投稿元:
レビューを見る
小川洋子さんの世界観はとても好きなんだけど、今回はあまり入り込めなかった。母親に共感できなかったせいか……?!
投稿元:
レビューを見る
確実に歪んでいて、それでもどこまでも正しい世界。
そこでは母の言葉は教義であり、法であり、姉の言葉は知恵であり、弟の言葉は世界の外への好奇心であった。
そして、自身の言葉は生きるよすがであり、希望だった。
もともと(社会的に)父を持たない兄弟は、きっと戸籍もなく、存在自体が「ない」のだろう。それが妹を亡くし、父に捨てられ、古い名前さえも失う。そして辿り着いた先の家で新しい名前を獲得し、やがて(宝石としての)新しい肉体を獲得する。
ここから少し物語の雰囲気は変わり始めているように思う。何より、従順な法の番人だった姉が禁忌を犯すのだから。
これは「喪失」の物語として読まれるのだろうけれど、
名前も肉体も持たず母の言いつけだけを絶対として生きてきた彼らが、
やがて名前を手に入れ、肉体を発見し、自我を獲得し、母を克服するという、自己「獲得」の物語としても捉えられるのではないだろうか、と思う。
そう考えるとこの物語自体が「琥珀」という少年の自分史であり、従って、
母も、姉も、弟も、妹も、本当にいたのだろうか、という気がしてしまう。
もしかしたらすべてが、彼自身が図鑑の中に閉じ込めた想像だったのではないだろうか。
けれど、現実として描かれている「現在」の世界で「弟」の消息が語られていることで、やっぱり彼らは本当にいたのだと漸く納得できた。
投稿元:
レビューを見る
なんて静謐な世界
美しい?
小川洋子さんの創り出す世界に入り込んで
息苦しくなってその度に本を閉じる
でもまた入り込む
なんて哀しい母と子供たち
表紙の世界なんですね
こころに留まりそうな本でした
≪ オパールも 瑪瑙琥珀も またたいて ≫
投稿元:
レビューを見る
静かで穏やかな暮らし。
他人から見たら異常な生活なのかもしれないが、ゆっくりと流れる時間、あたたかな姉弟たちの愛情は幸せだったというのに。
独特の世界観に引き込まれます。
投稿元:
レビューを見る
一般的に見ると虐待である。
小さな世界に子供たちを閉じ込めた母親。母親の悲しみが生んだ世界に生きる子供たちは、その内側に違和感なく馴染み生活してしまう。
閉じ込められた中で閉じ込められなかった子供たちよりもはるかに想像力を働かせ、空想の中で生きる。
そうしないと生きていけない。
美しくもありグロテスクな世界が丁寧に描写される。
虐待に見えない虐待が描かれている。事件と言ってもいいのに、内側で過ごしていた3人は幸せそうに見え、虐待には見えない恐ろしさ。
もちろん、こんな内側の世界を押し付けた母親には共感できない。
それにしても、こんなふうな狭い内側の世界を書けるなんて、さすが。小川さんらしさが存分に出ている。
投稿元:
レビューを見る
小川さんらしい、静かで不思議な物語。
主に、子供たちの家、庭の中だけで
展開されるのに、なんとも壮大で
奥深い世界観に、ただただ驚かされるばかり。
うっとりするような完璧な
琥珀たちの生活なのに
現実社会から見たら
ただの虐待でしかないのが
せつない。
限られた空間や物、だらこそ生まれる何か。
静かに丁寧に語られる琥珀たちの冒険だからこそ
心の奥深くに残るのかもしれない。
投稿元:
レビューを見る
オパール、琥珀、そして瑪瑙。
生まれた時につけられた名前を捨て、古びた別荘で母親とひっそりと暮らしている3人の子供。
外の世界と遮断された小さな世界で子供たちは不自由な事を不自由とも思わず、自分たちだけの楽園を作り上げている。
小川洋子の独特の世界観がぴたっとハマる時もあるけれど、今回はずっと違和感を感じたままで終わってしまった。
美しいと表現されることが多いその世界も、哀しさ、切なさ、痛々しさが先行してしまって気持ちの整理がつかなかった。
壁の外に出ることも大きな声を出すことも固く禁じられ、小さくなりすぎた洋服を着せられいつまでも母親のお人形でままでいる子供たちの姿を美しいとはどうしても思えなかった。
もっと悲しいのは母親の心の闇。
おそらく一番下の子を喪う前から少しづつ壊れ始めていたのだろう。
3人の子供たちは外の世界に救いだされてからも幸せだったのだろうか。
離れ離れにならざるを得なかった彼らの人生を思うと何とも言えない気分にさせられた。
投稿元:
レビューを見る
まず,名前のセンスからして素敵だ.オパール,琥珀,瑪瑙.これだけでもワクワクするのに,閉ざされた屋敷で,秘密の世界が営まれている.静謐で濃密な時間の流れる物語のような6年.琥珀の作る図鑑に描かれた作品の不思議さ,オパールのダンス,瑪瑙のオルガン,夢のように美しい.
