後まで解消されなかった。これ絶対、今後数年で新しい格差に対する不満が出てきて同じ瓦解が生まれるやつや。
ただまぁ、ifストーリーとしてこれが欧州でとてもウケているという事実込で読むこと自体はとても面白かった。「半島を出よ」みたいなノリで捉えるのが正解だと自分の中で落とし所をつけることはできたのでそれで良いかな。
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内容自体はそれほど読みにくい小説ではないけれど、固有名詞が多すぎて(特にフランスに関する言葉)、広く一般の人に読まれようとは、つまり、世界中の地域においてリーダブルな読み物を作ろうとは、特に考えていないのかな、という印象。これ、みんなスラスラわかるのかしら。僕だけわからない・・・?
フランスでイスラーム政権が誕生する物語。ユイスマンス(そもそもこの人を僕は知らない)の研究者であるフランソワの生き方をたどる。インテリである彼が、ゆらゆらと国家の力に流されていく様子には、なんだかものさみしさと悲しさを感じた。
穏健なイスラーム党が政権を握った。イスラームについて、もっと知りたいなと思わされたのが、p251~の『O嬢の物語』のところである。
「とにかくわたしにとっては、『O嬢の物語』に描かれているように、女性が男性に完全に服従することと、イスラームが目的としているように、人間が神に服従することの間には関係があるのです。お分かりですか。イスラームは世界を受け入れた。」
人間の幸福が、服従にあり、その視線の先には、絶対的に超越する「神」の存在があるーこれはイスラームの考えの1つなのだろうか?
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2020年のフランス大統領選においてイスラーム政党が政権を握り、イスラームによる政治が始まる、とうこの小説が、まさにシャルリー・エブドのテロ当日に発売されるという偶然によって否が応でも世界の注目をあびることになる。現在のフランス社会の状況や、フランスの近代思想史、イスラームの影響力への実感といった知識がないとなかなかわかりにくい部分もあるので、佐藤優氏の解説がかなり理解を助けてくれた。ヨーロッパがギリシア危機などによってEU統合の夢から醒め始め、イスラーム系勢力に対して自信を失っているという指摘には肯首せざるを得ない。同じ一神教であるキリスト教がその求心力を弱めているのに対し、イスラームはますます強力かつ広汎にその勢力を伸ばしている。単純に世俗的な欲求が満たされると信仰を必要としなくなるということなのか、近代資本主義的な思想のもとに生きてきた主人公をはじめとする多くのフランス人達は、イスラームによる攻撃に対して悲しいほどに無力である。
神も家族も他人も信じないシニカルな現代人たる主人公は、この政変に伴い、イスラームに改宗してゆくが、その過程は暴力も神の啓示もなく、ただ彼の空虚な内面と、西欧文明の脆さだけがその理由であるように見える。それにしても女子学生や娼婦とのセックスの他にすることがないかのような主人公の虚無的なことといったらない。そんな凡庸な人間こそが、このように転向してしまいがちなのかもしれない。
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フランスでは特にシャルリ・エブド事件のその日に発売されたことで注目されたとのことであるが、むしろその後のパリ同時多発テロの方から、この本が予言的と言われたということで興味を持ち読んでみました。
文学的なあれこれを小難しく書き連ねていたり(作者がインテリであることを誇示したいだけ?)、おそらくはフランス人またはフランス在住でないとわからないだろうと思う描写も多くて、そんなところがいかにもおフランス的で辟易したものです。
しかしながら、フランスにイスラム政権誕生!というこの小説を、予言的と簡単に言ってのけるにはあまりにもリアルな描写がところどころにあり、ぞっとしました。これはあくまでもフランスでの話ですが、多数の難民がなだれ込んでいるEU全体のどこの国で起きてもおかしくない内容だと思います。
難民が暴力的問題を起こさず、ひっそりとおとなしくしているのなら拒まず限りなく受け入れるのか?そしてその後は?国内の人種別人口比率が変わったらどうなるのでしょう。その点は日本だって他人事じゃありません。恐ろしい話です。人口が減っているからといって移民受け入れを解決策とするのは考えがあまりにも愚かすぎると思った本でした。
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インテリ向けのサスペンスって感じ?(昨日が誕生日だった)ユイスマンスを知らないと半分も理解できないかも。(知りませんでした(-_-))十分起こり得そうなお話だし、こうやって社会はいつの間にか劇的に変わっていってしまうという暗示的な話。
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もしもフランスにイスラーム政権ができたとしたら。
本書が発売されたのは、パリで起きた大きなテロの記憶も生々しい頃で、リアリティがあり過ぎて「凄い」「怖い」「予言のようだ」と評判になった。
信じるもの、普通だと思っていた価値観が根底から覆される感覚。
正直、私自身はその価値観を受け入れることに直感的な抵抗を覚える。文章に注釈が多く言い回しが独特。佐藤優さんの解説を先に読み、ようやく読了。
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面白かった。以下概略の説明。
・・・人間至上主義、自由競争主義に陥った現代社会が人間たちをどこへ運んだかというと、終わりなき欲望の絶海、機能不全に陥った家族制度、つまり文明退廃への道筋であった。人は何処まで行っても自然に隷属していて、逃れることはできない。自然から切り離されることは死を意味する。それを自覚させる最良のシステムが宗教、それも一神教の長、イスラームである。現代自由民主主義、宗教改革以降のキリスト教、共産主義、資本主義、ニヒリズム、無神論…地上にはいくつもの、人々を救うための様々な思想や実践的な手法が開発されたが、それらは結局人々を救う最良の方法ではなかったことを作中のムスリム知識人たちは論理的に説得する。キリスト教社会の中心地フランスで、イスラームがなぜ勃興したか。なぜ民主的占拠手続きを経てイスラーム政党が与党となったか。彼らはそれらの理由を極めて平和的に訴える。
これは最終的に、一人の無神論者がイスラームへと改宗するに至る物語なのだが、世俗的な描写が多くて、男がイスラームに転向する理由もひどく物質的である。しかし、それがかえって男の精神世界の向上を助けるのだから、面白い。結局私たちはどこへ向かえばいいのか?という問題に対して極めてリアリティのある回答を提示している点で、この小説はわたしたちの心へ強く訴えかける説得力を孕んでいる。
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フランスにイスラム政権が誕生したら ー これって一種のディサトピアもの?
ごく出だしは、国民戦線vsイスラム同胞党に、UMPと社会党がどう絡むよ、みたいな展開も期待できた。けど結局、かなりの部分が主人公周辺の些事に終始する話なので、世界観/国家観をどうこう言うには客観性を欠くけど。。。少なくとも、陸続きの隣国がガッツリありぃ、EUの存在もありぃの現代フランスで(正確には設定2027年、近未来)、もう少し国外からの介入があると思うなあ、現実的には。
個人的には、20年振りに訪ねた修道院で修道士が自分を覚えていたことに修道院の生活にはいかに「出来事」が少ないかが偲ばれるシーン、が印象的だった。
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価値観は、一夜にして崩れることがある。日本が戦争に負けた途端、大人たちは豹変し、アメリカ流の民主主義を礼賛した。もしその当時、自分が大人だったら、どのように軍国主義と民主主義に折り合いをつけただろうか? そんなことを、思ってしまう本だった。