投稿元:
レビューを見る
母親に長年軟禁されていたオパールと琥珀と瑪瑙だが、壁の中という閉ざされた空間の中で、豊かな時間を過ごしていた。琥珀の左目に隠された、果てしなく深い地層の中にゆっくり沈んでいくような、とても静かな物語。さすが小川洋子さん、という雰囲気。好きだなぁ。
投稿元:
レビューを見る
美しい装丁に心を奪われる。
モノクロとセピアが入り混じったような、古ぼけた図鑑をそっとめくっていくような心の動き。
本当はカラー刷りの装丁なのにそう思わせるのは、それが著者のもつ文体の魔術だからなのか。
それとも、私たちが秘密の庭に自ら閉じ籠ろうとするからなのか。
彼女たちはひっそりと暮らす。
子供たちは母に促され、新しい名前を選ぶ。
オパール、琥珀、瑪瑙。
子供たちは母と、そして幼くして亡くなった妹の幻影と暮らす。
寂しくなどない。
いろいろな遊びを彼女たちはかんがえだす。
ひっつき虫を投げてみたり、踊ったり、ロバを愛でたり。
小さな声で語られる小さな家族の物語。
その愛はいびつではあるけれど。
物語は過去と現在を行きつ戻りつ、ある方向へ向かっていく。
「彼が助け出された」
この言葉の意味を知りたくて、ゆっくり流れる時間を急かして読み進む。
愛すること、守ること。
自分が正しいと信じて疑わないこと。
この物語は愛の複雑さを感じずにはいられない。
母は、なぜ彼らを隠し続けたのか。
それは、これが愛だと彼女が信じたから。
大切なものを守りたかったから。
大事な、自分の宝石をずっと手元に置いておきたかったから。
良い母親とは言えない。
真似したいとも思わないし、同情もできない。
だが、自分のしていることが正しいか、正しくないかなど、どうして他人に分かろうか。
あくまでも、多くの人が賛同できるかどうかで「普通の」価値観は決まる。
子供たちにその人は祈りを捧げる。
だから私もそっと祈ろう。
何に対してかは明確ではなくても。
投稿元:
レビューを見る
小川作品には、設定がショッキングだったりスキャンダラスだったりするが、その中でひっそりとした繊細な世界が描かれるものがいくつかあり、これもその系列と言える。「ことり」はすんなり読めたが、「人質の朗読会」はあまりに設定がつらくて消化できなかった。
で、本作だが、うまく世界に入っていけなかったという感じ。それでも、美しいイメージが広がる場面が随所にあり、そこは堪能した。琥珀が作り出す「一種の展覧会」の躍動感がすばらしい。
投稿元:
レビューを見る
この小説を一言でいうと「不穏」かな。もし映画になったら、エンディングは鬼束ちひろの「僕等 バラ色の日々」なんかいいかも。小川洋子の世界観と「LAS VEGS」の鬼束ちひろの楽曲観は親和性が高い気がする。
投稿元:
レビューを見る
閉ざされた世界での生活が、不思議で幻想的でワクワクした。
外の世界から見たらこれは「監禁事件」で、然るべき措置がとられたわけだけど、違和感というか戸惑いが残る。
こんなに三者三様の個性と才能があって、いつも協力して色んなものを想像したり実際に行動したりして、羨ましいくらい豊かな生き方に見える。
けど、やっぱり正しくはない。
学校にも医療機関にも行けてないし。服はサイズアウトしてボロボロだし。保護されるべき状況にある…。
どんなに考えたところで、部外者である自分の見解なんてお門違いでしかない気がしたけど、第一発見者の女性が導いてくれた。
状況を考えてもやもやするより、いま見える部分をまっすぐ見たらいい。
投稿元:
レビューを見る
著者らしい、緻密で不穏な美しい世界。その小さな世界に閉じこもっていることは甘美ではあるが、閉塞感が息苦しくも感じられる。平和な時代はそれを愛でていてもよかったが、「戦前」の今、現実逃避に感じられる。
投稿元:
レビューを見る
+++
魔犬の呪いで妹を失った三きょうだいは、ママと一緒にパパが残してくれた別荘に移り住む。そこで彼らはオパール、琥珀、瑪瑙という新しい名前を手に入れる。閉ざされた家の中、三人だけで独自に編み出した遊びに興じるなか、琥珀の左目にある異変が生じる。それはやがて、亡き妹と家族を不思議なかたちで結びつけ始めるのだが……。
+++
アンバー氏と私のふれあいのなかで、アンバー氏が過ごしてきたいささか浮世離れした不思議な日々が語られる。常軌を逸した母親の児童虐待の話し、と言ってしまえば身もふたもないのだが、そのひどく外界から隔絶された毎日の中で、三姉弟は母の留守中に自分たちで遊びを作りだし、豊かな情感を育んでもおり、世間的に見れば歪んだ形ではあるが、母から愛情も注がれて暮らしていたのである。彼らがしあわせだったのか不幸せだったのかは、他人には何とも言えず、彼らにしかわからないことなのだろう。なにもないがとても豊かで、冷え冷えとしながらあたたかな印象の一冊である。